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呪われたもの  作者: ありま氷炎
第八章 贖罪
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 眠れない…

 こんな時に眠れるわけないじゃない!


 (ラン)はがばっと体を起こすと、ベットから床に降りたつ。痛みに顔をゆがめながら、数歩進み、眩暈を覚え、その場に座り込んだ。


 悔しい…!


 藍は何もできない自分に苛立ち唇を噛む。

 お腹にも力が入ったようで、傷口が開いたような痛みが走った。



 一刻前、(キョウ)が尋ねてきた。

 そしてある計画を話した。


 それは斬首刑が決まった空を救出する作戦であり、怪我人である藍は実行者から外されていた。


 藍が手伝えたのは結界を張るための結果石作りだけであった。結界石とは普通の石に結界を張るための文字を書く作業で藍ほどの実力者しかできない技だった。

 結界石はソウによって、斬首刑が行われる場所の四隅に配置され、その後二人は典と合流したはずだった。


 床に座り込んだまま、ばんっと藍は床を叩く。すると拳が赤く腫れた。そしてやはりお腹の傷が開いたのか血が着物を赤く染めていくのが見えた。


 さっき、結界石を作る時に気を使い過ぎたんだ。

 あれくらいで傷がまた開くなんて、なんで私こんなに弱く…


 自分に苛立ちを覚えたが、その感情も長く続かなかった。ぐわんぐわんと眩暈が始まり、藍はその場に前のめりに倒れた。




 門番を警備隊長が少し離れたところに呼び出す。

 少年はその隙に馬で門を駆け抜ける。走っている途中で背中の男が落ちないように、お互いの腰を紐で結び付けていた。少年は手綱を握りしめ、馬を力いっぱい走らせる。


 強は草の姿が宮から遠く離れたところで消えたのを確認すると、門番の肩をぽんんと叩く。青年は先ほどまで警備隊長に怖い顔で睨まれ、注意を受けていたのでびくっと体を揺らせた。


「もう、持ち場にもどっていいぞ。今後からは気をつけるように」

「はい!」

 門番は深々と強に頭を下げると慌てて門に走って行く。青年が草達が出て行った様子に気がついた様子はなかった。ただ、警備隊長の視線を感じ、体を強張らせて、門の前に勇ましく立っていた。


 すまんな。


 強は若い門番に多少小言を言いすぎたかと苦笑しながらも、草達が無事宮を出たことに安堵していた。




「お前が身代わりを買って出るとは思いもしなかった」

「そうですか?」

 紺はふわりと笑った主を睨みつける。

 主――空の姿をしている男は宮の呪術司だ。帝の願いだと身代わりを申し出てきた。

「失敗したら死ぬぞ」

「失敗はしませんよ。それとも自信がないんですか?」

「そんなことはない。ただ俺が裏切ったらどうする気だ?空様が無事に脱出できた今、俺はもうこのまま死んでも構わぬ」

「それは仕方ないことですね」

 そう言って主の姿をした男は主と同じ笑みを浮かべる。

「……おかしな男だな」

 (コン)は眉をひそめると、顔を背ける。

「15年前、私は過ちを犯しました。それをずっと悔いていましたが、それが過ちではなかったことが最近やっとわかりました。おかげで心は穏やかで、いつ死んでも構わないのです」

「ふん。安い命だな」

「それはお互い様でしょう」

 典は紺の皮肉に再び空がするような笑みを返す。

「あなたに私の命を預けましょう。生きるも死ぬもあなた次第です」


 牢屋内はしんと静まり返っていた。牢屋の見張の兵士は典がかけた呪いであと一刻は眠り続けるはずだった。




「藍殿?!」

 門から離れ、一人部屋に置いてきた藍の様子が気になり、医部を訪れた。そして彼女の部屋の前に来て、扉を叩く。しかし反応がないので、そっと扉を開けて中に入ると床に倒れている藍は発見した。

 抱き起こして、その名を呼ぶ。青白い顔の若い呪術師はうっすらと目を開けた。

「強様?私……。草くんは?」

「大丈夫だ。無事外にでた」

「よかった……。後は明日の…」

 藍はそう口にすると目を閉じる。

「藍殿?藍殿?」

 呼んでみたが反応はなかった。抱えた腕に血がべっとりとつく。

「傷が開いたのか!」

 強はぎゅっと抱きしめると、その小柄な体を抱きかかえ、立ち上がる。

「藍殿。死なないでくれ。頼む」

 男前の警備隊長はかすれた声を絞り出すと、部屋を駆け出る。そして医所が休む部屋に向かった。

 腕の中の藍の呼吸が徐々に弱まっている気がして、強は焦りを覚える。

「強様?」

 ふと声が聞こえ、男は階段途中で足を止めた。

「藍殿。すぐに医所に見せる。安心しろ」

 男の言葉に青白い顔で藍はにこりと笑う。


 強はぎゅっと腕の中の存在を抱きしめると再び階段を駆け上り始めた。


 なくしたくない。

 絶対に!

 藍殿!


 警備隊長はその必死な想いを胸に最上階にたどり着く。

「医所!」

 扉を足で蹴破り、男が部屋の中に入る。

「お願いだ。この子を助けてくれ!」

 背を向けていた医所は乱暴に部屋の入り込んだ者に驚きの表情をみせる。しかし、男と腕の中の患者の様子を見て、すぐにベッドに運ぶように指示をした。



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