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呪われたもの  作者: ありま氷炎
第八章 贖罪
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 宮に着いたクウコンはすぐに帝の前に連れてこられた。

 しかし罪人としての二人は、帝の部屋ではなく、軍部の取調室で帝に会うことになった。二人を囲み、自害した内所ないどころを除く、すべての所司しょしが集まっていた。


 将軍は眼光を鋭く、二人を睨みつけ、帝は痛みをこらえるような表情をしていた。帝――カイはこんな空の様子を見ることに耐えられなかった。弟のように可愛がってた叔父には宮から離れ、穏やかに生きていて欲しかった。


「空様。なぜこうして私が兵を差し向けたかわかりますか?」

「ええ。もちろん。僕が帝を殺そうとしたからでしょ?僕は否定しないよ。帝を殺して、宮を乗っ取るつもりだったからね」

 空は将軍の問いに笑みを浮かべながら答える。それは将軍の神経を逆撫でし、その眉が怒りで痙攣する。

「それではご自分の罪を認めるのですね?」

「ええ。打ち首でもなんでもお好きなように。僕は前々帝の息子として、現帝の暗殺を目論んだと、この国の歴史に名を残すのが楽しみなんだ」

「!空様。それでは、この国の法と武力を司るものとして、あなたを斬首刑に科します。帝、よろしいですね?」

「わしは反対だ。空は私の叔父だ。宮での彼へ扱いは身に余るものがある。それを考慮すれば、彼が宮に対して、わしに対して恨みを持つのはしかたがないことだ。わしは斬首刑ではなく、流刑を勧める」

「流刑?冗談を。海。僕はもうたくさんだ。君の同情など受けつもりはない。流刑などにしてごらん。僕はまた力をつけて、君を狙ってやる」

「空様!なんということ!」

 将軍は、せせら笑いながらそういう空に、殴りかかりそうな勢いで叫ぶ。元から空のことは好きではなかった。黒族とは思えぬ態度、その疑わしい身分。この機会に消えてほしかった。

「帝様。宮の安全も考え、空様を斬首刑に処すべきです!」

 それまで黙っていた書所しょどこころが、空の態度に痺れを切らし、そう口にする。すると他の所司も口々に賛同する声を上げ始めた。

 呪術司は皆の興奮した様子をみながら、一人冷静に状況を見ていた。空は笑顔を浮かべたまま、将軍を見つめ、それがまた所司達の怒りを買っているようだった。

 帝は青ざめた顔をしている。こうなると帝は皆の意見をきき、斬首刑に同意するしかなかった。

 

 状況は典の予想通りだった。このことは帝にも可能性として伝えており、斬首になった場合でも自分が空を救出すると帝に約束していた。


 帝の黒い瞳が確認するように呪術司に向けられる。宮の美しき呪術司は静かにうなずいた。


「皆の思いはわかった。空に斬首刑を科す」

 帝の言葉に空はびくっと体を揺らした。望んでいたこととはいえ、幼いころに慕っていた兄のような存在に死を言い渡されるのは思ったより辛いことであった。

 

 そうして空には斬首刑が科せられ、明朝に実行されることになった。




「空様」

「何、紺?」

「なぜ、死を選ぶのです?」

「なぜって、もう疲れたからね。生きるのに疲れた」


 空はそう言って与えられたベッドに横になる。


 空と紺は同じ牢屋に入れられた。木製の牢屋は力を使えば簡単に逃げることができた。しかし、空はそれを望まず、ただ死を願っていた。


「君も馬鹿だね。逃げればいいのに」

「あなたを一人置いておくわけにいきません」

「馬鹿だね。母上も呆れていると思うよ」


 主は寝返りを打ち、紺の方に向き直るとくすっと笑う。


「空様。逃げましょう。リンもそれをきっと望んでいます」

「凛か……」

 愛しい女の名を聞き、空は柔らかい表情を浮かべる。

「凛には僕とは関係のない人生を送ってもらう。凛が戻ってきて、このまま一緒に逃げ続けようかと思った。しかし、彼女の人生を僕のためにつぶすわけにはいかないだろう?僕の人生は終わった。思えば、生まれてきたのが間違っていたかもしれないな」

 主の自虐的な笑いを見て、紺は胸を痛める。


 やはり死んでほしくないと願う。

 気を失わせて、宮から連れだろうと紺は決めた。


「空様。申し訳ありません」

 坊主頭の男はそう言うと、ベッドで横になる主に近づき、その頭に触れた。

「こ…ん」

 空は目を見開き、その名を呼んだがすぐに気を失う。男は気を使い、主の意識を奪った。数刻は目覚めないはずだった。


 一生逃げる覚悟をしていた。

 空が生きつづけることはその母、ジュンの願いだった。

 男は潤を愛していた。

 そしてその子供も同様に愛していた。


「紺殿。逃げるつもりですか?」

 不意に声がかけられ、紺はぎくっと牢屋の外に目をやる。そこには金色の髪に緑色の瞳を輝かせる男が立っていた。





「お前は?」

「間に会ってよかった。どこかにいってもらうと困るからね」


 凜は目を覚ますと屋敷が静まり返っているのがわかった。気分の悪さから空に薬を盛られたのがわかった。屋敷中を探し歩き、男の姿を探した。

 しかし見つからず、凜は屋敷から離れ、空の行方を探そうとしていた。


 そして庭に出た時、空から二人の男女が降りて来るのが見えた。男は軟派な顔立ちが目立つ東の呪術師、女はきらびやかな着物を羽織り、造形の整った顔の宮の呪術師であることがわかった。


「何用だ?」

「凜、冷たいなあ。昔一緒に呪術部で修行していた仲なのに」

 賢が凜に笑いかける。その背後のミンは嫉妬のためか、顔を曇らせる。南の呪術師は刀を抜くと男を睨みつけた。

「用事がないなら。さっさと道をあけろ。私は忙しい」

「怖いなあ。さすがに氷の呪術師だ。明ちゃん、典から言われてるんだ。凜をここで足止めする。わかったね?」

「はい」

 恋人の言葉に金髪の巻き毛の美しい呪術師は頷く。

「呪術司か。何をたくらんでるのだ?」

「事が終わったら話すよ。今は話すことはできない」

「ならば、力づくで話させてやる」

 凜はその青色の瞳を閃かせると刀を構えた。

「そう簡単にはいかないよ」

 対する東の呪術師も同様に刀を抜くと、構えを取る。

 賢は難破な態度、顔で甘くみられるのだが、腐っても東の呪術師と呼ばれる男である。そしてその背後の明は藍を除く宮の呪術師の中では右に出る者はいない能力者。その二人が力を合わせれば凛と互角に戦えるはずであった。


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