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呪われたもの  作者: ありま氷炎
第二章 東の呪術師
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呪いが解ける時

キョウ!あれ?この麗しいお方は?さっつ、中に入って座って」

 塔に辿り着き、木の扉を叩くと、強と同じ顔で黒髪のくりくり巻き毛の男が出て来て、ランの腕を掴むと塔の中に連れ込んだ。扉を締められそうになり、強がぐいっと無理に中に入る。


 何?この人は?


 藍は戸惑いながらも勧められた椅子に座る。

 その男―ケンは顔のつくりは強とほぼ同じで男前、その髪型が軽さを与え、強の兄というより弟に見えた。


「どうぞ。お茶だよ」

 賢はにこにこ微笑みながら、藍にお茶の入った木製の湯飲みを渡す。

「強は自分で作れるだろう?」

 賢はそう言うと藍の隣に座った。

「ちょっと」

「兄さん」

 強が睨みつけると賢は肩をすくめて立ち上がる。そして真向かいの椅子に座った。

「兄さん、あんた、宮に呪いを放っただろう?」

 強はどかっと兄の斜めにある椅子に座るとそう口にした。

「……さあ、なんのこと?」

「とぼけても無理だ。この子は兄さんの呪いでせいでこんな姿になったんだ」

「…こんな姿って。こんな美女に?」

「ああ」

「大成功だ。うわああ。信じられないな。本当は帝か典を女性化したかったんだけど、全然成功だ!」

「…何が大成功ですか!喜んでないで元に戻してください!」

 藍は大喜びする賢に対して、苛立ち交じりにそう叫ぶ。

 まったく罪悪感、反省の色がない賢が信じられなかった。

「怒った顔も可愛いな。本当大成功。ねぇ。君、僕と一緒に暮さない?君が望めばなんでも叶えてあげるよ」

「冗談!」

 藍はそう叫ぶと、立ち上がり賢の胸倉を掴む。

「こんな姿、こんな姿、私は大嫌いなんです。元に戻してください!お願いします!」

「えー?どうして?すごく綺麗だよ。もったいない」


 ぶちん。


 藍はその能天気発言で自分の堪忍袋の緒が切れるのがわかった。

 そして強には藍の表情が冷たく、その目に怒りが浮かぶのが見えた。


「藍殿!」

 強が止めようと動くより先に、藍が動いた。

「!?」

 賢の体が吹き飛び、壁に激突する。

「東の呪術師だか、なんだかわからないですけど、呪術師が死ねばその呪いが解けるのを知ってますか?」

 藍の青い瞳が氷のように冷たい光を放つ。賢は壁からゆっくりと立ち上がりながら顔を引きつらせる。


 「藍殿!」

 強はこのままでは兄が殺されると思い、藍の前に立つ。

「藍殿。殺すのはやめてくれ。ふざけた男だが俺の兄であることにはかわりがない。兄さん!藍殿に殺されたくなかったら、素直に呪いを解くんだ」

「…わかったよ」

 二人に見つめられ、賢は肩をすくめると頷いた。




「飛ぶのか?」

「もちろん」

「強、もしかして怖いとか?」

「そんなことない!」

「じゃ、行きましょう!」

「行こう!」

 呪術師の二人は強の両脇に並び、その腕を掴むと上空に飛び上がる。

 強は顔を引きつらせながらも、悲鳴を上げないように口を必死に閉じてその時間を耐えていた。


 元に戻るためにはテンの協力が必要と、藍達は宮に戻ることになった。

 



「お久~。典」

 宮の呪術部に到着し、典を見つけると賢がへらへらと笑いながら手をふる。美しい呪術師はあからさまに嫌そうな顔をした。

「どうしたの?打ち首にでもなりにきたのかい?」

「打ち首?なんで?」

「呪いをかけたのは君だろ?親切に私は何もまだ報告してないが、君がここにきたということは私が帝に報告しないといけないだろうね」

「報告?!それは簡便。ちょっとした冗談のつもりだったんだ。だって、ほら藍ちゃん、すごい効果だろう?」

「確かに…」

「確かにってなんですか!早く元に戻してくれませんか!」

 藍は小声で話す二人にブチ切れるとそう叫んだ。

「そうだね。じゃ、私の部屋に行こう」

 典はにこっと微笑むと自分の部屋である呪術司室に藍達を連れていった。


「じゃ、藍ちゃんはここに座って」

「はい」

 部屋の真ん中の椅子を指差され、美女姿の藍は素直にそこに座る。

「呪いを解く方法はいたって簡単。元に戻るように呪いをかけるんだ。僕は藍ちゃんの元の姿が知らないから無理だけど、典なら覚えているだろう?」

「そうだけど。でもそんな簡単にとけるのかい?」

「だって、僕が放った呪いはそんな複雑なものじゃないよ」

「それにしては私の結界を破ったけど」

「そうそう、結構強力な呪いでしたよ」

「そう?」

「うん、そうです」

「藍ちゃんにそう言ってもらえて僕は嬉しいな。やっぱり元に戻る前に一度僕と…」

「兄さん!」

 藍に抱きつこうとする兄の腕をそれまで黙っていた強が掴む。

「まったく。残念だ」

「残念じゃないです。早くしてください!」

 これ以上話していたら典までそう言い始めるのではないかと思い、藍が苛立って声を上げる。

「はいはい。わかったよ。じゃ、典よろしく」

「ああ。藍、目を閉じて。少し痛いかもしれないけど。その時はごめん」

「痛いって!」

「しっつ、静かに」

 師にそう言われ、藍は仕方なしに大人しく目を閉じた。


 呪術司の呪いなど、受けたらどうなるか実際に怖かった。

 痛いってどれくらいなんだろう?


「行くよ」

 典は深呼吸すると両手を重ね合わせる。そして呪文を唱え始めた。

 賢と強は黙ってその様子を見ている。


「藍!」

 そう声がして、典の両手から光が放たれる。


「!」

 目を閉じてるがその光を感じ、藍は両手を握りしめる。痛みは感じなかった。ただ不思議な映像が頭の中に流れる。それは少し少年のような幼さが残る帝の姿であり、美しい銀髪の女性がその側にいた。


 帝の正妻ではないよね?

帝の正妻は帝と同じ色彩の黒髪、黒い瞳の女性だった。

 じゃあ、あれは?


 光が消え、藍を包んでいた煙が窓の外から逃げていく。


「藍?!」

「あれ?」

 典と賢の声に、藍は嫌な予感を感じる。

 そして目を開けるとまず、妙な違和感を覚えた。

 

 銀色の髪が見え、ほどよい大きさの胸のふくらみが見える。


 明らかに自分の元の姿ではなかった。


「賢さん!!」

 藍は椅子から立ち上がると、ギロリと元凶の東の呪術師を睨みつける。

「今度は別の姿になったじゃないですか!どうするんですか!」

「いやあ、その姿もかわいいなあ。今度の姿も好み♪」

「そういう問題じゃないです。もういいです。あなたを殺して、元に戻ります!」

「うわあ!待った、待った!!」

 銀色の真っ直ぐに伸びた髪を鬱蒼しそうに振り払い、緑色の瞳に怒りを浮かべ、藍は手の平に気を溜め始める。

「藍!待ってくれ、兄さん、他に方法はないのか?」

「いや、だって、僕がかけた呪いであれば、その方法で簡単にとけるはずだよ」

「言い訳はもういいです。覚悟してください!」

 藍が手の平を賢に向ける。

「藍!」

 師の鋭い声で、藍は反射的に手を降ろす。すると溜めた気も消滅する。

 賢はほっと胸をなでおろし、強は親友を見つめた。

「藍。これは多分、賢だけの呪いじゃない。多分誰かがかけた呪いと賢の呪いが融合してできた呪いなんだ」

「ああ、だからかあ」

「誰かって、誰なんですか!」

 自分だけの責任ではなかったと呑気な声を上げる東の呪術師を睨みつけ、藍は師を見つめる。

「その姿、心当たりがある。まずはこのことを帝に報告する必要がある。藍、一緒に来てくれるかい?」

「報告!打ち首は嫌だ!」

「賢、心配しなくても大丈夫。帝もそう乱暴な方ではない。ただ一つお願いすることがあるけど」

「何?」

「私の代わりに呪術司として宮に残ってもらう。私は帝を狙ったものを捕まえる必要があるから」

 険しい顔をしてそういう典に誰も何も言えなかった。

 藍も元に戻るどころか、別の姿になったことに怒り心頭であったが普段と様子の異なる師の様子に黙っていることしかできなかった。

 


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