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呪われたもの  作者: ありま氷炎
第八章 贖罪
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「呪術司…。そしてソウ

 庭に舞い降りた美しい男と少年の姿を見て、坊主頭の男は目を細めた。

「追ってきたのか」

「いえ、偶然です。私は別にあなた方を追うつもりはありません。でもこの機会に弟子に深手を負わせてお返しはしておこうと思いまして」

「立派な師匠だな。俺に勝てるつもりなのか?」

「勝つつもりはありません。あくまでもお礼です。草、下がっていて」

 テンは草にそう声をかけると、刀を抜く。

「受けて立とう。暇していたところだ」

 クウリンが屋敷に戻って半刻が立つ。多少の物音では気がつかないだろうとコンは縁側に置いていた刀を掴む。そして鞘から出して構えた。

「行きます!」

 風が唸りを上げる。呪術司は一気に紺の元へ跳んで刀を振り下ろす。男はそれを刀で軽く受け止めると押し返した。典がバランスを崩したのを見て、気を放つ。しかしそれは当たることはなかった。

「やるな」

 金色の髪をなびかせて、後ろの回りこんだ呪術司を見て、紺は笑みを浮かべる。

「!」

 男は振り下ろされた刀を身をよじって避け、上空に飛ぶ。刀が宙を切り、典は頭上を睨みつける。

「これを食らえ」

 紺は右手に気を込めると眼下に放った。

 金色の髪を震わせ、美しき呪術師が刀で気を絶ち切る。同時に気を作り、上空に飛ばす。


 草は二人の戦いを間近で見て、震えが止まらなかった。それは恐怖によるものではなく、武者震いの近い震えだった。


 俺もあんな風に強くなりたい。


 少年はそう願いながら、二人の戦いを見守っていた。



 


 誰かが戦っている。

 

 凜は隣に寝ている空を起こさないように体を起こす。

 背中の傷はまだ痛み、体を起こすのも一苦労だった。


 しかし、呪術師同志の戦いを側で感じ、凜は誰が戦っているのが確かめたかった。もし敵になるようなものであれば戦わないといけない。


「凜。行ってはだめだ」

 布団から立ち上がるとした凜の手を空が掴む。

 その顔は子供が母親を引きとめる様な必死な表情が浮かんでいた。

「僕の側にいて」

 空は体を起こすと恋人の背中の傷をいたわり、柔らかくその体を抱く。

「凜……」 

 男は名を呼ぶと唇を重ねる。びくっと体を震わすが、凜はその口づけに答えた。

「!?」

 口の中の異物が入り込む。それが薬だと気付いたのは飲み込んだ後だった。


 頭痛が始まり、視界が回り始める。

「凜。愛してる」

 空はそう囁くと、愛しい女の唇に自らの唇を重ねる。

 それは蜜のような口づけで凜の思考を奪っていく。

「さようなら」

 男の静かな声がそう聞こえ、氷の呪術師の意識はついに外部から遮断された。




 戦いはふと終わりを告げた。

 宮の呪術師は刀を降ろして、男の前にゆっくりと降り立った。

「悔しいが、どうもお礼はできそうもない」

「ふん。もう終わりか。腑外ないな」

「私は感情だけで動くほど単純ではありません。紺、あなた方に追手が迫っています。帝は空とあなたを放任するつもりのようです。帝の願いを受け、私もあなた方を追うつもりはありません。しかし宮には別の考えを持つものもいるようです。逃げるつもりなら今しかありません」

「…逃げる?馬鹿なことを」

 典の言葉をせせら笑って男はそう答える。

「戦うつもりですか?あなたは確かに強い、しかし、万が一ということもあります。私は逃げることを勧めますが…」

「ふっ、馬鹿な。逃げても何もならない。追っ手はこの俺がすべて倒す。余計な御世話だ。宮の呪術司よ」

「……そうですか。それなら。草、宮に戻るよ」

「え?典さん?」

 用が済んだとばかり、くるりと紺に背を向ける典に草は驚きを隠せない。

「追っ手に君の姿を見られれば君が彼達の仲間だと疑われる。そうなると帝といえども、庇うことは難しい」

「でも……」

「草よ。お前の師匠は無事だ。凜の願いはお前の無事だ。さっさと宮に帰るがよい」

 紺は戸惑う草に吐き捨てるようにそう言った。命を狙われたとはいえ、一時は一緒に戦った仲間、ホウケイと違い紺は信頼できる男ではあった。


「わかりました。凜様をお願いします」

 草は唇を噛むとそう口にする。


 本当は師匠の無事な姿をこの目で見たかった。


 凜は母親と死別して落ち込んでいた時に支えてくれた尊い存在だった。


「草、行くよ」

 呪術司が金色の髪をなびかせ、空に舞う。草は後ろ髪を引かれる思いをしながらもその後を追った。



「さあ、始めようか」

 紺は刀を横に振り払うと来るべき敵に向かって構えを取った。




 静かな寝息が聞こえる。

 空は凜の体を布団に寝かせると立ち上がる。


 凜の静かに寝ていてもらうため、薬を盛った。


 宮から追われることは予想していた。

 紺の力があれば、逃げ切ることは簡単であった。

 しかし、空はもう疲れていた。


 自分が殺したと思っていた凜に再会し、その体に触れ、温もりを感じた。

 空はそれだけでもう十分だと思った。


 死ぬのであれば、宮で死ぬ。

 帝に反逆したものとして、死ぬ。

 それが自分の生きた証の様な気がした。


「空様?」

 襖を開け、姿を見せた空に紺は驚きを隠せなかった。

「紺。追っ手はどこだ?僕はもう疲れてしまったんだよ。宮に戻ろう。裁きをうけるつもりだ」



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