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呪われたもの  作者: ありま氷炎
第八章 贖罪
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 帝が牢屋に着くと、そこには鎮痛の面持ちを浮かべる将軍、数名の兵士がいた。


その者達の前を通り、帝は中に入る。そして奥の牢屋に辿り着いた時、帝はその惨状に言葉を失った。

 内所ないどころ――シュン)がいたその場所は黒い血が大量に流れ、壁には血文字がしたためられていた。


 書かれていた内容はソウを狙ったのは自分の独断であること、そのことを死を持って償うこと、そしてレンのことを託すという、三つのことであった。


「こ…のこと、蓮は知っておるのか?」

「まだです」

 式所は壁に書かれた文字を見つめながらそう答える。

「他に知っているものは何人いる?」

「私と、将軍、数名の兵士と牢屋の見張り兵です」

「筍の遺体はどこにある?」

「部屋に運んであります」

「この牢屋を封鎖する。筍が自害したことは他に漏らしてはならない。わかったな?」

「……わかりました」

「私は筍の部屋に向かう」

「では私も一緒に」

「着いてこなくもよい。この場所を封鎖することに全力を傾けよ。蓮には絶対に悟られてはならない。わかったな」

「……はい」

 式所が頭を垂れたのを見て、帝は頷くと踵を返す。そして将軍達の前を通り、筍の部屋に向かった。


 帝になり、内所の筍と話す機会が増えた。正妻として蓮を迎えることを押したのも筍であった。

 頼れる内所であった。


 それが自害するなど、考えも及ばなかった。


 草のことが起因していることわかっていた。

 蓮のことを思い、草を暗殺することを企てた。


 自分が草を宮に入れることを強く推さなければこんな悲劇は生まれなかったかもしれない。


 帝はそう思い、唇を噛む。唇が切れ、血の味がした。


 しかし、帝は草を大切にしたかった。

 自分が愛した女が残したものを自分の側に置いておきたかった。




「草」

 ランの休んでいる部屋を出たところでキョウは少年の姿を見た。

「強さんだっけ?藍は大丈夫なの?」

「ああ、心配ない。それよりお前は大丈夫か」

「うん……」

 少年の元気なさげな様子に警備隊長は庭の椅子に座るように進める。

「大丈夫だ。凜は無事だろう」

「うん、それはわかってる。俺が心配なのは……」

 草は部屋に入ってきた式所の様子を思いだし、顔を曇らせる。自分を見る目に敵意と悲しみが見えた。

 内所という者が自害したと式所が言っていた。


 自分の暗殺を企ててため、牢屋に入れられていた内所。

 その者が自害となれば、自分のせいで死んだに違いなかった。


 宮にきて、好意的な目を向けるのは藍やテン、そして強とその兄達数名だけだった。他の者は敵意や好奇、卑みの視線を向けてきた。


 こんな場所、いたくなかった。

 父が自分を手元に置きたがっているのはわかっていた。

 それが償いだということも。


 しかし、そのためにいろんな人に迷惑をかけるのは嫌だった。


「どうした?」

 難しい顔をして黙りこくった少年に強は問いかける。

 しかし草は首を横に振るだけで言葉を発することはなかった。





 その夜――少年は姿を消した。

 どこに行ったのか、誰にも話さず姿を消した。


 将軍と式所は動揺する帝に対して冷静だった。

 

 捜索を願う帝に宮の平和を第一に考えるように諭した。

 内所が何をしたのか?彼女が何を最後に願ったのか、と言われ、帝は草のことを諦めるしかなかった。


 

「藍殿?」

 朝様子を見に行くと、なぜかベッドから起き上がり、旅支度をしている藍の姿があった。

「止めないでください。私は草くんを追います」

「藍殿!まだ傷が治ってない君を行かせるわけにはいかない!」

 強は珍しく強くそう言うと、藍の両腕を掴んだ。

「だって、(リン)さんもいないんでしょ?本当はあの時、凜さんがさらわれたんでしょ?今の草くんは1人。きっと寂しい思いをしてるはずだわ」

「それでもだ。君が今無理をすると傷が開く。そんな姿俺は見たくない!」

「強…様?」

 言われた言葉に藍はきょとんとその顔を見上げる。男前の警備隊長は顔を真っ赤にしていた。

「君が傷つく姿はもう見たくない。行くというなら。俺も行く」

「…強様…」

 掴まれた腕が熱かった。茶色の瞳の中に戸惑った自分の顔が見える。

「……私が行こう」

 ふいにそう声がして、強は慌てて藍の腕を放す。

「邪魔をして悪いね。でも君達に宮を出て行ってもらったら困るんだ。特に藍、君が今飛んだりすると、出血する。絶対に駄目だ」

「でも……」

「帝から内密に草の行方を捜すように頼まれた。私は帰郷ということで休みを取る。強も警備隊長だ。そう軽々外に出てはまずいだろう」

「しかし……宮の結界は?」

けんに頼んだ。藍もいるから今回は大丈夫だろう。紺が再び宮を襲う可能性はないし」

「でも……」

「私じゃ不満かい?」

「そんなこと」

「じゃ、決まりだ。藍、ベッドに横になるんだ。動くと傷の治りが遅くなる」

 典は二人に笑いかけるとひらひらと手を振る。

「強、藍のことしっかり見張っておいて。君の兄さんが危なくなったら助けられるのは藍だけなんだから」

「わかった。気をつけろよ」

「ああ」

 美しき宮の呪術師は親友にそう答えると、部屋を出て行った。


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