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呪われたもの  作者: ありま氷炎
第八章 贖罪
34/53

 シュンはひっそりと静まった牢屋に一人、残されていた。

 冷たい石造の床に座り、懐から小刀を取り出す。


 それは宮に入った時より持っている小刀だった。

 通常の小刀より小さく、実践ではとても使えるような代物ではなかった。武器というよりもお守りの意味として両親が筍に預けたものだった。


 宮に入り30年が過ぎようとしていた。


 多くのものの怨み辛み、死を見てきた。


「けじめをつけなければなりませんね。レン様、どうか強く生きてください。私が最後にできるかぎりのことはしますから」


 筍は小刀を鞘から抜くと、人差し指の先を少し切る。そして流れだした血で壁に文字を書き始めた。

 指先が脈を打っているようだった。血を押し出すように指をさすり、内所ないどころだった女は最後の仕事をしていた。




「帝様」

ソウ、無事でよかった」

 帝は動揺する所司しょしに担当部署に戻るように伝え、息子に会いに来ていた。

「俺は大丈夫です。でもランが、リン様が!」

「心配ない。藍は命を取り留めた。凛…南の呪術師にクウが危害を加えることはないだろう……」

「そうですが……」

 少年は父の言葉に頷くが、その心中は穏やかじゃなかった。自分によくしてくれた女性は深手で追い、師は連れ去られた。

 空が師を大切に扱うことは知っていたが、心配せずにはいられなかった。

「草。こんなことがないようにやはり、お前にはわしの側にいてもらう。宮のわしの部屋の近くに移動させ、正式な役職に付かせる。さすれば容易に手を出すものもいなくなるだろう」

 今回の実行犯がまた襲ってくることは考えられず、主犯である筍は捕まっている。同じものに襲われる可能性はないが、帝の息子ということが知れ渡れば草に良からぬ意図を持って近づくものがいることも予想できた。

「帝様…俺はそんな……」

 草がそういいかけたとき、バタンと扉が開けられた。

「帝!」

「何者だ?無礼であるぞ」

 帝は許可なく入ってきたものを一瞥すると声を荒げる。

「申し訳ありません。しかし、帝、大変なことになりまして」

 扉を開けて入ってきたのは式所しきどころだった。普段であればきれいに整えられている髪が乱れ、走ってきたためか、息が上がっていた。

「何事だ?」

 ただ事ではないと、帝は式所の顔を見つめる。

「内所…筍が、自害いたしました」

「な、なに?!」

「帝、私についてきてください。見てもらいたいものがあります」

 所司の中では一番筍に近く、同期でもあった式所は動揺する帝にそう言った。




テン様、キョウ様?」

 目を開けると金色の髪の美しい男と、寡黙な男前が側にいて、藍はぎょっとした。

「藍、起きなくもいい」

 体を起こそうとした弟子を典が押しとどめる。

「私…?」

 腹部に痛みが走り、藍を曖昧な記憶を辿る。


 そう、コンが現れて…

 強様と一緒に戦ったんだ……



 藍は自分を心配げに見つめる警備隊長を見つめる。


 よかった。 

 怪我はしていなさそうだ。

 

 強が無傷であるのを確認して藍は息を漏らす。


 そうだ、私、紺に刺されたんだ。

 それで……


 藍は最後の記憶を思い出し、側にいた典の腕を掴んだ。


「典様!草くんは、凜さんは!」

「藍……心配ない。二人は無事だ」


 師の言葉に藍はほっとする。典の後ろで一瞬だけ強が顔色を変えたが、ベッドの上の呪術司の弟子は気がついていないようだった。


「本当に間にあってよかった。後少し遅ければ君の命があぶなかった」

「!そうですよ。典様!なんで来るのが遅かったんですか!」

 藍は師の腕を掴んだまま、睨みつける。典は苦笑すると弟子の手を掴み、自分の腕から放す。

「色々あってね。君の傷が治ったら話すよ。君はゆっくり休んだ方がいい」

「色々って!」

「強、後は頼むね。私は他にやることがあるから」

 典は強に藍の事を頼むと、するりと逃げるように部屋の出口の方へ移動する。

「典様!」

 弟子は師を咎めるようにその名を呼ぶが、典は素知らぬふりをして部屋を出て行った。


 深手を負った藍に本当のことを話すと面倒なことになりそうだった。凜が消えたことを話せば、探しにいくと言いかねない。

 弟子のことは親友に任せ、典は今後のことを相談するために帝の元へ向かった。



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