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呪われたもの  作者: ありま氷炎
第八章 贖罪
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「すまない」

 美しき宮の呪術司はその端正な顔を俯かせ、警備隊長の肩を抱くと、かすれた声でそうつぶやいた。男は怒りを込めた拳を開くと、親友の背中に手を回す。

 その背中が震えているのがわかった。


 目が覚めると、そこは自室のベッドだった。近くには兄がおり、共に戦っていた女性呪術師の行方を聞くと顔をゆがめた。

 兄に詰め寄り、行方を聞き、医部に駆けつけた。


 そこで見たのは青白い顔をしてベッドに横たわり、血に染まった布を取り替えられているランの姿だった。

 小柄な体が余計に小さく見えた。


キョウ。藍は大丈夫だ」

 ぽんと顔をこわばらせた男の肩をその親友が叩く。出血は止まり、あとは本人の体力次第と医所が診断した。


「お前、どこにいってたんだ?」

 震える声でそう聞く男に呪術司が顔を背ける。

「すまない。内所ないどころにつかまっていた。嫌な予感はしてたんだが、遅れた」

 茶色の瞳に怒りが込め、強は親友に問う。どうして早く来なかったんだとその瞳がテンを責めていた。

「すまない」

 典は親友の肩を抱くと、そうつぶやく。


 血に染まった弟子の姿を見たとき、怒りが体を駆け巡った。彼女の瞳の強い光はなりをひそめ、弱弱しく目を開けると、典の緑色の瞳を捉えた。


 もっと早く来れたら、藍が重症を追うことがなかっただろう。嫌な予感を感じながらももっと早く会議を中座しなかった自分を恨む。


『典様……ソウくんを』

 血を流しながら、彼女は腕の中で自分に草のことを託した。


 藍、すまない。


 親友の肩を抱きながら、典はベッドの上の弟子に目を向けた。




内所ないどころ……確かなのか?」

「はい」


 呪術司が会議から中座し、その後、血に濡れて戻ってきた。弟子が重症を負い、草が狙われリンコンに連れ去れたことを伝えると、典は弟子の治療のためと有無を言わせず医所を連れ部屋を出た。 残された面々は顔を合わせ、帝は疑惑の視線を内所――シュンに向けた。しかし筍は帝の視線に臆することもなく、見つめ返すと自分の非を認めた。


 将軍は内所の任をその場で解くと、その身柄を拘束した。


 筍は帝を見返すこともなく、将軍と共に部屋を出て行った。





「凛……」

 クウは布団に横たわる愛しい女の頬に触れる。

 暖かさを感じ、ほっと胸を撫で下ろす。


 生きてて良かった……


 空にはその思いしかなかった。


 刀を振り下ろし、その生暖かい血が自分の手にかかったのを覚えている。その血を洗うと凛の生きた証が消えるようで血を拭おうをする紺に抵抗した。血を洗われ、新しい着物に着替え、空は自分が完全に凛を失ったと思った。


 半刻前、突然現れた紺がその肩に凛を担いでいるのを見て息が止まりそうになった。近づき、呼吸を確認した時に心から安堵した。


「…く…う?」

 何度か凛の頬を撫でているとうっすらと氷の呪術師が目を開けた。開かれた青い瞳は驚きの色を見せ、空の顔を映している。

「凛」

 そう呼ばれ、凜は自分の前に本当に空がいることを自覚する。

「っつ」

 体を起こそうとして、背中に痛みを覚える。

 羽織っている着物に血がにじむ様子を見て、空が唇をかむ。

「……あなたが私をここにつれてくるように紺に命じたのか?」

 氷の呪術師は痛みに顔をゆがめながら、布団の上で顔だけをこちらに向けている。それは出会ったときと同じで緊張した声色だった。

「そうだよ」

 空は震える声を落ち着かせながらそう答える。すべては紺の独断だった。しかし、彼が自分のことを考え行動したことはわかっていた。

「なぜ、草を?」

「……彼だけ幸せになるなんて許せない」

 それは半分本当で半分は嘘であった。草のことなどもうどうでもよかった。ただ凛が側にいてくれればそれでよかった。

「空。草を狙うのはやめてくれ。お願いだ」

「……君の願いなら叶えてあげる。でもその代わり、君には僕の側に一生いてもらう。いいね?」

「……わかった」

「いい子だ」

 空は口元に笑みを浮かべると、愛しい女の唇を奪う。かさついた唇は抵抗することもなく男の口付けに答える。


 二人は本当の想いをお互いに伝えることもなく、口付けを交わしていた。



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