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呪われたもの  作者: ありま氷炎
第六章 親子
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「ほら見て。クウ

 母上は柔らかく笑うと庭に咲くタンポポを指した。

「ふうってしてごらん」 

 僕は母に言われ、息をたんぽぽの綿毛に吹きかける。

 白い綿毛は僕の吐いた息に飛ばされ、勢いよく舞い上がった。

「綺麗ね」

「うん」


「これはこれは母上殿、なぜこのようなところにいるのだ?」

 その声に母はぎくりと体を硬直させる。そして僕を庇うように抱きしめた。

「わしは屋敷から出るなと伝えていたのだが?」

「…も、申し訳ありません」

 母は青ざめた顔をして頭を下げる。

「困りますなあ。母上殿。大方愛しい男と待ち合わせでもしておいでか?」

 兄上であり帝である男は僕の母に冷たい視線を投げかける。

「そ、そんなことは…!」

「父上、私が許可いたしました。春先の風が気持ちよく、クウも外に出たいだろうと思いまして」

 今年13歳になる甥のカイが僕と母上の前に立ってそう言う。

「余計なことを。まあ、いい。海、狩りに参るぞ。ついてこい」

 帝はくるりと背を向けると、僕達から離れる。海はぽんぽんと僕の頭を撫でた後、帝の後を追った。


 生まれて物心がついたころから、僕を包む空気はどんよりしていた。母はいつも青ざめた顔をしていた。前帝である父は僕が生まれる前に崩御した。

 僕の兄でもある今帝は僕と母を忌み嫌っていた。


「知ってる?空様はジュン様が外の男と作った子供だって」

「だから、今帝があんなに毛嫌いしてるのね」

 

 兄上が僕を嫌っている理由を知ったのは5歳になるころだった。


「母上、外の男と作ったってどういう意味なの?」

「!」

 ある日、僕は下女達が話していた言葉の意味が知りたくて母にそう聞いてしまった。母は唇を噛みしめるとそのまま僕の元を離れ、中庭に出た。母の背中は全てを拒絶していた。僕は何もわからずに母の背中を見つめていた。



「海~。僕、どうしたらいいのかな?」

「どうしたらって?」

「ここにいてもいいのかな?」

「もちろんだよ!君は僕の大事な弟なんだから!」

「弟?」

「そうだよ」

 海は僕を抱きしめるとそう言った。


 僕が十歳になったある日、海は呪術師達と西の国に出かけた。

「海~」

 久々に宮に戻ってきた海に僕は話しかけた。

 しかし海が僕に微笑むことはなかった。

「すまない。しばらく1人にしておいてくれ」

 海はそう言うと部屋に引きこもった。


 それから僕と海が話すことはなくなった。

 僕は味方を失った。


 そして10年後、帝が崩御した日、僕は笑い声をあげたくなるのを堪えるが必死だった。

 とりあえず悲しそうな顔をし、その日を過ごした。

 崩御の儀が行われ、海は帝に即位した。


「空。これでお前達を傷つけるものはいなくなった。これからはわしが…」

 数日後、帝となった海が僕にそう言った。

「大丈夫ですよ。帝様。僕はもう大丈夫ですから」

 僕は海にそう笑いかけた。


 10年前あの日、僕は決めた。

 強くなることを、もう誰も信じないし、期待しないことを。


 それから3年が過ぎ、僕は母を失った。

 しかし、同時に美しい女に会った。


 氷のような女だった。

 彼女は僕に何も聞かないし、僕も彼女に何も聞かなかった。


 彼女が南の呪術師と知ったのは、母の従兄弟のコンから聞いたからだった。

 紺は母が死亡する前に、現れた呪術師だった。

 死ぬゆく母が僕に最後に残した味方だった。


 男は死にゆく母を愛おしそうに見つめていた。

 母の幼馴染と聞かされた。


 母が亡くなってから僕はただ生きていた。

 そして草という少年の存在をしり、帝に、宮に復讐することを決めた。

 



 ふと冷やりとした感触を首に感じる。

「空様。起きてください」

 その声が警備隊長の声だとわかり、空は目を開ける。

 声を上げようとしたところを手で口を塞がれた。

 

 そして数人の男が自分の周りにいるのがわかった。


「空様。帝のいる場所に案内してもらいます。いいですね?」

 空は男達の正体を探ろうと目を凝らす。闇の中で確認できた顔は将軍やその側近だった。

 

 薬の効き目が切れたか。

 短い治世だったな。


 空は首筋に当たる刃物の冷たさを感じながら、自分の治世が終わりと告げたことを理解した。


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