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呪われたもの  作者: ありま氷炎
第六章 親子
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カイ……」

 緑色の瞳が海を見つめる。

「すまない。本当に…」


 わしは落ちていくレイを救えなかった。そしてソウ

 麗が残したわしの息子……


クウ……」

 

 海は憎悪を露わに、自分を見つめた空の姿を思い出す。


 弟のように思っていた空…いつから…彼はわしを憎んでいたのだろうか。

 父上を見つめる時のように、彼はいつから、わしをあの瞳で見るようになっていたのか。


 空に浴びせられる冷たい、そして蔑みの視線。

 それらからわしは彼ら親子を守ってやれることができなかった。


「しかし、空。恨むならだけに……。どうか草だけは……」

海は、ぎりっと唇を噛みしめる。血の味が口の中に広がる。


「空!」

 何度も叫んだ名前を再び口にする。しかし、答える者はいなかった。


 


 闇にまぎれて、森の中を何かが動いていた。

 それは時折、光を放つ。


 森で熟睡していた鳥達は飛び立ち、しんと静まりかえった森の中で戦いは続く。


 呪術師達は己の気を使い、相手の気を探る。そして攻撃を加えた。


「!」

 ランが放った気はケンミンによって防がれる。

 二人は冷たい、冷ややかな視線を藍に向けると、気を集め、再度放った。

「このぉ!」

 藍は刀を使い、気を断ち切った後、森の上空に飛ぶ。

 二人は間髪なく追いかけてきた。


 まずい、負けるかも!


 藍は刀を構えながら、背中を伝う嫌な汗を感じた。



 半刻前、帝が幽閉されている可能性を辿って、森の中の屋敷に到着した。

 しかし、そこで待っていたのは紺を始めとする呪術師達だった。


 宮の呪術師達は、帝を襲ったはずのケイホウの姿がコンの側にいることに疑問を持ちながらも、新呪術司の命には逆らえず藍達に対峙した。


 一行にとって、賢を始め呪術師達と対峙することに驚きはなく、想定内のことだった。

 しかし、問題はその奇妙な様子で、東の呪術師にいつもの軽口はなく、その恋人もその艶やかな笑みを見せることはなかった。


 おかしい……


 それは戦ってみて、確信に変わった。

 人間的な感情が欠け落ちた攻撃は、隙がなく、合理的で藍の動きを封じた。


 さすがに東の呪術師。すっかり忘れてたけど


 藍は刀を両手で握り、息を整えた。


 やられるかもしれない。でもここで私が負けるわけにはいかない!


 師匠のテンは紺と、南の呪術師は呆と桂と、草はその他の呪術師達と対峙していた。

 自分がここで倒されてしまうと他のみんなの負担になるのがわかっていた。


 草くんのことも助けなきゃ!

 

 宮の呪術師相手に草はいい戦いをしていた。しかし、三人相手に分が悪すぎた。


「賢さん、明様。ごめんなさい!」


 藍はそう言うと二人に向かって気を放った。




「今度は足止めなどですまないぞ」

 コンはぎろっと端正な顔立ちの男を睨みつける。男――宮の美しき呪術司は笑顔を浮かべると刀を構えた。

「わかってますよ。そんなこと」

 そして紺に向かって飛んだ。



「南の呪術師様。空が悲しんでいたよ。なんで裏切ったんだい、あたい達を」

 ケイは真っ赤な唇を皮肉気に歪めそう言った。

「お前達には関係がないことだ」

「関係ない?まあ、そうだけどよ。困るんだよなあ」

 桂の隣で腕を組んでいたホウが、頭をぽりぽり掻きながら笑う。

 リンはこの二人が嫌いだった。空のことがなければ鼻から仲間などになる気がなかった。

 空を裏切ったのは事実だ。

 しかし、草を見殺しにするわけにはいかなかった。

「時間の無駄だ。いくぞ!」

 氷の呪術師はその青い瞳を閃かせると刀を抜き、2人に飛び掛った。



「少年よ。無駄な抵抗はやめたほうがいい」

「俺達も君のような少年と戦いたくはない」

 ソウを取り囲む呪術師達はそう口々に言う。男達はランと同期だったが、その力は格下だった。

「俺を舐めるなよ。俺は南の呪術師の一番弟子なんだ!」

 刀を抜いた草に呪術師は溜息をつく。しかし戦いは戦いだった。

「藍より格下だと思うと痛い目をみるぞ。少年よ!」

 呪術師の一人はちらっと賢達と戦う藍を見ると、草に向き直った。



 

 

キョウトウ?」

 目を覚ました男は、自分を見つめる二つの顔を確認し、眉間に皺を寄せる。そして鳩尾に痛みを感じた。

「父さん…将軍、やっと正気になったみたいだな」


 半刻前、奇妙な様子の兄とその恋人、その他数名の呪術師を連れ、宮を離れるコンの姿を目撃した。今しかチャンスがないと思い、強は将軍の部屋に押し入り、その身柄を拘束した。


 呪術師であった母に頼み、父の様子を見てもらい、薬が盛られていることがわかった。そこで解毒用の御香を焚き、正気に戻すことに成功した。


「あなた、わかっているでしょうね?」

「藤!すまない!本当に」

 天下の将軍は妻の前で体を縮こまらせ、謝る。

「本当にあなたって人は!今度浮気したら呪いをかけますから。いいですね?」

「わ、わかった……」

 宮の呪術師として腕を見込まれていた妻にそう言われ、将軍は顔を強張らせながら頷いた。




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