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呪われたもの  作者: ありま氷炎
第五章 空の治世
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「やっぱり私の負けだわ」

 ミンは悔しそうに自分の前に立つ後輩の呪術師を見上げる。

初めから敵わぬ相手だとわかっていた。宮の美しき呪術司の愛弟子と影で言われる(ラン)、姿が変化する前までは地味な娘でその力はうらやまれてもその性格や様相からねたみの対象になることはなかった。しかし、いまや呪術司を並んでも見劣りしない姿をしており、呪術部の女性の多くは藍をねたんでいた。

 明は表立ったその思いを吐き出すことはなくても、同じ思いを抱えていた。しかし戦って見て、その思いは消えた。やはり藍の力は格別だった。

「明様。ごめんなさい」

 藍は、肩で大きく息をして、自分を見つめる明はぺこりと頭を下げる。

 魅惑の呪術師は自分の思いを知らず、素直に自分を慕う後輩に柔らかな笑みを向けた。



ソウ!」

 リンは落ちていた刀を拾うと草に投げる。コンの腕はやはり一流で、南の呪術師は苦戦していた。弟子を庇う余裕はないほどだった。

 しかし、ケンと明以外の呪術師はそれほど強くないことはわかっていた。武器を渡せば草1人でなんとか戦ってくれると願った。

 凜は紺と対戦しながら弟子の様子を見る。

「凛。余裕だな」

 新呪術司は笑みを浮かべると刀を振り下ろした。

 

 ガチンと金属がぶつかり合う音がする。


 紺の刀を受け止めたのは前任の呪術司だった。

 

 紺がその背後に目を向けると気を失った賢の姿が見える。


「凛。一気にこの人を叩いて、逃げるよ」

 テンは驚いた顔をして自分を見ている凛に笑いかける。

「できるかな。宮の美しき呪術司よ」

「できますよ。新任の呪術司殿」

 典は受け止めた刀を力いっぱい押し返す。

「凛。草は大丈夫だ。藍が援護する。私達はこの男を叩き、宮から逃げる。いいね?」

「……わかった」

 紺は二人のやり取りを聞きながら、気を高める。

 全力を出し切る時がきたと、心が躍っていた。

「かかって来い」

 その声に金髪と白髪の美しき呪術師達は互いの顔を見合わせる。そして刀に、拳に、気を込めると飛んだ。



「草くん!」

 自分に襲いかかった気がふいに消滅した。それが母と同じ姿をもつ女性呪術師の仕業だとわかり、草は顔をゆがめる。

「助けなんかいらない!」

「あー素直じゃないんだから!」

 藍は呆れた声をあげながらも、手の平に気を込め、元同僚たちに放つ。

「ごめん!急所ははずしてるから!」

「助けなんか必要ない!」

「ああ、もう!文句は宮から出てからよろしく。宮を出るのが最優先だから」

 草と背中合わせに立ちながら、藍は刀を構える。

「ほら、来るよ。宮の呪術師はそこらへんの呪術師とは違って強いんだからね!」

「わかってるよ」

 ぶーと顔を膨らませてそう答え、少年は向かってくる呪術師に気を放った。



「これは俺の出番かなあ~」

 宮の庭で繰り広げられる呪術師の戦いを楽しんで鑑賞していたホウが欠伸をする。お披露目の行列を襲った際に頭巾をかぶるのを忘れており、ケイと共に表立った行動するのは避けるようにと釘を刺されていた。

 しかし、戦いの状況は思わしくなかった。

「逃げたらまずいよな」

 呆は懐から布を取り出すとぐるぐると顔にまく。

「これで正体はばれないと」

 自分が影で猿男と呼ばれるゆえんを知らない闇の呪術師は意気揚々と木から飛び降りると戦場に向かった。



キン、ごめん!」

 藍は対面する呪術師の懐に入ると刀を翻し峰打ちを食らわせる。同期の男性呪術師は美しく変貌を遂げた元同僚に見とれながら、気を失った。すぐ側では草がこれまた同期の呪術師と戦っている様子がわかったが、少年の力を知っている藍は自分が助ける必要はないと、師を探す。

 上空で師と南の呪術師が坊主頭の男と熾烈な戦いを繰り広げているのが見えた。


 すごい、あの二人を相手に互角だ!


 藍は全身が興奮のためぴりぴりしびれるのがわかった。そして戦いに参加したいと飛ぼうとした瞬間、何かが視界をよぎった。


「!?」

 藍の頭上を飛び、降り立ったのは一人の男だった。

 

 猿?いや人間だ。

 着物も着てるし、草履も履いてる。

 毛むくじゃらな手足が袖から、袴の下から出ているが人間のはずだ。


「お嬢さん。暇そうじゃねーか。俺が遊んでやろう」

 猿男がそう言葉を放ち、藍は妙に安心する。

「どうしたんだ?俺が怖いか?」

 自分を凝視する銀髪の呪術師に呆がニヤニヤと笑いかける。

「……怖いわけないでしょ。ただ人間だったんだなと思って」

「?!なんだと?!」

 その言葉に闇の呪術師は一気に怒りを爆発させる。

 昔から猿に似てるなどといわれてきたが、人間だったと言われたのは初めてだった。

「この女!ぶっ殺しやる!」

 布に隠された顔から湯気が出ていると、想像ができるほど烈火の怒りをたぎらせた呆は、腰から小刀を抜くと藍に襲い掛かる。

「!」

 しかし藍は慌てる様子もなく、刀を構える。

 

 戦いは感情的になったほうが負けだ。


 それは典から言われてきた言葉だった。感情的な藍はその言葉の意味がわからなかった。しかし、こうして怒りに我を忘れた呆の動きを見て、わかった。


 隙がありすぎる。

 だから感情的になっちゃだめなんだな。


 藍は自分の勝利を確信しながら、呆に対峙した。



「……なかなか強いですね」

 美しき宮の呪術司は南の呪術師と並んで、上空に浮いていた。対面にいるのは紺だ。黒国で一番の腕は自分だと思っていたが、この調子じゃニ番手に格下げだと典は冷静に思った。

 しかし凜と二人では勝てない相手ではない。しかも自分たちの目的はこの男から逃げることだ。

 典は凛と顔を見合わせる。

 考えていることは一緒のようだった。


「どうした?終わりか?」

 紺は刀を構え、二人の呪術師を睨む。さすがに腕の立つ二人相手で紺の息は上がっていた。

「呪術司殿!」

 美しき呪術師達は同時に気を操り、竜巻を紺の周りに発生させる。


 まともに戦うと時間がかかりすぎる。

 用は紺の動きを止めることが大事だった。


「草!」 

 竜巻が紺の動きを止めている間に、南の呪術師は上空から弟子の名を呼び、その姿を探す。

「藍、行くよ!」

 同じく美しき宮の呪術司は愛弟子と宮を脱出するために呼びかける。そして弟子がその力を使い呆を先頭不能に追い込んでる様子を発見し、満足げに笑った。

「さあ、行こう!」

 典の言葉を合図に脱獄した四人が空を駆ける。


 太陽が傾きかけていた。

 天は四人に味方をしているようだった。

 呪術師達はひとまず闇に紛れて宮から姿を消そうとしていた。




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