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呪われたもの  作者: ありま氷炎
第一章 呪われた帝
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かけられた呪い

 黒の大陸は世界の中心に位置する大陸だった。宮京を中心とするその大陸を支配するのは黒髪に黒い瞳、真っ白な肌をもつ黒族。黒族は宮京を中心に四つの国を配下におき、数百年に及び黒の大陸を支配していた。

 四つの国は、北の紅花国くかこく、東の緑森国りょくしんこく、西の碧雲国へきうんこく、南の黄土国おうどこくであり、呪術師・ランは北の紅花国くかこく出身で宮から戻った後、二年間のんびりと暮していた。

 

テン様の結界を破る呪い?」

「そうだ。典は今その力を使い、呪いをぎりぎりで止めている。あいつがあんなに余裕のない顔をしたのは初めてみた」


 余裕のない顔…

 たしかに典様はいつも余裕たっぷりだもんな。

 頭に来るくらい…


 いっそ、このままほっといたほうが面白いかもしれない。


 藍はふとそんなことを思ったが、キョウの生真面目な表情を見てやめた。

「でもなんで私なんですか?」

 強の背中に掴まりながら、藍がそう尋ねる。二人は馬に乗って、宮京に向かっていた。

「他の者じゃ対処できなかった。典はもう君以外に頼めるものがいないと言っていた」

 強は手綱をつかみ、馬を走らせながらそう淡々と答える。

 

 私が最後の希望か…


 呪い返し、典と共に何度かやったことがあった。

 典が呪いを結界で食い止めてる間に、その気を消滅させる。

 

 確かに他の者ではむずかしいかもしれなかった。


「でも最近、呪い返しの大きい奴はしてないんですけど…」

「悪いが君に選択肢はない。典だけでなく、帝の命もかかっているのだ」


 帝の命…

 それはそれで大変だわ。


 典様ひとりじゃ、ちょっとくらい苦しんでもよさそうだけど。

 このまま、馬でちんたらいけば、あと2刻はかかるかもしれない。


 でも飛んでいけば。

 

「強様、飛んでいきましょう!」

「!?」

 強はぎくっと肩を震わせると馬を止めた。

 藍は馬からぽんと降りると、馬の上の男前の警備隊長を見上げる。

「馬で宮に向かえば、二刻かかります。飛んでいけば半刻でつくと思いますよ」

「…そうか。そうだな」

 男前は少し顔を強張らせ、ゆっくりと馬から降りた。

 強は正直、飛んだことがなかった。まあ、飛ぶなんてこと呪術師以外に経験をすることがないのだが、高所恐怖症の強にとって飛ぶことなんで考えたくないことだった。

「強様とあるものが怖いんですか?」

 

まさかね?


 藍は警備隊長の顔が曇ったことにそんな予感を覚えた。


 でもまさか、天下の警備隊長がありえないよね?


「…そんなことはない」

 強は藍にそう憮然として答える。自分の弱みを見られたくないため、その表情がすこし怒っているようにも見える。

「じゃ、手を貸して下さい。馬はすみません。あきらめてください」

 藍の意志の強そうな青い瞳を向けられ、強は仕方なく手を差し出す。藍は手を掴むと何も言わず飛び上がった。

「?!」

 浮遊感が体を包み、強は自分の顔が青ざめるのがわかった。

「怖がらないでください」

「怖くなどない」

 藍は怯える警備隊長の答えに思わず笑みを浮かべる。

「何がおかしい?」

「いや、別に…。さ、強様、飛ばしますよ。テン様といえ、早くしないと大変なことになりますから」

 



「典、大丈夫か?」

 帝は寝室から体を起こし心配気に、自分の身を守る呪術司を見上げる。

「大丈夫です」

 典は脂汗をかきながらそう答えた。

 実際のところ大丈夫ではなかった。辛うじて帝に呪いが届く前に止めることができたが、呪いが意外に強力で弾き飛ばすことができなかった。

 呪術部から何名かの呪術者が来たが、典の助けになることはなかった。


 そこで浮かんだのが、二年前に宮を出て行った藍だった。


 可愛らしい女性でその姿に似合わず、甘えのないその気は典を唸らせることもよくあった。

 宮を出るというのを何度もひきとめたが、とうとう2年前に出て行ってしまった。

 この2年大きな呪いが宮を襲うことはなく、典は弟子の藍の助けを必要としなかった。

 しかし、今回はどうしても藍の助けが必要そうだった。


 親友の強に頼み、藍を連れて来るように言って三刻が立とうとしていた。


 体がきしみ始め、呪いを弾く結界が崩れ始めようとしていた。


 まずいな…


 帝に不安を与えないように笑顔を作りながら、内心、典は焦っていた。



「典様!」

 ひさびさに聞いた元気な弟子の声に典はほっとする。

「何者だ!」 

 窓からふいに入ってきた茶色の髪の女性を見て声を荒げた警備兵だが、側に隊長の姿を確認し構えた刀を降ろす。

「藍、来てくれたんだ。ありがとう」

「どういたしまして」

 藍はぺこりと師に頭を下げた後、奥にいる男に気づいた。

 黒髪に黒い瞳、真っ白の肌の華奢な男がベッドの上に座っていた。

 その場所、色彩から帝であることがわかる。

 寝室には帝と典のほか、数人の警備兵がいた。一緒にきた強は船酔いではなく、飛び酔いになったようで、顔色を悪くし、警備兵と共に壁に控えている。

「帝様、紅花国くかこくの藍です」 

 藍はとりあえず師の横から顔を出し、寝台の帝に対し頭を垂れる。

「ごくろうである。宮から出たというのにすまないな」

 帝は藍を見ると微笑みを浮かべた。

「そんなこと、恐れ多いです」

 帝にそう言われ藍はふかぶかと頭を下げた。

 

 帝さんって悪い人じゃなさそうだ。

 ま、悪かったら国が滅んでるか。


 藍がそんなことを考えていると声がかかった。

「藍。悪いけど、呪いを先に返して貰ってもいいかい?」

「そうでしたね。じゃあやります」

 藍は帝に再度頭を下げると、長時間の呪い封じのため疲れをみせる師に視線を向けた。その手に真っ黒は気が絡みついている。

「かなり強力そうですね」

「それはそうだ。この私がはじけ飛ばせないんだから」

「そうですね」

 やっぱり偉そうな人だなと思いながら、藍は心を落ちつける。

 そして手の平に気を貯め始める。

「いきます!」

 気をためたところでそう声をかけ、その黒い気に自分の気をぶつける。

 

 衝撃音がし、光が弾ける。


 典は黒い気から解放され、ほっとその場に座り込む。

 しかし、煙から現れた藍の姿をみて、目を見開いた。


「……藍。残念ながら君に呪いがかかったようだ」

 典の言葉と視線に、藍は自分の姿を確認する。そして、自分が別の姿、別の女性になっていることに気づいた。




「え?元に戻る方法?どうして?」

 美しき呪術司はにこにこっと笑って、そう聞いた。


 呪いを弾き、帝の安全がわかってから、典は再度結界を張り直した。そして藍を連れ呪術部の呪術司部屋に戻ってきていた。


「どうしてって、こんな姿で村に帰れないですよ。戻す方法教えてください!」

「……いや。ご両親も喜ぶと思うよ。今なら国で一番の美女だと思うけど」

「!!」

 藍は師をギロリと睨みつける。


 典の言葉通り、変化した姿は、それはそれは美しい女性体だった。

 青い瞳に波打つ金色の髪の毛、そして美しい肢体…


 宮内を歩いて、呪術部に戻る途中、振り返らない者はいなかった。


 そう確かに、国一番の美女かもしれない。

 今なら…


 でも、私はそんなものに興味はない。

 鼻が低くても、目が小さくても、胸がなくても、前の姿の方がよかった。


「戻る方法教えてください!教えないと典様、私が全身全霊をかけて呪いますよ!」

 美しくなってしまった弟子の言葉に典の顔が引きつる。

 

 通常他人に自分の名前の書体を教えてはいけない。

 呪いに使われる可能性があるからだ。

 しかし、典の名前の書体はあることがきっかけで藍にばれていた。


「…しょうがないな。いいよ。教えてあげよう。多分この呪いは東の呪術師・ケンの仕業だ。あいつがしそうなことだ。多分私が防ぐと思って、かけてきたのだろう」

「東の呪術師賢…。その人に会えば、呪いを解いてもらえるんですね!」

「多分ね」

「多分ってなんですか!」

「彼は気まぐれだからね。もしかしたら代償を取られるかもしれない」

「代償?」

「一晩お付き合いするとか…」

「!嫌です!典様、一緒に行って頼んでください。お願いします!」

「だめだ。私は宮を出れない。あー強を連れていくといい。あいつならなんとか賢に頼めるかもしれない」

「強様?」

「そう」

 


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