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呪われたもの  作者: ありま氷炎
第四章 帝の愛妾
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「はあ……」

 街を二刻の間、練り歩き、昼食を取ることになった。

 今日は一日駆けて宮京を回る予定だった。

 頭痛がするような頭の大きな飾り、重い着物を着たランは、心底疲れていた。普段しない艶やかな微笑というものを強要され、顔の筋肉も強張っているようだった。

「藍、大丈夫か?」

 この新しい愛妾が偽装ということを知っているのはごく少数だけだ。そのため、帝は部屋に誰も立ち入らないように申し伝えていた。

「大丈夫です」

 藍はそう答える。実は帝を離れて1人で休憩したかったのだが、そう言うことができるわけもなく、藍は居心地悪さを感じながら座敷に座りこんでいた。


「帝」

「入ってよいぞ」

 金色の髪の美しき呪術司が姿を見せ、藍は安堵の息を漏らす。

「藍。うまく演技してたね。君にしてはすごいよ」

 

 君にしてはって?!

 

 そう思いながらも藍は帝の手前、視線だけをぎらりと典に向ける。

「帝。昼食後、ここから右手に宮京を周り、宮に戻る予定です。仕掛けて来るとしたらその時かもしれません」

 師は弟子の鋭い視線を笑みで返し、帝に顔を向ける。

「そうか。草…は仕掛けて来るか?」

「多分」

 典の言葉の後に重い沈黙が流れる。

 藍はそっと帝の表情を窺った。


 自分の実の子に命を狙われるっていい気持ちじゃないよね。

 しかも愛した人の子だし。

 どうにかできないかな…


「藍。そういうことで昼からもその調子で頼むよ。私はやることがあるからまたね。帝、半刻後、ここを発ちますがよろしいでしょうか?」

「わかった。お前に任せる」

「それでは失礼します」

 師は一礼すると部屋を出ていく。


 あー出ていちゃった。

 なんだか2人ってつらいんですけど。

 

 でも帝はどんな気持ちなんだろう。

 愛した人と同じ姿の人が側にいて。

 もしかしたら嫌かもなあ。


「帝様……。私、少し席をはずしましょうか?大丈夫ですか?」

「藍…。大丈夫だ。気にせずともよい」

 

 うーん。気になる。

 

 藍はそう思いながらも、帝にそう答えられ席を外すわけにもいかず、沈黙の中で目の前に並ぶ、豪華な御膳に視線を向ける。

「藍。さあ、食べるのだ。昼からもまた頑張ってもらわぬといかぬからな」

 短い間だが、藍の気質がわかった帝は相当無理して、麗しい愛妾の演技をしている若い呪術師を気遣う。

「すみません。いただきます~」

 帝の気遣いもあり、藍は空元気でそう言うと箸を持つ。

「帝、これおいしいです!」

 おずおずと食事を始めた藍はその美味な味付けに感動を覚えた。そして、先ほどまでの緊張が嘘のように食事に没頭し始めた。

 帝は愛しい人の同じ姿をしながらまったく別の性格の藍を眩しそうに見つめる。

 当の藍はそんな視線にも気付かず、めったに食べられない宮の豪勢な御膳を味わっていた。

 


リン様!離してください!例え罠でも俺は行く。帝をぶち殺す。俺に見せびらかすように母さんそっくりの呪術師を愛妾として披露するなんて許せない!」

ソウ!」

 隠れ家に草を連れ帰って、すぐに少年を目を覚ました。そして屋敷を出て行こうと暴れ始めた。

「冷静になれ。計画なしじゃ、ただ掴まるだけだ。帝を狙ったものとして打ち首になるぞ」

「打ち首?」

「そうだ。お前は多分帝の息子として扱われることはないだろう。帝の命を狙った輩として処罰される」

「…そ、そんなの。怖くないです。小さい時から父さんは死んだものを思っていた。だから今さら父さんなんていらない。ただ奴に思い知らせてやりたいだけなんです!」

 

「ふーん。そうか、そうなんだ」

「なるほどな。泣ける話じぇねーか」

 ふとそんな声が聞こえ、すとんと音がして人影が部屋の外に見える。 

「何者だ!」

 興奮している草の前に立ち、凜は刀に握り、襖を開ける。

「お、おっかねぇ!」

「ちょっと。あぶないじゃないか!」

ケイホウ!なんで貴様達が!?」

 二人の姿を確認した南の呪術師は顔をしかめる。

 悪評高い闇の呪術師のケイホウは、表の呪術師凜にとっては天敵のような存在だった。

「凜、刀を納めろ。この二人は協力者だ。敵ではない」

 桂と呆の背後に現れたコンが凜にそう命じる。

「協力者?!」

 凜は紺の言葉に眉を潜める。二人は凜の驚きをあざ笑うかのようにケラケラと笑う。

「そう、一緒に帝を殺そうぜ。南の呪術師様よ」

「そうそう。あたい達と一緒にさあ」

 にやけた表情の二人に凜は切りかかりたいと衝動を押さえる。紺の言葉はクウの言葉だった。紺は空の忠実な部下であり、彼が裏切ることなどありえなかった。

「凜様…」

 苛立ちを隠せない様子の師匠の後ろで草は突如現れた二人を見つめる。先ほどまでの怒りや焦りはすでにどこかに行っていた。それほど目の前の男女の様子は奇妙で、とてもでないが善人には見ない者たちだった。

「草。安心しろ。例え何があってもお前がだけは私が守るから」 

 少年の心配を感じとり、凜は刀を納めながらも草を背中に庇う。

「おやおや、凜さんよ。お母さんみたいだね」

「ぼっちゃん、お父さんを殺すんじゃなかったのかい?」

 二人の挑発するような言葉に凜と草の波動が変わる。しかし凜達が行動を取るより早く動いたのは紺だった。

 しゅんと風が吹き、二人の間を鋭い刃物が掠る。桂の頬が少しきれ、呆の髭がすこし削がれる。

「な、なんてことしやがるんだ。紺!」

「この野郎!」

「いい加減にしろ。桂、呆!争っている場合ではない。俺達の目的は帝を殺すことだ。それ以外のことは目的を達してからにしろ!」

 紺の恫喝に二人は不満そうだが黙る。

「凜。お前もだ。わかったな」

「ああ」

 凜の返事を聞き、紺は懐から紙を取り出す。それは宮京の地図であった。

「愛妾のお披露目がされているのは知っているな?」

「ああ」

「俺達はそれを襲う」

「罠だぞ」

「わかってる」

「空の指示なのか?」

「ああ」

 紺の肯定に凜は眉を潜める。

 罠とわかっていて跳び込む。そんな馬鹿なこと考えれなかった。

 しかし、凜は空の思い通りにしか動けない。


「行列はここを抜け、宮に戻る。ここは人通りが多く、視界が悪い。狙うにはうってつけの場所だ」

 紺が凛の考えを他所に縁側に地図を広げそう説明する。とりあえず集められた者たちは大人しくそれを聞いていた。

「雑魚には構うな。桂と呆、お前達は呪術師を。凜は呪術司、俺は警備隊長を狙う。そして草。お前は帝だ。わかったな」

「紺、帝の側には愛妾の振りをした呪術師がいる。草に荷が重い」

「大丈夫だ。俺が警備隊長を片付けた後、援護に回る。お前も草を援護したければさっさと呪術司を片づけるんだな」

「紺!」

「凜様。俺大丈夫です。母さんの姿で愛妾の振りをする女は許せない。帝と一緒に殺してやる」

「草!」

「そういうことだ。凜。話は以上だ。現場に向かうぞ」

 不服そうな凜に冷たい視線を向けると紺は縁側に広げた地図を乱暴に掴む。

「凜様。俺大丈夫ですから!」

 

 空は何を考えてるんだ?

 

 気合を入れる弟子を見、凜は愛しい人にそう心の中で問う。


 あの女性呪術師の力は確かだ。とてもでないが草に敵う相手ではない。

 しかし空はそれを望んでる。


 凜は嫌な予感を覚えながら空を見上げる。


 雲ひとつない青い空が頭上に広がる。空の上で太陽は真上に輝き、高見の見物をするのにうってつけだった。



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