急に居なくなる男の子の物語
あの日、少年は消えた。
それは、あまりにも普通の放課後だった。
チャイムが鳴って、教室のざわめきが一気に広がる。
ランドセルを背負いながら、僕は隣の席の少年——蒼に声をかけた。
「帰ろうぜ」
返事はなかった。
振り向くと、そこに蒼はいなかった。
ついさっきまで座っていたはずの椅子は、きれいに机の中に収まっていて、まるで最初から誰も座っていなかったみたいだった。
「……あれ?」
違和感が胸に引っかかる。
「なあ、蒼どこ行った?」
前の席の女子に聞くと、怪訝そうな顔をされた。
「蒼って誰?」
その一言で、教室の空気が少し変わった。
「いや、隣の席の……」
言いかけて、言葉が止まる。
黒板に貼られた座席表を見た。
——僕の隣は、最初から空席だった。
「ほら、空いてるでしょ」
女子が指差す。
確かに、そこには名前がない。
でも、そんなはずはない。
今日の朝、蒼とくだらない話をした。
消しゴムを貸してもらった。
給食のパンを半分こした。
その全部が、確かにあったはずなのに。
「……おかしいだろ」
思わず声が強くなる。
クラスの何人かがこちらを見た。
「ねえ、大丈夫?」
「変なこと言ってるよ」
ざわざわと、小さな波みたいな声が広がる。
僕だけが、何かを間違えているみたいだった。
⸻
その日の帰り道、僕は蒼の家に向かった。
見慣れたはずの角を曲がり、古い表札の家の前に立つ。
——でも、そこにあったのは、見知らぬ家だった。
白い壁。新しいポスト。
表札には、全く違う名字が書かれている。
「……は?」
何度も周りを見渡す。
間違えるはずがない。
ここは、蒼の家だった。
インターホンを押す。
しばらくして、知らない女性が出てきた。
「どちら様ですか?」
「あの……ここに蒼っていう男の子……」
言い終わる前に、女性は首をかしげた。
「うちは引っ越してきて半年になりますけど、そんな子はいませんよ」
心臓が、強く鳴った。
「……そんなはず、ないです」
「ごめんなさいね」
静かにドアが閉まる。
カチャン、という音がやけに大きく響いた。
⸻
その夜、僕は自分の机をひっくり返すように探した。
ノート、プリント、連絡帳。
蒼の名前がどこかに残っていないか。
でも——
どこにもなかった。
クラス写真を見ても、卒業アルバムの下書きを見ても、
そこに蒼はいない。
最初から存在していなかったみたいに。
「……嘘だろ」
そのとき、ふと気づいた。
机の奥から出てきた、一枚の紙。
見覚えのないメモだった。
震える手で開く。
そこには、たった一行だけ書かれていた。
⸻
「次は、お前の番だ」




