表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/50

目指すべきもののために

 数日後、大岡は愛犬のナコトと共にヤエ先生の家を訪ねていた。リビングにて。ナコトは大岡の足元で大人しくしている。先生から出されたコーヒーをいただきながら、大岡には気になることがあった。


「先生、猫の呪いですが……」

「あれなら、マリー君から返してもらったわ」

「そうですか。彼女は……」

「反省してるみたいよ。というか、しょんぼりしてた」


 それを聞いて、大岡はあの時に言いすぎたかなと思ってしまう。数日経ち、大岡の気持ちは大分落ち着いてきた。とはいえ、マリーを簡単に許すのも違うだろう。


「……今回のことで君には感謝してるのよ。おかげでマリー君の弱みを握ることができた。これからしばらくは、こき使ってあげるわよ」

「ヤエ先生。マリーは悪いと思って呪物を返しに来たんでしょ。なので、いくらかは恩情をかけてはくれませんか?」

「恩情と言われてもね……あの子が私の呪物を盗んだのは事実だし、それなりの罰は受けてもらうわよ」

「そうですか……」


 不安そうにする大岡へ「でも安心なさい」と、ヤエが言う。ヤエは悪そうな顔をしているので、大岡としては、あまり安心できない。


「探索者協会の上層部がやらせるような汚れ仕事には関わらせない。真っ当に、こき使ってやるって話よ。だから君が懸念してるようなことには、ならないわ」

「……ありがとうございます」

「それを言うべきはマリー君の方なんだけどねえ。彼女、本当に凄く落ち込んでたのよ。大岡君も言う時は言うのねえ」


 先生は楽しそうに笑う。大岡としてはあまり面白い話ではないのだが……マリーが償いのために汚れ仕事をしたりすることにならなければ、それで良い。


「大岡君……私が君に以前言ったことは覚えてる?」

「以前というと色々ありますから……どのことでしょうか?」

「君へ出した宿題のこと。君がどうしてトワ君やマリー君を守れる人になりたいと思ったか……答えは出た?」

「それについては、まあ……」


 答えは出た。だからこそ、大岡はマリーが差し伸べた手を拒否し、トワの背中を追い続ける道を選んだ。それが辛い道だとしても迷いはない。


「私にとって、あの二人はずっと前から眩しい存在でした。誰かのために動くことができる人。誰かを助けるための力が備わっていて、それを人に使うことを躊躇わない人」

「でも君はマリー君が差し伸べた手を払った」

「人の物を盗んで、人を閉じ込める手段を取るのは間違っています。そういうやり方が、私は好きじゃない。それに……」

「それに?」

「簡単に言えば、あれはヒーローのやり方じゃない」


 大岡の言葉を聞いてヤエは「確かに」と楽しそうに笑う。彼女が「君はヒーローになりたかったんだ」と言って、大岡は頷いた。否定するところが無かったからだ。


「私はヒーローになりたかった。そんなことを言うと、子どもっぽい理由かもしれませんね」

「そうかしら? ヒーローになりたいなんて素敵な夢じゃない?」


 大岡は気恥ずかしくなって頬を掻いた。無言の間が苦しくて、気付いた時には口が動いている。


「ダンジョンで戦うだけがヒーローじゃない。私には、私にできる戦いかたがあるはずです。つまり、私は配信で呪物の知識を広めることで、事故を減らせるかもしれない」

「そういう形のヒーローもあるかもしれないわね」

「ええ、だから私はこれからも呪物の鑑定を続けます。その様子を配信して、少しでも呪物による事故が減る世の中を目指します」


 言いきった。言いきって、耳が熱くなるのを、大岡は感じていた。自身の夢を語るというのは、結構恥ずかしいものだ。


「……良いんじゃない? あなたの目指す道がはっきりした今、もう迷うことはないでしょう」

「はい、もう迷いません」


 大岡は迷わない。自分の信じた道を進む。それは今ここに居ないトワもそうだ。彼女の方はずっと前から自分の道を進んでいて、大岡はようやくといった感じだが。


「大岡君とトワ君は二人共、自分の道をまっすぐに進んでいる。ならば、私は恩師としてマリー君にも正しい道を示すべきよね。本当はもっと早くにそうしなくちゃいけなかったんだけど……」


 複雑そうな表情を見せたヤエに、大岡はどう答えるべきか迷う。ヤエ先生がそういう顔をするのは本当に珍しいことだったから。


「……私だって悩むのよ。教え子が盗みに監禁だなんて」

「ほんとに、恩情をお願いします」

「だから、それはそれ。これはこれだってば」


 今回の事件についての話もまとまり、しばらくして、大岡は席を立つ。ナコトもスッと立ち上がり、一人と一匹はヤエ先生の家を出る。外には青い空が広がっている。まだ肌寒い季節だが、陽光は気持ちいい。


「それじゃ帰ろっか。ナコト」


 大岡の言葉にナコトは尻尾を振って応えた。その様子を見て、大岡は少しの元気をもらう。大岡の人生はこれからも続いていく。ヒーローを目指す物語も続いていくのだ。であれば、休んでいる暇は、あまり無い!


 大岡は帰路を急ぐ。帰って配信の準備だ。そしてまた、呪物の鑑定と、配信に励むのだ。目指すべきもののために!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ