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君を追う物語

 探索者協会まで大岡はやって来た。大岡は息を吸って、吐き、意を決して施設内へと進んでいく。大岡はこれからトワに思いを伝える。さっきの短い言葉でも、猫の呪いを解くには充分だったのだろうけど、それだけでは大岡には足りない。彼女の気持ちの問題だ。


 施設のロビーを進み、ほどなくして大岡はトワを見つけた。彼女は静かに、そこに立っていて、大岡の姿に気付くと、いつものように手を振ってくれた。それが大岡には嬉しい。


「やあ、マニア。立ち話もなんだし、場所を移さないかい? とりあえず、どこかに座りたいかな」

「だな。その提案に私も賛成だぞ」


 大岡たちは施設を出て、すぐ近くの喫茶店に入った。そこでコーヒーを頼んでから、席を探し、なるべく人気の無い場所に座る。それから、大岡はすぐに「話があるんだ」と切り出す。トワは落ち着いた様子で「うん」と答えてくれて、大岡は安心して話をできる。


「……なんというか、今日は大変だった」

「まだ半日しか経ってないのに」

「ああ、まだ半日しか経ってないのに、だ」


 大岡はまず、マリーの屋敷であったことをトワに伝えた。トワはマリーが猫の呪いを先生から盗み、大岡に対して使ったことを知り、困惑していた。まさか彼女がそんなことをするなんて。そんな心の声が大岡の耳には届くようにも感じられた。


「……ともかく、君は猫の呪いを解いて、ここまでやって来た。つまり……」

「私が、トワを好きだと言うことだぞ」

「……それは、嬉しいけれど」


 トワは少し複雑そうな表情をしていた。嬉しいという気持ちを素直に受け入れて良いのか分からない……そんな顔だと、少なくとも大岡には思えた。


「……マリーのことを気にしてる?」


 大岡の言葉にトワは少し迷ったように頷いた。彼女が迷う気持ちは大岡にも分かる。トワは本気で友だちのことを考えられる人だから。


「マリーもそれだけ、思い悩んでたってことだよね……」

「……まあ、そうだろうな」


 少し、気まずく、落ち着かない。そんな空気の中で大岡は言う。今は大岡の気持ちを伝えるべき大事な時だと思ったから。だから、伝えるのだ。


「トワ……私は、トワを選んだ。私に並んで手を差しのべてくれた相手じゃなく、君を選んだ」

「マニア、それはなんでなの?」

「私は……今回のことで気づいた。私が心から求めていたのは誰かに並んでもらうことじゃないんだ」

「でも、横に並んでもらえたなら、君の寂しい気持ちは晴れたかもしれなかった」


 大岡はその言葉に、ハッとする。トワは大岡の寂しい気持ちには気付いていたのか。それでも、彼女は、彼女の進む道を進み続けていた。それが分かった今、やはり大岡は彼女を選ぶことが正解だったのだと感じる。


「……マリーを選んでいれば、そこで私の寂しさは晴れたのかもしれない。けども、それじゃあダメなんだ」

「どうして?」

「寂しさは、私が前に進むための原動力だった。私が君たちに憧れて、君たちのようになりたいと目指すために必要なものなんだ。それが無くなってしまったら、きっと私はそこで足を止めてしまう」

「……つまりマニアは、ずっと寂しさを抱えながら、それでも目指すものを追い続けたいと思っているんだね」

「うん……だから……」


 大岡は自らの歪んだ思いと、自らの歪んだあり方をトワに伝える。それこそが、大岡の望み続けるものだから、もう迷いはない。


「私は……トワが好き。だからこそ、トワにはこれからも私の前を進み続けてほしいんだ。君の背中をこれからもずっと追わせてほしいんだ」

「……マニア、それはきっと、苦しい生き方だよ。だって君の望みはずっと届かないことであり続けるものだら」

「ゴールは要らない。けれど、もう迷わない。私はただ、君を追い続けたい」

「……なら、私は全力で進み続けなくちゃいけないね。マニアに追いつかれることがないように」


 それから少し、ぎこちない空気が流れ、トワは鞄からあるものを取り出す。それに大岡は見覚えがあった。


「……ところで、私からのプレゼント」

「これは、毒の指輪だな……」


 以前、大岡がトワのために鑑定したものだ。Bと文字の掘られた指輪は不吉なものを思わせるが、大岡にとっては好みの雰囲気でもある。


「ルクレツィア・ボルジアの指輪。私が、マニアのためにできることと言えば、こういうものを渡すくらい、かな」

「……ああ、探索者協会でやってたことってそれに関する許可を取ってたとか?」

「そんなとこ。受け取ってもらえる?」


 大岡としては受け取らない理由は無い。ただ、何故とは思うのだ。どうしてトワは、大岡に呪物をくれることがあるのだろうか? 大岡の気を引くため? どうも、それだけではないような気もする。大岡がそのことについて問うと、トワは静かに笑って言った。


「私が遠くに行ってる間も、せめてマニアが寂しくなければ良いなって……そんな理由じゃダメかな?」


 ダメなんかじゃない。むしろ、トワの気持ちは大岡には嬉しかった。大岡は指輪を受け取る。


「これ、受け取るよ。ありがとう。トワ」

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