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猫の呪い(5)

「それじゃあ、少し聞きたいことがあるんだが」


 大岡の言葉をマリーは黙って聞いている。邪魔をしないのなら、それで良い。大岡は自分のやるべきことをやるだけ。今のマリーとは決別する。そのためには推理が必要だ。


「マリー、君は自身に課したルールを語る時や、他にも、フェアという言葉をよく使った。それは私に対してフェアであるためか?」


 マリーは答えない。それだけで、大岡の欲しかった答えを語っているようなものだ。そのことに彼女は気付いていないのかもしれないが。大岡にとっては助かる。


「マリー。おそらくこれは、トワとフェアに戦うためのルールなんだろう? まあ、私にはこれでも一方に傾いたルールのように思えるけど」


 マリーは何も言わない。あくまでも、黙秘を貫くつもりのようだ。もしかしたら、彼女がこの呪いのために用意した答えるべき言葉というのは少ないのかもしれない。けれど、マリーの表情を見ていれば知りたいことは分かる。大岡は、何かを知るために必要なピースは見逃さない。そのことには絶対の自信を持っている。


「マリー、君が私とのフェアな勝負でなく、トワとのフェアな勝負を望んでいるのだとしたら、君だけでなく、トワもこのループは理解している。そうかな?」


 もし、そうだとしたら大岡はトワも好きではなくなってしまうかもしれない。だから、できればトワはこのループを知らないでほしいと願う。


「……トワさんは、このループには気付いていません。気付けません。ただ、彼女の行動は分かっています。彼女はこれからプレゼントを持ってきて、あなたに渡す」

「ふぅん……」


 大岡は内心ではホッとしていた。少なくとも、トワはこの呪いに直接関わってはいない。それが分かっただけでも心の支えになる。そして、あれだけ黙秘を続けていたマリーが今は喋った。ならばこの話題はマリーが答えるべきことに含まれていたのだろう。そこを上手くつけると良いのだが。


「マリー、私は君に少し尋問をするぞ。悪くは思わないでくれよ。君がこんな状況を作っていなければ、こんなことを聞く必要は無いんだから」


 下手な聞き方をしても、マリーは黙ったままだろう。だが、呪いのルールを利用すれば、大岡の知りたいことを知ることができるかもしれない。それは推理をより完璧にするための小さなピースになるのだろうが、できることなら集めておきたい。


「トワは、君がこの状況を作った理由を知らない。これは君の、一方的な挑戦だろう?」

「……ええ、そうですわ。これはわたくしからトワさんへの一方的な挑戦です」


 悔しそうに喋るマリーを見て、大岡は確信する。重要な言葉はトワが知っているかということだ。ならば、聞き方を少し工夫すればいくらでもマリーから情報を聞き出せる。この時点でマリーの側はほぼ詰みだろう。呪物の使い方を謝ったな。そう思いながら、大岡は淡々と尋問を続ける。状況の解決にトワの名前を使うのは少し悪い気もしたが、必要なことだ。


「……君はトワに対して何かを焦っていた。けれど、トワは君が焦っていたことも知らない。そうなんじゃないか?」


 マリーが突然こんな行動を取ったからには、急ぐ理由があったのだろう。そう考えて聞いた大岡にマリーは「はい」と答える。ここまでは大岡の予想通り、けれど次にマリーの口から出た言葉に大岡は思わずたじろいでしまった。


「……トワさんとマニアさんは、互いに思いあっている。わたくしも……あなたのことが好きなのに……このままでは絶対に勝てない。だから、わたくしは、焦っていたのです……」


 そう、だったのか。大岡はトワのことが好きだった。そして、トワも大岡のことが好きだったんだ。マリーが大岡を好きだったという言葉にも嘘はないのだろう。それはマリーの本気で悔しそうな表情を見れば分かる。真実を知り、たじろいでしまった大岡だが、色々と腑に落ちた。


「なるほどな。つまり……これはマリーとトワの、どちらが、私の心を射止められるかの勝負だったわけだ。すでに私とトワが互いに好きならば、確かにマリーの方が不利だったのかもしれない」


 マリーが、彼女に有利な状況を作って初めて、勝負はフェアになったのかもしれない。それくらい彼女は切羽詰まっていた。だが、彼女に余裕が無かったのだとしても、大岡は彼女を許せない。少なくとも、しばらくは。


「なあ、マリー。君はすでに詰んでいる。だから呪いのルールとかは関係なしに、教えてほしい。確認したいんだ。君は、私に告白していた。今も記憶の曖昧な、新たなループに入るの直前のタイミングで、君は私に告白をしていたんじゃないか? 何度も」


 マリーは何も言わない。ただ、静かに頷いた。大岡は最後にもう一つだけ彼女に確認したいことがあった。このループが始まってから、ずっと気になっていたこと。


「マリー、君が何度もやっていたコイントス。あれは、君の告白に関わることだったんじゃないかな。例えば、表が出たループの中では、君が私に告白するとか」

「……あなたは、なんでもお見通しなのですね。怖いくらいですわ……」

「それが私の特技なもので」


 マリーが、このような状況を作った理由は判明した。大岡の推理が間違っていなければ、この呪いを解くための条件も分かった。そして今の大岡にはもう一つ必要なものがあることも分かる。呪いを解くためには、勇気が必要だ。

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