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先生とファミレスで

 大岡の自宅近くにあるファミレスで、彼女はとある人物と待ち合わせた。その人物は彼女の恩師であり、もう一人の特急鑑定士。大岡はヤエ先生と会えて、安心感を覚えた。ここ数日、大岡の心はなんだか、ざわついていたのだ。


「大岡君から私を呼んでくれるだなんて、嬉しいじゃない」

「私も先生と会えて、嬉しい……のかな?」

「そこは自身を持って話してほしいところだけど、まあ良いわ。とりあえず、ドリンクバーでも頼みましょうか。それから、話したいことがあるんでしょ」


 大岡と先生はドリンクバーを注文し、それぞれが好みのドリンクを持ってきた。それから、大岡は話すべきことを一旦頭の中でまとめる。大岡は意を決して、先生に話す。


「まず、確認しておきたいことなんですけど……」

「あらどうしたの? 声を潜めて」

「先生……この前の壺と女性の不審死には関わってませんよね?」

「関わってないわ。それは約束する」


 即答だった。ヤエ先生の言葉に安心しつつも、けれど、その言葉が嘘という可能性は捨てきれない。それでも、大岡は先生のことを信頼する。でなければ、疑いの気持ちからは抜け出せないからだ。


「……大岡君、少し疲れているようね?」

「実は……そうなんです」

「この前の事件がショックで心が折れた……というわけではなさそうだけど……」

「そこはまあ……呪物と関わると決めた時から覚悟はしていますから……けれど、やはり……きついですね……自分が関わった人が亡くなるのは」


 件の女性は、この前の配信で、色々と質問などに応えてくれていた。大岡がまとめていたメモは蛇のアザの女性と共に作ったものだ。大岡が彼女のアザに最後まで気付かなければ、あのニュースを見ても、今ほど気にしていなかっただろうか?


「……大岡君、私が今更言わなくたって、分かっていることだろうけど、呪物と関わっている限り、人の死を見聞きすることは、覚悟していなければならないのよ」

「……分かっています」

「それでも、君が呪物と関わるのは、友達のためよね。トワ君とか、マリー君のため、なのよね?」

「はい、私は彼女たちに置いていかれたくなくて、遠い存在になられたくなかったから、呪物と関わっているんです」

「ふぅん……」


 先生は大岡を見て「それだけじゃないでしょ」と言った。その言葉は大岡には意外だった。それだけではないとは、どういうことか? 気になって、大岡は聞き返す。


「それだけじゃないって、どういうことですか?」

「人間って、自分自身の気持ちに、案外気付かないものよね」

「私が、私の気持ちに気付いていない……?」

「そのようね。まあ、意地悪しないで教えてあげるけど、君は……弱い人間だからね。知人が傷つく程に弱ってしまう。だから、君の大切な誰かが傷つかないために、呪物について学んだんでしょ」

「二人に置いていかれたくないだけじゃなくて、二人が傷つかないように……私は呪物を学んでいた……?」


 それは意外な気付きだった。単に追い付きたいと思っていただけの二人……そう思っていたけれど、大岡は彼女たちのことを守ろうと思っていたのだ。


「大岡君……君が誰かの不幸に傷付くのは、仕方がないことよ。だって君は、弱い人間なのだから」

「それは……そうなんでしょうね」

「だからこそ、君は誰かを守ろうと努力のできる人間なのよ。君が傷付きたくないから、そういう理由で、学び始めたのだとしても、それは素敵なことではないかしら?」

「素敵なこと……」


 そう言われるのは意外だったから、どう反応をしたら良いか、迷ってしまう。大岡は、先生の次の言葉を待つ。


「君はね……自分自身のためと、大好きな人たち、その両方を守ろうとしてる。なんなら君が関わる全ての人を守ろうとしている。それは恥じるようなことではないの」

「……別に、恥じていたわけでは……」

「君の心が傷付きやすいのは、もう特性みたいなものだから、なにも気にせず、心が休まるまでは休んでいることね。その間、君自身のことについて考え直してみるのも良いでしょうね」

「……考え直す、とは?」


 今話してもらったことで、大岡のモヤモヤは、だいぶ晴れたように思えるが、まだ考え直すべきことがあるだろうか? 先生が言っていたように、自分自身のことに案外気付いていないものなのだろうか? 大岡には分からない。


「……ヒントをあげましょうか?」


 先生が、ニヤニヤとした顔で聞いてくる。こういう時、彼女は状況を面白がっている。普段は、不吉な予感を与えるそれに、今はそれほど不安感を覚えない。大岡は「教えてください」と答える。


「大岡君……君は元々、どうして二人を守ろうと思ったの? その根底にある気持ちに、気付けたのなら、君がやることに迷いはなくなると思うのよね」

「私の……根底の気持ち……」

「そこに気付くことを、大岡君への宿題にしようかしらね。それじゃあ……そろそろ料理を頼んでも良いかしら? 君から誘ってるんだし、もちろん奢ってくれるわよね?」

「……ええ、良いですよ」


 ヤエ先生は人としての問題はあるけれど、それでも頼りになる人だと、大岡は改めて思うのだった。

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