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蛇の壺(後編)

 大岡はトウビョウの壺に触れる。それはゾクリとするほどに冷たく、内側になんらかの気配が感じられる。手を離して、大岡は言う。


「トウビョウは蛇の神様で、さっきも言った通り、蛇は金運を運んでくる縁起の良いものだとも考えられる。トウビョウに取り憑かれた者には、金運が寄ってくるんだ。が、それだけじゃない」


 大岡は、このトウビョウを使ってみようとは考えない。これはかなり厄介な代物だからだ。その危険性を今から説明していく。


「……トウビョウは、取り憑いた者を守護してくれる。例えば、対象者が誰かに対して、なんとなく嫌だなって気持ちを持っただけでも、トウビョウはその相手を攻撃するんだ。様々な不幸の形でな」


 この呪物は他人に不幸を与えかねない。だから大岡は、この呪物を使ってみようだなんて、考えないのだ。自分に不幸が降りかかるならともかく、誰かに不幸を与えたいとは思わないから。


「誰かを、なんとなく嫌だなって思うなんて……」


 何か言いたげな様子のサクヤに大岡は「話してくれ」と促す。喋りたいことは、喋ってしまった方が良い時もある。今は、そういう時だろうと、大岡は思ったのだ。やがて、サクヤは意を決した様子で話す。


「誰かを、なんとなく嫌だと思うことは、私にもあります」

「というか、それはたぶん誰にでもあることだぜ」


・それな

・強く願うとかじゃないもんね

・なんとなく思った時点で呪物の力が発動するのか

・怖い……

・なんとなく、くらいで嫌だなって思うことはあるよね


「なんとなく、なんてのは誰でも思うだろうぜ。そして、だからこそ、この呪物はコントロールが効かない」

「なるほど……」

「一度、トウビョウに取り憑かれたら、後は死ぬまでの付き合いだ。そして、この場所はすでに、トウビョウに気に入られている」

「トウビョウの呪いを解除する方法はないのですか?」


 サクヤからの問いに大岡は首を振って応える。残念ながら、トウビョウの呪いを解除する方法はない。だから、このトウビョウという呪物は厄介なのだ。


「トウビョウに取り憑かれたら、できることは、一つだけ。とにかく信仰を続けること。具体的にはお供えを欠かさないことだな。そうしていれば、トウビョウが取り憑いているものへ不幸を与えることはない」

「……なるほど」


 大岡は、トウビョウへのお供え物などの説明をする。このことは、ちゃんとメモに残して施設の人間に伝えておかなくてはならない。でないと、探索者協会が大変なことになるからだ。


「……とまあ、今言ったように、ちゃんとお供え物をしておけば大丈夫だからな。後は、なるべく人に悪感情を抱かないこと……ができれば苦労はしないんだよなあ……」


 これからの探索者協会は大変かもしれない。というか、探索者協会に関わるもの全てに厄が舞い込んできたようなものだ。呪物に関わると決めたのなら、誰もがこのような事態は覚悟しているのだろうが、やはり良い気はしない大岡だった。


 まあ……配信で話さないだけで、トウビョウの呪いを消す方法が無いわけではない。けれど、それは言わない方が良いだろう。探索者協会だって全てがクリーンな組織ではない。大岡がその方法を話して、取り返しのつかないことが起こる可能性もある。少なくとも、大岡は、自分のせいでそうなるのは嫌だ。


「……さて、トウビョウに関しての紹介は、こんなところかな。今回の鑑定は以上! ってなわけで、そろそろお別れだぞー」

「……今回の呪物に関する逸話は話さないのですか?」

「ん、それはまあ……おいおいな。そのうちに私のチャンネルから、トウビョウに関する動画も出す予定だぞー」

「そうなのですね」

「というわけで、今日はサクヤちゃんとナガヒメちゃんが配信に来てくれました。ありがとうだぞー。おつマニアー」


 そうして、お別れの挨拶も済み、その日の配信は無事に終わった。大岡は今回の配信も無事に終わったことにホッとしていた。大岡は帰宅する前に、トウビョウへのお供え物に関するメモを施設の職員に渡す。その時、大岡は驚き、目を見開いてしまった。


 メモを受け取る職員の首にうっすらと、巻き付く蛇のようなアザが見えたからだ。それは、トウビョウに取り憑かれたものを示すアザ。それは間違いなく厄介なもののはずだが、アザを持つ本人は、トウビョウを恐れている様子が無かった。


 後日、大岡は更に驚くことになる。スマホでネットニュースを見ていた時に、その記事を見つけたのだ。


 壺の破片と女性の怪死。


 記事によると、ある施設の地下倉庫で、女性が粉々になった壺と共に死んでいるのが見つかったらしい。その女性は首に蛇のようなアザを持っていたそうだ。


 大岡が施設の人間に伝えなかったトウビョウの呪いを解除する方法。それは簡単だ。トウビョウの取り憑いた人間が居なくなれば、呪いは一旦消える。ニュースを見る限り、壺も破壊されたという。それは恐らく、呪物の知識を持つものによる犯行。後味の悪い結果に、大岡は嫌なものを感じる。それと同時に。


 大岡は思う。きっと誰かがトウビョウの呪いを解くために、あの職員を殺した。あるいは、あの職員を殺すことで呪いが解かれることを教えたのだ。


 大岡は気を紛らわせたくて、トワに連絡を取ろうとした。そして、気付く。今トワはダンジョンに潜っている。大岡は、トワに連絡を取ることをやめて、別の人物にメッセージを送った。


 その人物は……。

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