蛇の壺(前編)
その日、大岡は探索者協会の施設に呼ばれていた。ある呪物の鑑定を依頼されたためだ。彼女がマリーのメイドたちと出会ったのは、本当に偶然だった。大岡はメイドたちに声をかけられ、驚きつつも返事をする。
「……どうも。サクヤさんとナガヒメさん、だったよな……?」
「はい、私がサクヤで……」
「あたしがナガヒメだよっ。マニアちゃん!」
サクヤは、大人しそうな雰囲気をしている。が、ナガヒメの方は天真爛漫とでも言えば良いのか、非常に元気だ。ナガヒメの明るさに、大岡は戸惑ってしまう。
「……ナガヒメ姉さん、マニア様が困っています」
「えぇー、そうかな? とりま、よろしくね! マニアちゃん!」
どう答えたものか、大岡は困る。彼女たちの近くにマリーは居ないものだろうか? 助けを求めたくてマリーの姿を探すが、広いロビーに友人の姿は見えない。どうやら、マリーは近くに居ないらしい。大岡は友人を探すことを諦めてメイド姉妹と話すことにする。
「えっと、二人はどういう用事で?」
「私は姉さんと共に、必要な事務手続きをしに」
「そうなんだな。私の方は、鑑定の依頼でやって来たんだぜ」
「それは、探索者協会からの依頼ですか?」
「ああ、そんなところ。今日の鑑定も、配信するぞー」
大岡がそう言うと、ナガヒメが興味津々な様子で大岡に距離を詰めてきた。オフではかなり積極的に接近してくる相手のようで、大岡はナガヒメに、少し苦手意識を感じていた。
「あたしたちも! あたしたちも、その鑑定を、見学させてもらっても良いかな?」
「鑑定を見学……? うーん……」
鑑定の様子を配信する。そう探索者協会には伝えている……そこに見学者が増えてもたぶん問題はない。ナガヒメたちに冷たく接した結果、マリーから悪い印象を持たれる。ということは避けたい。大岡は少し考えて、ナガヒメの提案を、ひとまず了承することにした。
「……ひとまず、施設の人に問題ないか聞いてみるぞ。問題なければ、配信を見学していってくれ」
大岡がそう答えると、ナガヒメの瞳がキラキラと輝いた! ように見える。それくらい、目の前のメイドは嬉しそうだ。そう言う表情をされて、悪い気はしない。
その後、受付カウンターに今日の用件を伝え、ほどなくして、メイド姉妹が配信を見学することが許可される。その時、施設の職員から予想外の提案をされてしまう。「大岡さんの配信に二人も出演してみては?」その二人とは当然、ナガヒメとサクヤのメイド姉妹だ。これは、面倒なことになったと大岡は思うのだった。
場所が移り、大岡はメイド姉妹や、施設の職員と共に依頼品が保管された地下倉庫へやって来た。メイド姉妹はヤル気満々だし、施設の職員もノリノリだ。今さら、配信は一人でやるなんて言えない。できるなら、姉妹には見学だけしていてもらいたかった大岡だが、それは難しそう。ならば、なるようになれの精神でやってみるしかない。トワやマリーとよくやったコラボ配信と同じだと思えば良いのだ。
地下倉庫はひんやりとしている。空調が効いているためだろうか? 涼しいというよりは、寒いくらいだ。冬なのだから、もう少し、暖かくしてほしい。とは思うものの、ここは倉庫であるため、あまり暖かくできないのだろう。大岡は寒さを我慢する。とにかく、今日も頑張ろう。
大岡は地下倉庫で机の上に置かれたそれを見る。土器、とでも言えば良いのか。蛇が巻き付いたような装飾がされた、それからは、長い歴史を感じられる。土器は全体的に黒っぽく、蛇の首の部分が金色になっている。これは分かりやすいなと、大岡はこの時点で、今回の依頼品の正体には見当がついた。
推理をさらに確実なものにするためには、情報が必要だ。大岡は施設の職員に話を聞く。これで、役に立つ情報が出てくれば文句はない。
「……職員さん、最近この施設で起きた気になったことはありますか?」
「気になったこと……ですか?」
聞き返してくる職員に大岡は「そうです」と応える。さらに「重要なことなので」と付け加える。呪物の正体に見当がついているとはいえど、情報は多い方が良い。万が一にも、予想を外すということは避けたい。大岡の熱意に対し、施設の職員は真剣に考えるような顔になった。
「……そうですね……気になったことは……いくつかあります」
「全部教えてください。どんな情報も助かります」
「……まず、最近妙に景気が良いんです。この施設に関して、景気の良い話ばかりが飛び込んできます」
「なるほど」
「そして次に、探索者協会の批判記事ばかりを書いていたライターに不幸があったと聞きます。だから、えっと……なんというか……」
「探索者協会に都合が良いことばかりが起こっている?」
「……はい、そうです。怖いくらいに」
「なるほど……他には?」
大岡は施設の職員から他にもいくつかの、気になることを聞いた。これだけ情報があれば充分だ。後は、配信で呪物の正体を明らかにしてやれば良い。他の職員やメイド姉妹に頼んでいた配信開始の準備も終わったようだ。ならば、後は配信を始めるだけ。
「さあ、やるか……!」
大岡は自身に気合いを入れる。人生初めての、友人以外とのコラボ配信が、もうすぐ始まろうとしていた。




