干からびた願望機(後編)
・デメリット?
・猿の手のデメリットってなんだろう?
・願望機のデメリットってなんか凄そう
・取り扱い注意ですね!
・呪物ってメリットが大きいほどデメリットも大きくなりやすいんだっけ?
リスナーからのコメントを見て大岡は頷く。元の話から考えるなら、猿の手は、特に気をつけて扱わねばならない呪物の一つだ。彼女の手に、汗がにじむ。
「猿の手はな。願ったことを自然な形で叶えてくれる。けれど、願いには代償が付き物。大きな願い事をすれば、それだけ大きな代償を支払うことになるんだぞー」
・ほほう
・等価交換ってこと!?
・自然な形か
・代償が必要なのね
・お金を願ったなら空中からポンとお金が現れるわけじゃなさそうね
「そう、お金を願えば、いきなり宙にお金が湧くって訳じゃない。大金を願えば、それは身近な誰かの不幸に対する見舞金という形でやって来るかもしれない。あるいは、強盗の落としたバッグなんかを拾って面倒に巻き込まれるかも」
・えー
・あまり大きな願いには使えなさそう
・何を願うと良いんだろう?
・謙虚な願いに使うべき物って感じかな?
・せっかくの願望機なのに、なんか歯がゆいなー
「この呪物から得られる教訓は、安易な願いの危険性ってところかな。過ぎた願いは身を滅ぼすってね。でも、何も願わないなんて配信としては面白くないよなー」
大岡は杖を強く握り、そう言った。彼女の言葉にコメントが加速する。配信ならば、見所が必要だ。大岡は緊張しながらも、そう考えていた。
・おー!
・そうこなくちゃ!
・大丈夫? 危険じゃない?
・呪物の扱いは得意なんだろうけど心配
・不安
コメントには、大岡を心配するものも多い。大岡自身、全く不安がないわけではない。けれど、彼女は特級呪物鑑定士。加減というものは、分かっているつもりだ。
「心配なさるな! 身の程をわきまえて、願い事はささやかなものにするぜー」
・ほっ
・えー
・まあ、しゃあないか
・でもハプニングを期待しちゃったり
・マニアちゃんの無事が一番大事だよ
願い事は、決めた。大岡は最近、靴下を一足どこかへやってしまった。それを見つけてほしいと猿の手に願う。願望機を使ってまですることではないかもしれないが、靴下を見つけるくらいなら代償も大したものにはならないはず。安心だ。
「最近、衣類を家のどこかにやってね。猿の手には、それを見つけて欲しいんだ」
・無くし物探しか
・安全っちゃ安全かもな
・マニアちゃんの衣類……ゴクリ
・靴下とかかな?
・マニアちゃんの家にも妖怪靴下隠しが!?
大岡は猿の手を高く掲げた。酷い事が置きませんように。そう願いながら、大きな声で願う。
「……というわけで猿の手よ! 私が最近、どこかにやってしまった衣類を見つけてくれー!」
・ど、どうなる!?
・今、猿の手が動いた!?
・呪物が蛇みたいにうねってなかったか?
・ドキドキ
・どうなるんだマニアちゃん
コメントにもあった通り、猿の手が動いたのは、大岡の目にも、はっきり見えた。この呪物は人の願いに反応するもので間違いない。問題は、これから何が起こるかだが。大岡は緊張しつつ、変化が起きるのを待つ。
それは、ほどなくして、やって来た。トテトテと足音を響かせながら部屋にやって来た侵入者。その姿を見て、大岡の表情が緩む。
「ナコトちゃん。どしたぜー?」
「ワンッ」
ナコトと呼ばれたのは、大岡の大切な家族。賢いコーギー犬、ナコトだ。この時間、普段は別室で大人しくしているナコトが大岡の部屋へ来るのは、とても嬉しいことである。配信中でも、可愛い家族が訪ねてきたのであれば、ふれ合ってやりたい。
大岡は、ナコトに「おいでー」と呼びかけた。が、ナコトは部屋のベッドに潜り込んでしまう。少しの間、そこでもぞもぞしていたかと思うと、彼はとあるものを咥えてベッドから出てきた。
ナコトが咥えるそれを見た瞬間、大岡は顔が熱くなるのを感じた。配信画面に映る彼女の顔は赤くなっている。そして、リスナーたちのコメントは今日一番の加速を見せていた。
・パンツ!
・パンツ咥えてるー!?
・ワンちゃんでかした!
・無くした衣類ってパンツだったの!?
・願望機を使ってパンツを召喚する女
「わー! わー! 違うって! 無くしたのは靴下……あ、ああー!? そ、そういうことか!?」
大岡は、自分がしでかした大きなミスに気付く。彼女は今日の配信を始める前にベッドの下へ多くの物を押し込んだ。その後で、彼女は猿の手に、最近どこかへやってしまった衣類を見つけて欲しいと願った。結果、さっきベッドの下に押し込んだパンツが発見されたというわけだ。やらかした。恥ずかしい。
・うおおーパンツうおおー!
・パンツ! パンツ!
・配信を盛り上げるために自分の下着を映すとは
・流石だぜ……その覚悟! しかと受け止めましたぞ
・切り抜き確定
さっきのしゃべり方のせいだ。リスナーたちは、大岡が配信を盛り上げるために、無くし物のパンツを猿の手で探したのだと思っている。これだから、呪物は取り扱いに注意が必要なのだ。おかげで本当に恥ずかしい。
「……もう願望機なんてコリゴリだよ……トホホ」




