吊るされた椅子(後編)
「……呪われた椅子の活用法かぁ」
座ったら死ぬという椅子の上手い使い道など、そう思いつかない。食事の場に殺したい相手を呼び……座らせて暗殺……なんて使い方を提案してもマリーが困るだろう。暗殺や処刑という使い方はマリーには必要ないだろう。そう考えて、大岡は困ってしまう。
何かのヒントがないかと、大岡の視線は配信画面に向く。ヒントになる情報があれば助かるのだが……。
・この椅子の良い使い方……
・思いつかないなあ
・武器とかならともかく椅子だもんね
・敵を上手いこと座らせるとか
・ダンジョンの銭湯で使うにしても、使いにくいよね
……あまり良いアイデアは出ないかもしれない。大岡は悩み、ひとまずマリーが困っていること、などを聞いてみようかと思う。そういう話から、椅子の意外な用途に気付くかもしれない。
「……マリー、例えば……ダンジョンとかで困っていることはあるかい?」
「ダンジョンで、ですの?」
「うん、困ってるとまでいかなくても、こうだったら、もっと便利だろうな、とか思うことはないか?」
「そうですわね……」
大岡の問いに対し、マリーは少しの間、考えているようだった。やがて彼女は首を振り「あちらで困っていることはありませんの」と言う。彼女が言うあちらとはダンジョンのことだろう。深層まで潜りながらも、困ることがないとは、凄いと思う。
「もちろん、身体的な疲労や、食料の問題はあります。それらによるダンジョン内での活動限界はありましてよ。でも、それらは何度もダンジョンに潜れば解決する問題ですわ」
「ふぅむ。なら、疲労や食料の問題が無いわけではないんだな?」
「……そうですわね」
マリーは何か言おうとして、躊躇しているようだった。それは、もしかしたら配信中には言いにくいことなのかもしれない。大岡は、それを聞くために一歩踏み込むべきか、迷う。マリーは大切な友達だ。彼女が傷ついたりすることは避けたい。
やがて、マリーは恥ずかしそうな表情をしながら「料理の話なのですけれど」と言う。彼女から話そうと決めたのなら、大岡から止める理由は無い。親身になって話を聞くつもりで、大岡はマリーの言葉を待つ。
「私、ダンジョンで料理をすることもあります。携帯食でもエネルギーは補充できますが、食料を現地調達できるなら、それに越したことは、ありませんからね」
「確かに、そうだな」
「それで……少し恥ずかしい話なのですが……」
「うん」
「ダンジョンで手に入る野草や魚は無駄に生命力があって、なかなか大人しくならないものですから、調理に手間取ってしまうのです。特級探索者にもなって、恥ずかしい話ではあるのですが」
全然恥ずかしい話では、ないじゃないかと大岡は感じた。けれど、マリーはその事を気にしている。ならば、彼女の思いを否定するようなことはせず、彼女のために問題の解決案を、考えてみるべきではないか。そう思って、大岡の頭には一つのアイデアが浮かんだ。もしかしたら、この問題を解決すできるかもしれない。
「つまり……ダンジョンで手に入る野草や魚を大人しくすることができれば良いわけだな?」
「そうなりますわね」
「なら、ちょっとしたアイデアがあるんだけど」
「マニアさんのアイデア。ぜひ、聞かせてほしいですわ!」
マリーはやや興奮した様子で大岡に詰め寄ってきた。大岡は思わずたたらを踏み、その勢いで、椅子に座りそうになった。マリーが素早い動きで大岡の腰に手を回す。そのお陰で、大岡が椅子に座ることは防げた。間一髪の状況にほっとしたのも束の間、大岡はマリーに体を支えられている今の状況が恥ずかしくなってきた。
「……大丈夫ですの?」
「マリー、もう大丈夫だから、手を離してほしいぞ」
・一瞬ヒヤッとした
・ギリギリセーフだね
・マリー様めっちゃ素早かった
・速すぎて見逃しちゃたね
・二人の距離が近い。いいぞー
大岡はマリーにちゃんと立たせてもらい、一旦落ち着いてから先ほど思いついたアイデアを説明する。
「マリー、この椅子をまな板にしちゃわないか?」
「呪いの椅子を、まな板に……?」
・まじかよ
・大丈夫? それ呪われない?
・ヤバいアイデアで草
・え!? 呪いの椅子をまな板に!?
・とんでもない発送するな、この子
マリーの反応や、配信画面に流れるコメントを観た感じ、大岡の提案は皆にとって予想外だったらしい。それほど突飛なことを言ったつもりではないのだが、予想以上の反応だ。
マリーは戸惑いの表情になっていたが、やがてその顔に笑みを浮かべる。彼女は楽しそうに「良い案ですわ!」と言ってくれて、それが大岡には嬉しい。
「そうと決まれば、道具を用意しなくては、なりませんわね。サクヤ、ナガヒメ、椅子を解体するための準備をなさい!」
マリーが二人のメイドに指示を出し、彼女たちは指示にしたがって動きだす。こうして大岡たちの呪物を鑑定する配信は、呪物を解体し加工する配信になった。面白いことになってきたと思いながら、大岡は椅子の解体や加工で何かできることはあるだろうかと、考えていた。大岡は工作や、日曜大工にも自信があるのだ。




