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吊るされた椅子(前編)

「やあ、皆。こんマニアー。大岡マニアだぞー。今日はなんと、特級探索者のマリーのお屋敷にお呼ばれしているぞ」

「皆さん、ごきげんよう。探索者のマリーですわ」


・こんまにあー

・こんマニア~

・マリー様とのコラボ配信だ

・マニアちゃん、すっかり配信に慣れたね

・さーて、今回の依頼品は?

 

 リラックスしてソファーに座って、大岡は配信画面に笑顔を見せる。今回はマリーと共にコラボ配信だ。トワやマリーと一緒に何かができるのを大岡は嬉しく感じる。


「早速、今回の依頼品を見てみよーぜ。マリー」

「そうですわね。わたくしから、マニアさんへの、依頼品を見てもらいましょう」


 配信用のカメラがメイドさんの手によって動かされる。そちらには、一つの椅子と、側に控えるメイドさんの姿。二人のメイドはよく似ている。姉妹なのだろうと、大岡は思う。もし、仲の良い姉か妹が居たのなら、それは素敵なことだろう。それとも、面倒くさいだろうか?


「さて、マニアさん。椅子の側へ行きたいのではなくて?」

「だな。椅子の側まで行って、実際に触ってみるぞ」


・椅子に触れても大丈夫?

・にしても広い部屋だなぁ

・マリーお嬢様のお屋敷ってこんな感じなんだ

・肘掛け椅子?

・見た目的に木製っぽい


 大岡はマリーと共に椅子の側へ行き、その特徴を観察する。肘掛け椅子の背もたれには、いくつもの丸く細いフォルムの棒が並んでいる。華美な装飾は無く、素朴な堀り込みが確認できた。最も気になったのは、椅子にはロープが取り付けられているということだ。古びたロープが大岡の目には、特に奇妙なものとして映る。


「……見た目の特徴的には、十九世紀以降に作られた椅子のように見えるぞー」

「見た目だけで、そのようなことが判断できるんですの?」


 マリーからの問いに大岡は自信をもって頷く。大岡は自身の知識には自信をもっている。


「パッと見ただけでも九割くらいそう思えた。けど、この考えをより確かなものにしたい。もう少しだけ時間をもらっても良いかい? 五分もあれば充分だぞ」


・五分で!?

・鑑定がんばれ

・古そうな椅子だなってことしか分からん

・まじ?

・たった五分で椅子の製造された時期を確定できるの!?


「……マニアさんがそう言うのなら、わたくしが間を持たせておきますわ。その間に、椅子のことを、しっかり調べてくださいな」

「了解だぞ。少しだけ、こっちに集中させてもらうぜ」


 大岡は、椅子に触れながら、よりしっかりと、椅子の様子を確かめていく。その間に、ロープのことも調べておいた。時間はあっという間に過ぎ、五分後。大岡は確かな手応えを感じながら、振り返った。


「マリー、今回の鑑定はできたぜ。やっぱ、これは十九世紀以降の椅子の作りをしているぞ。それに呪物の正体も確信した」

「流石のマニアさんですわね。その呪物の正体を聞きたいところですが……先にそれが十九世紀以降に作られた椅子だという根拠を聞かせてもらっても、良いかしら?」

「まあ、十九世紀行こうに作られたっていうか、そういう特徴をした椅子だって話だけどな。ダンジョン産の呪物なら、できたのは、ダンジョンの発生以後……なんて話は置いておくぞ。聞きたいのはどうして、そういう特徴をしてるかって根拠だもんな」


 大岡はマリーの前で、右手の指を三本立てた。大岡の発言には三つの根拠がある。


「まず、一つ目の根拠だ。この椅子のパーツ……背もたれや脚には、非常に精密で均一な加工の跡があるんだ」

「非常に精密で均一な……?」

「この跡は、この椅子が高度な機械によって加工されたことを示しているぜ。旋盤加工と言えば、イメージがしやすいだろう」

「ええ……使ったことはありませんが……固定した素材を、回転させながら加工する機械……といったイメージでしょうか。例えるなら、リンゴの皮剥きみたいに」

「そのイメージであってる。旋盤加工の跡……それが一つ目の根拠だぞ」


・おお

・さすマニア

・俺は全く気付かなかった

・マニアちゃん目のつけどころが鋭いよねー

・古い時代のものなら、機械のように均一な加工跡にはならないということだね


「……続いて、二つ目の根拠だ。この椅子はウィンザーチェアって呼ばれるものだ。その構造事態は十八世紀から存在したものだけど、今回鑑定した椅子は、十九世紀から作られるようになったデザインをしているぞ」

「なるほど……」


・わ、分からん

・同じ椅子でもデザインの違いってあるよね

・十九世紀以降のデザインってことね

・そこに気付くのかよ

・博識マニアちゃん


「最後に、三つ目の根拠だぜ。この椅子、量産品だよ。椅子のパーツをしっかり見ていけば分かる。こういう規格化された量産品の椅子が世に出てくるようになったのは十九世紀以降だ」

「……それが、三つ目の根拠と、いうわけですのね?」

「そうだ。それら三つの点から考えて、この椅子は十九世紀行こうに作られた椅子の特徴を持っているぞ」

「では……この椅子は、十九世紀以降の逸話を持つ呪物だと、マニアさんは考えますか?」


 そこが、この呪物のややこしいところだ。大岡は「違うな」と言ってから、自分の考えをマリーに伝える。


「これは、十九世紀以降に作られた椅子の特徴と、十八世紀初頭の、ある悪人の逸話を合わせ持った呪物だぞ」

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