国生みの矛(後編)
「まず、アマノサカホコについてだけど、これは物語に出てくるだけの物じゃない。ダンジョンが発生する前から、実際に、存在する呪物なんだぞー」
・ほんとに!?
・呪物ってダンジョン産以外も存在するんだ!?
・それは知らなかった
・まじかー
・詳しく
大岡が語ったようにダンジョンの発生以前から存在する呪物というものはある。アマノサカホコや、ヤエ先生が飾っていた数々の呪物など。それらの呪物を初めて見た時、大岡はとても興奮したものだ。
「で、だ。アマノサカホコはアメノヌボコと同一視されることもある呪物だな。本物は九州南部の高千穂峰に刺さっている。これは、これはずっと昔から、高千穂峰の山頂に刺さっていて、一説によると、あの坂本龍馬が引き抜いたこともある! とか、無いとか」
・どっちなんだい!?
・あるとか、無いとかかー
・九州南部か
・機会があれば言ってみようかな
・面白い話を聞いたぞ
「まあ、過去にここで噴火があって、今山頂で見ることができるのは、アマノサカホコのレプリカらしい。この矛は引き抜いた物や周りに、不幸や災厄をもたらすと言われているな」
大岡の解説を聞いていたトワが感心したように頷く。彼女は「ひとつ良いかな?」と大岡に聞いてきた。大岡としては、トワからの質問には喜んで答えるつもりだ。
「なんでも聞いてくれ。トワ」
「君が語るアマノサカホコと、今私が持っているアメノヌボコ。それらが同一視されているのは、どういう理由からなんだい?」
「なるほどな。では、そこに答えるぜ」
・そこ、俺も気になった
・トワ様が今、持ってる矛が不幸を呼ぶのかい?
・どういうことなんだ。マニアちゃん
・気になります!
・教えてマニアちゃん先生
「……そうだな。私は、元々アメノヌボコとアマノサカホコは異なる起源を持つ呪物だと思っている。けれど、これらの呪物は、ある時から同一視されるようになったわけだ。ここまでは良いよな?」
「うん、大丈夫」
「オーケー。で、そのある時っていうのが、奈良時代から鎌倉時代の頃。その時にあった神仏習合の影響があるんだろうな」
「影響っていうのは、二つの呪物が同一視されるようになったこと。だね?」
「その通りだぞ。トワ」
・ほうほう
・なるほどね?
・しんぶつしゅうごう?
・昔、学校で習ったかも
・聞いたことはあるな
「神仏習合っていうのは、簡単に言っちゃえば、日本にもとからあった神様への信仰と、大陸からやってきた仏教の教えとを、合体させちゃおうって試みだな。神と仏の一体化ってわけだ」
「ふむ、続けて」
「この試みの中で、日本に古くから伝わるアメノヌボコの伝承と、高千穂峰に実在するアマノサカホコとが、同じものと見なされるようになった。と、私は考えているぞ」
「つまり……古くから、高千穂峰に実在したアマノサカホコの逸話に、アメノヌボコの伝承が後付けされ、混ざったわけだね」
「そういうことだ」
・ふたつの呪物の同一視の流れはそんな感じか
・分かったような、分からないような
・俺は分かった(分かってない)
・ふたつの逸話が合体したってことだね
・サカホコが先に実在したの? ヌボコの伝承が先にあったの?
「アマノサカホコが先にあったのか、それとも、アメノヌボコが先に伝承されていたのか。私には、どっちが先と、はっきりとは、言えないぜ。重要なのは、このふたつは、おそらく元々別物で、後から混ざったものということだ」
「なるほど」
「……話を続けるぞ。二つの逸話が混ざった呪物が、今トワの持ってる物だ。それはアメノヌボコであるし、アマノサカホコにもなり得る。ここから、ちょっとややこしい話をするんだけど、良いかい?」
大岡の問いにトワが頷いた。話を、できるだけ分かりやすく、それを心がけたいところだけれども、上手くできているか分からない。大岡はそこが、少し不安だ。
「……大丈夫、マニアの話したいように話して」
「トワ……」
トワの言葉で大岡は安心する。彼女のためにも大岡は話す。
「分かった。それじゃあ、話の続きだぜ。その、アメノヌボコってのは、地面に突き刺すことで、アマノサカホコの特性を得るんだと思うぞ」
「それは、どうしてだい?」
「トワはその矛を見つけたときに台座に飾られていたと言ったよな。だから、それはいつの時代からか高千穂峰に刺さっていたアマノサカホコとは違うものだと、思っていたんだ」
「ふむ」
「アメノヌボコがアマノサカホコと逸話が混ざりあった話しはしたよな。思うに、トワが持つその矛は、条件を満たすことで、別の呪物に変容する。そういう特性を持っている」
だからこそ、気を付けなければいけない。全くデメリットの無い呪物など無いのだから、トワのことが心配だけれど、彼女は、ちゃんと説明を受ければ気を付けてくれる。大岡はそう信じている。
「アメノヌボコは、地面に刺してはいけないぞ。そうすることで、その矛は地面から抜いたものを不幸にする逸話を獲得するのだから」
大岡の警告にトワはしっかりと頷いてくれた。大岡は安心しつつ、今回の配信の補足をどこかでしておこうと思うのだった。




