国生みの矛(前編)
プールサイドにカメラを設置し、今回の大岡の配信が始まる。今日は水着ではなくて、半袖と短パンのスタイル。横に立つトワも同じ格好だ。お揃いなのが、なんだか嬉しい。
「皆、こんマニア! 大岡マニアだぞー」
「こんばんは、トワです。コラボ配信に呼んでもらえて嬉しいよ」
「ああ、コラボ配信。私も嬉しいぜ」
・こんマニア!
・こんマニア~
・コラボ配信だ!
・プール?
・今日はいつもと場所が違うね
「今回の配信ではなんと、探索者協会のプールを貸しきっているぞー。実は今回の呪物は、すでになんであるかが、予想できていてね。ある実践のためにも大量の水が必要なんだぜ」
・おお!
・すごい!
・プールを使っての実験か
・プールを貸しきったの!?
・贅沢な配信だねえ!
今回の配信では、プールを使って実験をする。もしも大岡の予想が外れていたら、それは彼女にとっては凄く恥ずかしい。どうせならリハーサルをやっておくべきだったかもしれない。が、もう配信は始まっている。ぶっつけ本番だがやるしかないのだ。
「それでは、今回の依頼品を見ていくぞ」
「あっちに立てかけてあるやつだね。私が持ってくるよ。マニア」
「ありがとうだぞ。トワ」
「どういたしまして。とりあえず、今回の依頼品は私が持っておくね。結構重い物だから」
・あら^~
・てえてえなあ
・仲良きことは良いことかな
・今回の依頼品はトワ様の物なのかな?
・依頼品気になる~
ほどなくしてトワが依頼品を持ってきた。それは一本の矛。柄は長く、赤い勾玉によって装飾がされている。そして、矛先は幅広く丸い。大岡はそれを最初に見た時、美しいと思った。その気持ちは今も変わらない。
「今回の依頼品はトワから頼まれたものだぞー」
「うん、私からの依頼品だ。これはダンジョンの深層、最近話題の新ルートで見つかったものでね。行き止まりの台座に飾られるようにして置かれていたよ」
「綺麗な矛だぜ。なんというか、神秘的な印象を受けるな」
「私もそう思う。マニアとは気が合うね」
気が合う、と言われてマニアは嬉しく感じる。トワとは共通の話題で語れるだけで、心が暖かくなるのだ。マリーや先生と話す時よりも、その暖かさを強く感じるため、マニアにとってはトワが最も大切な人なのだろう。
「ああ、トワと気が合って、私も嬉しいぞ。なので、今回の鑑定も気合いを入れてやっていこうと思います!」
「頑張って」
・がんばれー
・マニアちゃん、ファイトー!
・今日の鑑定にも期待
・確かに美しい矛だ
・いったいどんな矛なのか。気になります
「まず、矛の見た目からでも、分かることは色々あるぞ」
「分かること……と言うと」
「説明するぜ。例えばこの矛先、幅広で丸くなってるでしょ? つまり、この矛は敵を突くための作りではないんだ」
「敵を突くための矛ではない。つまり、切ることを意識して作られているのかな?」
トワの言葉に大岡は頷く。彼女はダンジョンで戦っている分、武器のことに関しては理解が早い。相手の、話への理解度が高いと、会話を進めやすくて助かる。
「その通り、突くことより、切ることを意識している作りだな。また、このような矛は儀式用の物だとも考えられるぞ」
「儀式……ね」
・なるほど?
・儀式ってワードが出ると呪物っぽさがますね
・なんとなく、古代的なイメージ
・敵を切る。あるいは儀式用の矛なのね
・へえー。矛先を見るだけでもそんなことが分かるのね
「……トワ。ちょっと矛の飾りをよく見えるようにしてもらっても良いかい?」
「もちろん構わないよ。こう……すれば良いかな。マニア」
「良いね。そんな感じにしてもらえると助かるぞ。ありがとう」
トワは、マニアが見たいと言った飾りを、よく見えるようにしてくれた。配信を見ているリスナーにも、飾りを見えやすくしてくれているのが、マニアの視点からでも分かった。こういう細かい気配りのできる彼女を、マニアはとても好ましく思う。
「では飾りを見ていくぞ。この赤くて、曲がった玉は……勾玉だな……おそらくは赤メノウで出来ている。赤メノウの勾玉は生命力や活力を象徴するぜ」
「なるほど。勾玉っていうことは、日本の物語……日本神話などが関わっているんだろうか?」
「トワ……鋭いぞ!」
トワのことは、ちょっとしたことでも褒めたくなる。それは彼女を贔屓しすぎだろうか……なんて考えてしまう。
「勾玉は日本や東アジアの一部地域でしか、出土しない。それは、古代の日本から伝わる魔除けや装飾品、または祭事に使われていたものだぞ」
「……ということは、そのような飾りがされたこの矛は、やはり儀式用の物なのかな?」
「私はそう思うぜ。で、もう一度、この矛の先について話すんだが……こいつの先は幅広で丸い形をしてたよな。そういう形は、切る以外には、どういう用途に適していると思う? ヒントは、このプールだぞ」
「プール……」
トワは少しの間考え込むように黙り、そして呟くように、ポツリとその言葉を口にする。それは大岡が期待していた言葉。
「かき混ぜる……?」
「そう、その言葉を待っていた! というわけで、今回はこの矛を使って塩水たっぷりのプールをかき混ぜていくぞ!」




