トワとプールで
探索者協会の施設内にあるプール施設。そこへ、大岡とトワがやって来ていた。今は、外に出ると肌寒い季節だけれど、施設の中は暖かくて快適だ。ここは薄着でも過ごしやすい。大岡も気分が良い。
せっかくプールに来たということで、大岡たちは水着を着ている。大岡が着る水着は黒くて地味な印象のワンピース。トワが身に付けているのは動きやすそうな青いビキニだ。トワの無駄が無く健康的な肉体を見て、大岡は羨ましく思う。
大岡は自らの腹回りにほんのりと付いた贅肉をつまみ、悲しくなる。これでも、普段の食事には気を付けているはずなのに……そんなことを考えてしまうのだ。
いつまでも、悲しくなっていても仕方がない。大岡は気持ちを切り替えて、トワと共にプールの水に入っていく。今日はトワと一緒にプールで遊ぶ。そのためだけに来たわけじゃないが、楽しみたい。
肌で触れるプールの水は、思ったよりは暖かい。まずはそのことに安堵しつつ、足がしっかりとプールの底についていることにも安心した。実は、というほどでもないのだけど、大岡は泳ぎが下手だ。全く泳げないわけではないが、どうしても犬かきみたいになってしまう。みっともない泳ぎをトワに見せるつもりはなかった。
「ねえ、マニアは泳がないの?」
「私は……やめとくぞ。水に入ってるだけで気持ちが良いよ」
「そう……じゃ、私はちょっと泳いでくる」
トワは大岡から、ゆっくり離れていく。やがて彼女は、クロールで泳ぎ始める。本気の泳ぎだ。その動きはトップアスリートにも引けを取らない。凄いなあ、と感心して、寂しさも感じる大岡だった。
トワの泳ぎを見ながら、大岡は時々水鉄砲をしてみたり。同じように、力強く、速く、動くことができたなら。そう願っても、難しいことを大岡は知っている。もし、猿の手に願ったなら、大岡はトワに並ぶことができるだろうか? そう考えて、頭を横に振った。呪われた願望機に願ったとして、それはきっと録でもない結果になるのだろう。
大岡は考える。どうして、トワは猿の手をくれたのだろう? 彼女は、大岡が配信活動を始めたお祝いだと言っていたけれど、本当にそれだけだろうか? 何かの意図があるのでは? 考えても……答えは出ない。それに大切な友人を疑うようなことはするべきではないだろう。
そのうち、充分に泳いだのであろうトワが満面の笑みを浮かべながら戻ってきた。凄く楽しそうでワンコみたいだ。そんな彼女を見ていると愛犬のナコトを想像してしまう。今日はナコトを実家に預けているが、楽しくやっているだろうか?
「マニア、そろそろプールから一旦上がろうよ」
「だな。体がふやけちゃうし」
大岡の返事を聞いたトワは楽しそうに笑った。なんか、ツボに入ったみたいだ。トワが楽しそで、大岡も楽しい気分になってきた。
二人はプールから上がり、近くのベンチに座ってゆっくりと息を整える。こうしているだけでも少しずつ体力が回復していくのだろう。大岡は、水面でチャプチャプしていただけだが、トワの方はさっきまで本気で泳いでいた。彼女のためにも少しゆっくりしていよう。それに、大好きな友達の横に座っているのは、それだけで嬉しいものだ。
やがて、息の整ったトワから「君の今度の配信なんだけどさ」と聞いてきた。大岡たちは、ここへ単に遊びに来ただけではない。今日は、大岡の配信のための話し合いもかねている。
「……配信はここを貸しきってやるぞ。ちょっと、やりたい実験があるからな」
「大量の水が必要なんだっけ」
「……ああ、トワが今回、深層から持ち帰ってきた呪物はとんでもない代物だろう。すでにその正体は予想できてる。あとは、検証が必要だ」
「そのためのプールってわけだね」
「海とかでやっても良いんだがな。万が一の事故に備えるなら、探索者協会の施設内が良いだろうぜ」
今度扱う呪物は、おそらくは神話級の代物だ。大岡でも、なかなか扱うことのないレベルの代物……流石に緊張してしまう。それでもトワに特急呪物鑑定士としての格好良いところを見せたい!
だから、緊張していても、モチベーションは高い。
「私、トワに格好良いところを見せちゃうぞ。だから、応援してほしいんだ」
大岡の言葉にトワは頷く。そして彼女は、大岡が望んでいた言葉を送ってくれた。
「ああ、頑張れ! マニアちゃん!」
「……ありがとう。トワ、その言葉があれば勇気が沸いてくるぞ!」
大岡たちはベンチに座ったまま、今度の配信について話し合った。話し合いも一段落した頃に、トワは立ち上がる。彼女は、体を伸ばしてから「もう一度泳いでくる」と言って、プールに入っていった。大岡は寂しさを感じながら、トワが離れていくのを見送った。
これまで何度も感じたトワとの差。大岡は彼女のように上手く体を動かすことができない。どうしても、運動は苦手だ。一時期、運動音痴を克服しようと頑張ったこともあった。でも、駄目だった。だから、大岡は自分にできることを頑張るのだ。
大岡が神話級呪物を扱う時が近づいていた。




