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妖精の一撃(後編)

「エルフショットは目には見えない災いであると同時にお守りとしての側面も持っているんだぞ。この矢じりをお守りとして持つことで、同じような存在から攻撃されなくなるって考えだ。妖精に自分を仲間だと誤認させる感じかな」


・なるほど

・妖精さん簡単に騙されちゃうのね

・なんだか不思議

・攻撃手段ではなく防御手段としての利用か

・対抗呪術ってやつ?


 届いたコメントを見て大岡はうんと頷く、時々鋭い意見があり、そういうコメントを見ると嬉しくて、表情がゆるむ。


「ああ。対抗呪術、あるいは類感呪術としてこの矢じりを使うわけだ。類感呪術ってのは類似した存在が互いに影響を与えるっていうものだ。呪術的にな」


・呪術的に?

・類似した存在が影響を与え会うってわけ?

・石の矢じりと見えない矢が影響し会うわけね

・矢じりで矢を防ぐ……イメージしずらいかも

・似た者同士が互いに影響するって、なんとなくそんな気がする


「……そうだな。今回の例が、矢じりと矢だから少しイメージがしにくいかもしれない。類感呪術の例を他に挙げるなら、日本だと丑の刻参りが有名だな。ほら、藁人形に釘を打ちつけるやつ」


・それならイメージしやすいかも

・人形と人とが似てるってことね

・人に似せて作ったのが人形だからな

・丑の刻参りって類感呪術になるんだね

・勉強になります


 皆の類感呪術のイメージが固まってきてくれたなら良いのだが、そう思いながら大岡は話を続ける。もう少し、類感呪術について補足していた方が良いだろうか……悩む。


「今回の呪物は丑の刻参りとは違うが、類感呪術の類いではある。結果は原因に起因するし、原因は結果に影響を及ぼすってわけ。エルフショットの場合、災いの象徴である矢じりを持つことで、逆に災いを遠ざけるんだけど……この説明は分かりにくいかもしれないな……」


 もっと分かりやすく、類感呪術の説明ができればいいんだが、と大岡は悩む。そして、ある実験を思いついた。論より証拠というように、実際に目に見える形で呪物の効果を紹介してみよう! 思い立ったら行動だ!


「ちょっと待っててほしいぞ。すぐに戻る」


 そう言って、大岡はキッチンに向かった。必要なものを手にとって急いでパソコンの前に戻る。机には、矢じりが、ちゃんと置かれている。一分も目を離していないが、かなりドキドキした。


「戻ってきたぞ~。というわけでキッチンから水を入れた鍋を持ってきた。これに矢じりを浸してみるぜ~」


・なんか面白い実験が始まりそう

・マニアちゃんの実験コーナー

・何が始まるんです?

・ワクワク

・矢じりを水に浸すとどうなるんだ?


「さて、これから作るのは、一種のポーションだ。ところで、皆は武器軟膏ってものは知ってるかな?」


・武器軟膏?

・武器に薬を塗るの?

・グリスみたいな感じ?

・武器を鋭くするのかな?

・ちょっと知らんわ


「ん、簡単に説明するとだな。武器によって傷をつけられた体を直接治療するのではなくて、逆に武器へ軟膏を塗ることで間接的に傷を治療するって技術だ」


・は?

・どゆこと?

・ちょっと何言ってるか分からないですね

・間接的に治療ってどういうことだよ!?

・奇妙な話だな


 こういう反応が返ってくることを大岡は想像していた。理解してもらえないのがちょっと傷つくような、これはこれで面白いような、複雑な気分だ。


「さっき類感呪術の話はしたよな。武器軟膏も、発想は同じようなもんだぜ。武器と傷との類縁、あるいは共感の力で傷を治療するんだ。十六世紀から十七世紀頃のヨーロッパではまじに信じられてた治療法なんだぞ」


・にわかには信じがたいが

・マニアちゃんが言うからには本当なんだろうね

・不思議な話

・共感の力で治療……医術というよりは呪術だな

・今、矢じりを水に浸けてるのも武器軟膏と関係があるのかい?


 大岡は鍋から矢じりを取り出した。矢じりを水に浸けておくのは、もう良いだろう。さて、これからちょっと痛いことをする。注射みたいなものだと思えば、それほど怖くはない。が、痛いのは少しだけ覚悟がいるし、配信を見ている人たちにも注意をしておくべきだろう。


「これから、ほんのちょっとだけ痛いことをするぞ。グロ注意ってほどではないけど、ほんの少しだけ血が出るから、苦手な人は気を付けてくれ」


・え、何するの?

・いたいのイヤー

・俺は見るぞ

・まさか、体に傷をつけるつもり!?

・まじかよ。体張ってるな


「指先をちょっと切るだけさ。ダンジョンの探索配信を見てる人なら全然平気だと思う。とはいえ苦手な人は苦手だからな。警告はしたぜ……それじゃ……苦手な人はちょっと目を閉じててくれー」


 そう言って大岡は親指の腹を矢じりの先で切った。指先の皮膚が裂け、血がにじむ。ほんの少しの痛みでも、覚悟が必要なのだから、やはり自分は探索者には向いていないのだと、大岡は寂しい気持ちになった。それはそれとして。


「さ、共感の力で傷を治してみせるぞ。武器軟膏とは違うが、これも矢じりを浸けた水と、矢じりでつけられた傷という、類縁するもの同士を使った治療法だ。見てろ」


 大岡は傷ついた指先を、鍋の中の水に浸けた。そうした後、水から離した指先は元の状態に戻っていた。先ほどの傷は、もう見えないし、痛まない。


・おお!

・まじか

・共感の力ってすげー

・指先の傷が治ってる!

・武器軟膏の例はともかく、こっちの方はまじの力なんだな!


「ひゅひひ! どうだ! これが共感の力による治療ってやつだぜー!」


 今の大岡は、大仕掛けのマジックを成功させたかのように、誇らしい気分だった。マジックではなく呪術だが、人に驚いたり、喜んでもらえるのであれば、これからも色々と見せていきたい。


 その後は雑談の時間となり、大岡の楽しい夜は過ぎていくのだった。

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