妖精の一撃(前編)
「こんマニア~。大岡マニアだぞ~」
パソコンの画面に向けて手を振る大岡に対し、コメントという形で多くの反応が返ってくる。誰かの反応をもらえるのは、とても嬉しい。
・こんばんは
・こんマニアー
・こんマニア~
・挨拶決まったんだね
・こんマニアー
「おう! 新しい挨拶も決まったところで、オープニングトークといこうかー。まずは……」
大岡は自身の動画に関することや、今後の予定について話していく。オープニングトークに関しては台本を作っているけど、それでも緊張する。上手く話せているか、大岡は気になっていた。
「……今度の配信はゲストをお呼びするぞ。誰が来るかは後日発表! 報告はこれくらいだ。というわけで、今回の依頼品を見ていこう」
大岡はケースから依頼品を取り出した。小さなそれは尖った石のように見える。これまでの呪物の中でも特に地味な一品。とはいえ、呪物の取り扱いは気を付けなければならない。大岡は、その呪物を意識し、緊張を感じながら話す。
「これはダンジョンの中層、妖精系の魔物の出現エリアで見つかったものだ。尖った石に見えるな。リスナーの皆は、これを何だと思う?」
・石
・石?
・今回は石回かな?
・分かんないぜ
・今回も難問だなあ
「ひゅひひ! 今回も難問だよな。この石、先の尖っているところが印象的だけれど、反対側の形にも注目して欲しい。へこんでるだろ? これ、凹四角形になってるぜ」
大岡は石をくるりと回し、石のへこんだところが配信画面によく見えるようにした。この時点で大岡は、この石の正体にある程度の目星がついている。今回も、自信があった。
・おうしかくけい?
・なるほど、分かったぞ!
・うちもなんとなく分かったかも
・おうしかくけい……聞きなれない言葉だ
・凹凸の凹だったかな
「そう! 凹四角形は、内角が百八十度を越える頂点一つを持つ四角形でな。矢じり型とか呼ばれたりもするぜ」
大岡は、再び石をくるりと回した。先の尖った面を配信画面によく見えるようする。彼女は推測を語っていく。その推理が、当たっている自信はある。
「この石は尖った部分と凹四角形の部分をあわせ持っている。その時点で、これが何であるか、分かった様子のコメントもあったな。流石だぞ。でだ。これは妖精系の魔物の縄張りで見つかった。となれば、正体にも見当がつく」
・正体とは?
・ドキドキ
・鑑定の結果やいかに?
・妖精の武器?
・それが何か教えてくれ。マニアちゃん
「……こいつは、エルフショットってやつだ。またの名をエルフの一撃、エルフの矢なんて呼ばれることもあるな」
・エルフショット!
・エルフの矢か
・ダンジョンにエルフなんか居たっけ?
・エルフってあの長耳のエルフだよね
・お話に出てくるエルフが妖精や神に近いって話しは聞くね
「……ふむ。そうだな。今回はエルフについて簡単に解説するぞ。それを知ってれば、この矢じりの物語についても理解がしやすいはずだ」
大岡はエルフショットを良く見えるところに置き、うんと頷いた。そんなことにはならないとは思うが、矢じりを見失うと怖いことになる。その時のことを想像するとゾッとした。
「……エルフのイメージ、耳が長くて美男美女で老いることがない。あるいは老いる速度がとても遅い。そんなイメージがついたのは割と近年のことなんだ。二十世紀のころからだな」
・二十世紀!?
・そんな最近なのか
・へー
・やっぱりあの小説のイメージかな?
・知らんかった
「あの指輪を捨てに行く物語だな。その中に登場するエルフのイメージが、現在エルフのイメージを決定づけていると言っても過言ではないぜ」
大岡自身、大学で先生に教わるまでエルフとは長耳で美しい長命種のことだと思っていた。それだけ、素晴らしい物語とは人々の意識に強く影響を与える。だから、物語は面白いのだと先生は語っていたし、大岡もそれには深く賛同している。
「エルフってのは元々、もっと広い概念だった。美しいものも、醜いものも、強力なものも、非力なものも、大きなものも、小さなものも存在した。そのイメージが二十世紀のころ、今の形に固まっていくわけだ」
・なるほどね
・醜いエルフってのは想像しづらいな
・俺は今のエルフが好きだ
・面白い話だ
・今回の呪物はそんな過去のエルフのイメージに関わっているの?
「お、今のリスナーさん鋭いぜー。今回の呪物、エルフショットには過去のエルフの伝承が深く関わっているんだ」
大岡は机の上に置かれた矢じりを見た。大丈夫、それを見失ってはいない。それを無くすことがなければ、デメリットは起こらない。こうして矢じりが机に置かれている間は安心だ。
「エルフは北ヨーロッパで伝承されてきた存在だ。その姿形は様々で、中には弓を巧みに操ると語られることもあった。弓を巧みに操るのは現在のエルフのイメージにも繋がるな」
伝承の中のエルフがその弓で何を狙っていたのか。かつて先生から聞いた時、大岡は嫌な気持ちになった。肝が冷えた、というべきかもしれない。
「それでは小妖精エルフと悪辣ないたずらの物語を語っていくぞ」




