表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/50

トワと動画編集を

 その日、大岡の家にはトワが訪ねていた。トワの方から、大岡の元に来たいと言ってきたのだ。それは大岡にとっては嬉しいことだし、断る理由が無い。彼女は、大岡がもちろん構わないと答えた翌日にやって来た。数日ぶりに見た彼女は少し疲れているようだった。いつもはツヤのある髪が今日はちょっと痛んで見える。


 大岡は自室にトワが座る分の椅子を用意して、彼女と一緒に他愛の無い話を楽しむ。そこへ愛犬のナコトがやって来た。ナコトはピョンッとトワの膝の上に乗った。コーギー犬の短い足に大した力が宿っているものだと大岡は感心する。同時に、トワの膝の上を独占するナコトに嫉妬の気持ちがあることに気づいた。


 愛犬に嫉妬するなんて……と大岡は気恥ずかしく感じた。トワがナコトを撫でていて、それが羨ましい。自分も、あの子のようにトワへ素直に甘えられたら……なんて大岡は考えるのだ。


「マニア、この子の毛並み凄く良いね。お店で、やってもらってるの?」

「いいや、私がやってるよ。解説動画見たら、何か出来るようになった」

「動画を見ただけで? 凄いや。マニアはトリマーさんの才能もあるねえ」

「褒めたって何もでないぞ……けど、ありがとう」


 大岡は昔から運動以外のことはすぐにコツを掴めてしまう。これが運動にも適用されたら良いのに、と何度思ったものか。最近始めた動画編集も数時間でそれなりに、できるようになった。


 トワの視線が部屋のパソコンへ動いた。今そのパソコンは、スリープモードになっている。起動すれば編集中の動画が映るのだが、それをトワに見せるのは恥ずかしいかもしれない。できれば、完成品を見てもらいたい。


「……配信のアーカイブと、マニアの作った動画、昨日見たよ。凄く良かった。学生時代からマニアの語る怖い話には惹かれるものがあるんだ」

「嬉しいことを言ってくれるね。動画の評判も良いみたいだし、私の配信活動は順調に進んでいるみたいだぞ」

「動画編集で困ってることとかある? 何か分からないことがあれば力になるよ」

「んー、動画か……大体のことは分かるし、作ってる途中のものを見せるのは……」

「……恥ずかしい?」


 トワが寂しそうな顔をして、大岡は悪いことをしたような気がしてしまう。決して、トワのことが頼りにならないだとか、そういう話ではない。

けれど、製作途中のものを見せるのは自分の未熟な部分をさらけ出すような、そんな気がしてしまう。だから、完成品だけを見せたい。手直しを重ねた完成品なら、恥ずかしいけど、見られても、感想を受け入れられる。そういう気持ちがあるのだけれど……。


「……恥ずかしいぞ。未完成のものを見られるのは、恥ずかしい……でも……」

「でも?」

「トワは私が作ってる途中のものを見ても、その……笑ったりはしないよな?」

「もちろん。マニアが一生懸命作ってるものを笑ったりなんかしない。約束するよ」


 トワはその言葉をいつもの調子で言った。それだけ、その言葉はトワにとっては自然なものなのだろう。そうなのだとしたら、大岡はしばらく考えて、決めた。トワになら、制作途中の動画を見てもらっても良いかもしれない。


「分かった。えっと……トワさえ良ければ動画制作に意見が欲しいぞ」

「もちろん、良いよ。マニアが動画を作っているところが見られて嬉しいな」


 大岡はトワに見守られながら、パソコンを起動した。制作途中のものが画面に映るのは、やはりちょっと恥ずかしい。けれど、トワに見守られていると思うと、なんだか嬉しい。


「まだ色々と編集が出来てなくて、とりあえず、カット作業までは終わってるんだけど、字幕とかはまだ入ってないんだ」

「サムネイルは作った?」

「それもまだ。サムネは最後に作る」

「なるほど。私はナコトと一緒に作業を見てるよ。動画編集で分からないこととかあったら言ってね。さっきも言ったけど、力になりたい」

「ありがとうな、トワ。私、頑張っちゃうぜ!」


 大岡は動画編集の作業を進めていく。作業中、分からないことは無かったが、センスの問題で迷うことはあった。そういうことで、トワに訪ねてみると彼女から意見がもらえる。トワから、その意見は、あくまで参考にしてくれと言われるが、大岡にはトワのセンスがとても良いものに思える。


「……ここをこうして……うん! やっぱりトワのセンスは最高だぞ。動画が凄くしっくりしてきたな!」

「褒めすぎだって。でも、助けになっているならアドバイスした甲斐があるってもんだね!」


 恥ずかしい気持ちがあっても、トワに作業を見てもらって良かった。作っていたものが、より良くなったと思う。


 大岡は、できることなら、トワやマリーに自分の凄いところを見せたいと思っている。そうして、いっぱい凄いと言ってもらいたい。お返しにトワやマリーの凄いところもいっぱい見つけて、凄いよって言いたい。


 逆に、自分の未熟なところを、トワやマリーに見せたくはない。できる限り完璧な自分を友達に見せたいと思うことは、わがままなことだろうか?


 そして、大岡の、完璧なところだけをトワたちに見てもらいたい理由はもうひとつある。大岡はいつだって、トワたちにとって価値のある人間であると、示していたいのだ。


 大岡は臆病なのだ。完璧なところだけを人に見てもらいたい。自分の恥ずかしいところは相手に知られたくない。そういうものを晒すのは、それを相手が受け入れてくれると分かった時だけ。


 大岡は臆病な人間だ。その事実に、大岡は見て見ぬふりをしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ