0-5 人間になりたがった神の童ε
そこに希望の光は――無い。
そこに在るのはただ――絶望だけ。
黒雲が日中の空を埋め尽くす。
燃える火種。昇華する火花。
土と埃。血と涙。大声と悲鳴。
驚愕、不安、恐怖。
高層マンションが、瓦礫の山となって崩れる。
崩れた先にいるのは、大きな女。
女は、その光景をただボーっと眺めていた。何を考えるでもなく。正確には、考えたくなくて。
***
お父さん。お母さん。
いつも私と響希を第一に考えてくれて、優しくて大切にしてくれた。
私もそんな二人がとても大好きだった。
少なくとも当時十九歳だった私は、そうやって『ジゴク』は、長く続いていくものだと思っていた。
確信に近い希望的観測だったのかもしれない。
今思えば何故そのように安易的に信じられたのだろうか。
そんな『ジゴク』は、二人に、皆に受け入れてもらえる事で、簡単に無へと変えてしまう脆い時間だっただけなのに。
***
―――街が燃えていた。
熱かった。暑かった。
―――人があちこちで倒れている。
怖かった。悲しかった。
―――頭から生暖かい血が流れた。
痛かった。気持ち悪かった。ボーっとした。
―――仲間たちは…………動かなかった。
分からなかった感情が。
―――分からなかったからこの手で沢山の人を殺した。
もう限界で私は倒れてしまった。
―――そこで残りの敵である術師が出てきた。
私はそこで自分の中にある復讐心に初めて気付いた。
―――敵は「一体誰が、こんなこと……」と呟いていた。
意味が分からかった。
―――敵のリーダー格であろう者が私に気付いた。
血だらけの私を見て驚いていた。
―――敵は私をじっくりと観察する。
痺れる手足がバチバチッと音を立てる。
―――やがて敵は私に手を伸ばしてくる。
動くな、貴様は一体何者だと言っていた。
――――私は―――。
――――――『神話術師』と言った。
黒雲が唸りを上げる。
稲妻の轟音。
紫電の閃光。
天界の導きは、女の運命を――天秤に掛ける。
〈了〉




