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神話術師と童男殺し  作者: 綾高 礼
四日目 六月十一日

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42/50

4-14 内通者

 

「えっ……そんな事って」


 雪愛は驚く。

 自身で作り出した環境変化が塗り替えられていっているのだ。

 舞い降る雪は―――落雷に。

 見上げた空には――黒雲が。

 陣地を広げるようにゴロゴロと唸りを上げる。

 月歌がゆっくりと雪愛のいる方に腕を伸ばした。


「―――鎧を――」


 空から落雷が雪愛に降り注ぐ。


「キャ⁉」


 直撃した落雷は、雪愛を焼くこともなく、心地良い温もりを与えた。


「…………なに、これ……凄い」


 雪愛は全身に雷を纏っている事に驚き、そしてある事にも気付いた。

 なんと大気中の魔気エーテルが、自身に驚くほど引きつけてくるのだ。


「凄い……月歌ちゃん……これなら維持出来るかも……凄い。本当に、神様みたい」


 ***


 響子は薔薇杖を振り払い、元の状態に戻す。


「あら、神童を逃がしたのは申し訳ないことをしたわ……まあそこは火焔に任せてもいいわよね」

「どうせそんな事だろうと思った。おい、大人しく観念しろ」

「フッ、誰が? 観念するのはあなたの方ではなくて?」

「何が言……ゴホッ!」


 響子は突然の吐血に手元を濡らした。


「フフフ……所詮、あなた程度の術師には、人間術は荷が重い。血管が悲鳴を上げて暴走するのが落ちでしょう?」

「ゴホッゴホッ……勘違い、するな。今日は、まだ調子が良い方だ」

「? その状態でかしら。フフフ、そろそろ目障りだから消えて貰いましょうか」


 花枝は手を突き出し、ふらつく響子に照準を定める。


「―――使用属性ハーフパープルブラック―――固定フィクスト


 黒い闇の奔流が渦巻き、やがて弾けるように雷が闇と混合する。


「―――形態変化チェンジフォーム放出リリース―――完了セット


 式区詠唱を終えた花枝の右掌で黒雷が待機する。


「黒紫電よ――」


 弾け合う黒雷が解き放たれた。


「焼き殺しなさい」


 響子に容赦なく黒雷が襲い掛かかる。


「―――形態変化チェンジフォーム剣状グラディウス―――完了セット


 響子の呟き。手に持つ白い【薔薇杖】が、高速で形態変化し、鋭利な剣と化す。

 刀身は純白の白。鍔には一輪の薔薇が咲いていた。


「染まれ――薔薇杖――許可する」


 響子の一声の後、血塗られた手元から握りへと血液が流れる。

 鍔にある一輪の薔薇が、純血の赤に染まった。

 次第に刀身をも飲み込んでいく。

 黒雷が響子に直撃する寸前――高速で繰り出された斬撃が魔力マギアフォースごと黒雷を断ち切った。


「なっ⁉」

薔薇の貴女(レディーローザ)を余り舐めるなよ。童男殺し(チルドレンマーダー)


 皇響子が若くして薔薇の貴女(レディーローザ)と呼ばれているのには、諸説あるが一つ例を挙げるなら薔薇杖だろう。

 薔薇を加工した魔道具【薔薇杖】は、魔力マギアフォースとの循環性が非常に優れている。

 魔術機関で配布される【魔棒剣】も優秀だが、ここまでの循環性は備えていない。


 しかし循環性それだけなら魔道具としてもたかが知れている。

 そこで薔薇杖には、とある工夫が施されている。それが《《響子専用の血液》》と循環するように作られているということ。

 魔術において自身の血液というのは、絶対の自然性、つまり神秘に近しい存在になる。


 そしてもう一つ、薔薇を使う、というこの一点に限る。

 薔薇は古代より愛されてきた存在であるということ。遥か昔であれば紀元前五〇〇〇年頃の古代メソポタミアの文学作品『ギルガメシュ叙事詩』では薔薇は永遠の命とまで称され、ローマ帝国第五代皇帝ネロ・クラウディウスやクレオパトラなど、例を挙げるとキリが無い。


 つまり薔薇を利用した薔薇杖は、魔気エーテルに好まれ、フォースとの循環性にも長けている。よって改良された薔薇杖は、魔術の杖にもなり、傘にも、剣にもなってみせる。


「お前の『質』では、私の前で簡単に断ち切られるだけだ」

「くっ……」


 響子はじりじりと花枝との距離を詰める。

 花枝は不意打ちさながら魔力弾を何発か打ってはみたものの、全て斬撃の藻屑となった。


「終わりだ。観念しろ」

「ヒッ⁉」


 花枝の眉間に剣先が触れる。


「最後に答えろ。お前を後ろ盾しているのは誰だ」

「な、何の事かしら?」


 眉間から血が薄っすらと流れた。


「しらばっくれるな。施設への流動、施設内の結界、エノア・アトレアとの繋がり、皇家の侵入及び結界解除……到底お前一人で出来る範囲ではないのは一目瞭然だ」

「そ、そうね……白状するわ……つまりね……」


 その一瞬、花枝の気が微かに緩んだのを響子は感じた。

 瞬間――


「ナッ⁉」


 グヂュッと鈍く生々しい音を立て、響子の背中から心臓部にかけて突き出るように刃が刺さっていた。

 刃といってもそれは魔力マギアフォースで編まれた刀身、凡そ魔棒剣と思われる赤光の刀身。

 すぐさま刺さっていた刀身は、容赦なく引き抜かれる。


「グハッ!」


 血が逆流して溢れかえり、響子は大量の吐血を漏らす。


「こういう事かしら」


 花枝は瞬間的に『身体強化』を施した右足で、響子を壁際まで蹴り飛ばした。

 そして今目の前にいる魔棒剣を握る人物を強く睨む。


「遅いわよ」

「済まない……」


 中年男性の低く落ち着いた声。

 響子は意識が朦朧とする中、その人物を食らいつくように見ていた。


「……正……希……お前」

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