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神話術師と童男殺し  作者: 綾高 礼
二日目 六月九日

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2-5 現場戦闘~魔術師VS.女子高生〜

 

 リアーナは寒さなど気にする素振りも見せず、青のブレザーを脱ぎ、ついで緑のリボンも無造作に投げ捨てる。


「っ?」

「ファック」


 小さく、口癖のように呟いたリアーナ。

 剝き出しになった白シャツの上から二つボタンを外す。

 露になる白い肌。首元にある三日月型のシルバーネックレスが、女性の膨らみに挟まれていた。


「月歌ちゃん!」


 雪愛は逸早く気付いた。自身が作り出した環境変化のお陰かリアーナ周辺の魔気エーテルの流れが変わったことに。

 リアーナは、右腕のシャツをゆっくりと捲りあげる。


「ならば私は、魔術師《お前たち》を否定する者だ」


 リアーナは親指を強く噛む。真っ赤な血が、指を抜けて腕に一本道を作る。


「なっ⁉」


 ポツリと白い地面に熱を持った赤が滲んでいく。


「まさか!」


 月歌はそこで気付く。血を吸うリアーナの瞳が、赤く染まり始めたことに。


「月歌ちゃん、これって……」

「かなりまずいです。雪愛さん私の援護お願いします!」


 月歌は、身体に張り巡らさせている魔気エーテル血管に、濃縮した魔力マギアフォースを全体に馴染ませるように流し込んでいく。やがてそれは、薄緑色の光となって月歌の両腕両脚を照らした。


「ぅうう…………あ、アァアアアアアアアアア」


 項垂れるリアーナの目からは血が溢れ出て、口元は血塗られたように滲ませていた。

 白シャツに血の跡があちこちに染み込んでいく様は、もう普通の女子高生の姿では無かった。


「来るよ月歌ちゃん!」


 雪愛の掛け声の後、リアーナは地面を蹴り込み水平に月歌目掛けて飛び込んできた。その勢いを利用して右腕を振り下ろす。

 最早その動きは、一般者の稼働領域では無かった。


「くっ!」


 月歌は左に踏み込むようにして躱し、すぐさま左脚に力を込める。張り巡らされた魔気エーテル血管が、反応するかのように左脚が赤く発光し始める。


「ハァアア‼」


 月歌の左脚は、勢い良くリアーナの後頭部に振り下ろされる。

 リアーナはそれを——片腕で受け止めた。


「なっ⁉」


 ――有り得ない、月歌の思考も束の間。


 リアーナは、月歌の足を掴み地面に叩きつける。


「グハッ‼」


 地面に叩き付けられた月歌の腹に、リアーナは追い打ちをかけるように腕を引き、拳を振り下ろす。


「――――っ⁉」


 すんでのところでリアーナは、拳を引き、自分に迫ってくる《《氷の刃》》に対し、バク転を三度繰り返して躱していく。

 リアーナの耳は聞き洩らさなかった。雪愛が、空間に舞う雪を氷刃へと変える音を。


 すぐさま月歌は立ち上がり、黒のコートの裾を振り払う。

 肩に掛けたショルダーバッグから何か棒状の物を取り出し、ついでにショルダーバッグを地面に降ろした。


「すいません雪愛さん。油断しました」


 月歌は、約ニ十センチ程の棒状をスパッと薙ぎ払う。そこに魔力マギアフォースを流し込んだ。

 棒状の先端が、赤い光と共に鋭利な形状に変化しながら伸びていく。


【体物強化魔術】の二つ目。『物体強化』あらゆる武器や物を、一時的に材質強化、形態変化で補う。つまりドーピングと似た事が出来る初歩魔術。


 しかし『物体強化』は、自身の身体を強化させる『身体強化』とは違って、強化させる物によって難易度が跳ね上がり、武器や物の耐久性が限界に達すると破壊されてしまう。

 月歌の現在使用している黒い棒状。これは所謂【道具どうぐ】と呼ばれるもの。


 その中でもこの黒い警棒にも似た魔道具は、魔術機関に所属する職員に配布される通称『ぼうけん』という。

 刀身を自分の魔力マギアフォースで編み上げることによって耐久性上昇、斬撃性上昇、また使用者によっては名刀クラスの刀身を作り出すことも可能だとか。


 魔棒剣は、比較的に初心者の職員でも使いやすいように『魔工学部門』が設計していて魔力マギアフォースとの互換性も抜群に良い。


「気にしないで、それより来るよ!」

「はい」


 再び水平に飛んでくるリアーナ。再度確認するように片手剣のように魔棒剣を握りしめ、中腰姿勢を取る月歌。

 瞬間、リアーナの姿が消えた。


「―――っ⁉」

「上よ!」


 雪愛が叫ぶ。月歌が顔を上げた時には、リアーナは跳躍力を活かして拳を振り下ろしていた。

 咄嗟に後方へ飛ぶ。

 リアーナの拳が地面の雪を粉塵爆発させた。

 月歌は視界が悪くなったことにより聴覚に神経を研ぎ澄ます。


 ―――来る!


 粉塵の中からリアーナの蹴りが、伸び出るように曲線を描いた。月歌は即座にしゃがみ込みそれを躱す。

 リアーナがいると思われる場所を予測し、月歌は下段から掬い上げるように、斜め斬りを繰り出した。

 しかし赤光の剣が空を切っただけ、手応えは感じられない。

 すぐさま視界を晴らす為に、後方に距離を取ろうと。


「―――っ⁉」


 ドスンと月歌の背中に、重い蹴りがのめり込んだ。


「ヴッ‼」


 肺に溜まった酸素が一気に押し出され、吐血を漏らした。


「月歌ちゃん!」


 何処からか雪愛の呼ぶ声が聞こえるものの、思考が鈍る。

 視界が晴れた所で、血だらけのリアーナが同じように吐血し、両手を地面に置いている。


 ―――何で、そこまでして……いや今は彼女を止めなくちゃ。


 月歌はゆっくりと立ち上がり、魔棒剣を構える。


「ア……アァ」

「もう、止めましょうリアーナさん。じゃないと……」

「どう……する?」


 リアーナが獰猛な牙を見せる様にニヤリと笑った。


「殺しかねません」

「……フッ……フハハ……ハハッ…………アハハハハハハ」


 しんしんと雪が降る中、女子高生が目を血走らせ、口元から血を滲ませながら高らかに、狂ったように笑うその様は、異様な雰囲気を孕んでいた。


「来いよ」


 右手をヒョイヒョイと挑発するように二度、手招く素振りを見せつけたリアーナ。


「…………っ」


 月歌は唇を強く嚙みしめ、右手に握る魔棒剣を握りしめた。

 互いに睨み合うこと三秒。

 先に地面を蹴ったのは月歌。

 身体強化の魔術は、風のように距離を瞬時に縮めていく。

 そのまま振りかぶって上段から魔棒剣を振り下ろす。

 リアーナは身体を逸らすのみで、斬撃はスパッと空を切る。

 続けて二連撃目。真一文の水平斬りを繰り出す。それも空振り。

 月歌の連撃は続く。そのまま三連撃目に移行。

 剣を弓のように引き、左手を前に添えて、突き技三連発をリアーナの胴体目掛けて。


「ハアァアアアア‼」


 リアーナは、間一髪でその三連発の突きを全て躱しきった。


 ―――何、この動体視力⁉


 その隙を見逃さないリアーナでは無かった。

 右足を柔軟に頭部まで垂直に持ち上げ、そのまま真下へと直下させる。

 月歌の頭部を叩き割る勢いのまま、衝突クラッシュさせた。

 突き技三連発の剣技のせいか、月歌は些か避けるのが遅い。

 ドン、と鈍い音がしたのち再び粉塵爆発が起きた。


 静まり返る空間。

 パラパラと雪粉が重力に引きつけられるように落ちていく。

 その場にいた雪愛だけは、逸早く気が付いていた。

 空間の魔気エーテルが、とある一箇所に引きつけられていく事を……。


「―――使用属性オールグリーン―――固定フィクスト


 月歌は魔棒剣を握る右手を下げ、使っていない左手を粉塵に向けた。


「―――形態変化チェンジフォーム渦状スパイラル放出リリース―――完了セット


 月歌は【属性魔術】の簡易詠唱の式句を呟く。

 掌で螺旋状に回転した風は、渦巻き、小渦から大渦へと変貌していく。


「暴風よ…………突き抜けろ」


 式句を合図に、月歌の手から暴風が解き放たれた。

 粉塵など瞬く間に消し飛び、風の渦が雪道を抉るように突き進む。

 その道中の間近にいたリアーナは、巻き込まれるように遠方へと吹き飛ばされていった……。

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