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刻舟求剣エッセイ

日記を捨てたら新しい生き方をしてみようかなと少しだけ意欲が湧いてみたけど、やっぱり急に生き方なんて変えられないなって思った話を少しだけ。

作者: イトウ モリ


 日記を捨てたのは、義父の葬儀を終えた週末すぐだった。


 自分の遺品の整理は、なるべく人の手を煩わせたくない。だから生きてるうちに減らしてすっきりしておこう。


 そんな思いで、私物の整理を始めたら……出てくる出てくる。

 黒歴史なんてかわいい言葉では表現できないドス黒のノートたち。


 私は解離が強い人間だったので、ノートに書いて視覚で文字として認識しないと、自分の感情が理解できなかった。


 自分でコントロールできない焦燥感、苛立ち、不安、怒り……。


 何が原因で心が不安定になっているのかを追及するために書いていたノート……なんてカッコつけた言い方をしているけど、要はただの日記だ。


 しかしとんでもない冊数が出てきた。

 なんてったって高校の頃から書いていたのだから。


 紐で縛ってゴミの日に出して、万が一もしかしてまさかとは思うけれど人に読まれたら恥ずか死ぬわ!

 と思い、いつかシュレッダーにかけようと思って収納の奥深くに封印して忘れ去っていたのである。


 つい怖いもの見たさで読んでみた。


 さすが解離人間。自分で自分の解離具合に驚いた。

 読んでも恥ずかしくないのだ。


 自分が書いたものなのに、他人の書き物を読んでいるような感覚で読めてしまう。

 そして書いた当人のくせに、ほとんど記憶がない。


 そんなことあったっけ? のオンパレードだった。


 社会人2、3年目の頃に、ものすごく嫌いな人がいるような記録が残っていたのに、その相手のことを全く覚えていない。

 男だったのか女だったのかすら、何も覚えていない。


 きっと今嫌だと感じている相手のことも、いつかはどんなやつだったのか思い出せなくなる日が来るのかもしれない。


 そう思うと、なんだか心が軽くなった。



 まあそんなことは小さなことなので置いておいて、出てきたノートは一通り目を通したあと、生ゴミと同じ袋に突っ込んでゴミに出した。

 さすがに生ゴミの袋を開けて、ばっちい汁まみれのノートを読もうとするやつはいないだろう。


 それに自分の過去なんて生ゴミと同価値だ。


 相応しい場所で最期を迎えさせてあげられて、とってもすっきりした。

 断捨離って、なかなかいいものである。



 日記を捨ててからしばらくして、少し考え方……というか、生き方みたいなものを改めてみようかなと思えるようになった。


 もう少しだけ人の良い面に目を向けられるようになれたらいいなと、妙に穏やかな気持ちでひらめいたのだ。


 どんな相手からも学ぶべきものはある。だからなるべく相手のいいところを探すようにして、人と接していけたらいいなと思えるようになった。



 そんなタイミングで、中学の同窓会の案内が届いた。



 ……うわ。

 超めんどくさ。マジ行きたくな。



 無意識に手がゴミ箱へと向かう。

 


 前言撤回である。


 どんな相手からも学ぶべきものはある。(ドヤ)



 そんな気持ちになったんなら、まあとりあえず顔を出してみるのが筋だろう。

 何か学べるものがあるかもしれないのだから。


 こういう機会があることなんて滅多にないわけだし、昔のクラスメイトと再会して親交を深めるなんて機会は滅多にない機会だし、貴重な機会だし、もうないかもしれない機会だし、一期一会とかいうし、なんとかかんとか……。


 頭は葛藤しているが、すでに我が手は招待状をゴミ箱へとご案内しようとしている。



 だって嫌なものは嫌なんだもん。



 人の多い場は苦痛でしょうがない。


 仕事の場でなら、感情を切り離して、どこまでも相手に合わせて会話を続けることができる。


 だってそれをやらないと給料がもらえないのだから。だからやれるのだ。



 仕事の話ならできる。


 でも雑談はできない。


 私が話す雑談は、他の人からすると雑談ではないらしい。


 だから自分から話はせずに、そういう場ではひたすら相手の話を聞くようにしている。


 でもあんまり相手にしゃべらせすぎると、今度はその人の『問題(テーマ)』が出てきてしまう。


 テーマに焦点が当たるような返答をしてしまうと、その人の抱えている問題が視えてしまうほどに内容が重くなっていってしまう。


 聞きたくもない重い話になるのは嫌なので、話が深まらないように上手に誘導しながら話を聞かなければいけなくなる。


 そしてなぜか重い話をしたがるやつが寄ってくるので困るのだ。


 いっときも気が抜けない。

 だから疲れてしまう。


 せっかく酒を飲む場にいて、金を払ってその場にいるのなら、私だってうまい酒を飲みたいのである。


 それなら、一緒にいて心地良い相手と飲みたいのだ。


 故にめんどくさい。


 行くメリットがない。

 学びよりも心の平安の方が大切だと思えてくる。



 きっと招待状は行方をくらますことだろう。


 そうなったら残念だけど、もう参加したくても参加の意思は伝えられない。


 残念だ ああ残念だ 残念だ

 ※イトウ、心の俳句。(季語なし)



 日記を捨てたくらいで生き方は変わらない。



 それくらいで人が変われるのなら、世の中はもっと平和になっているはずだ。


 そんな言い訳でごまかして、やっぱり私は今までの私らしい生き方を続けていくのだろう。


 人の生き方なんてものは、そんな簡単には変えられないものだ。





   残念だ ああ残念だ 残念だ


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