表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第3話『ギルドの圧力なんて怖くない』

朝のレストニア。

今日も厨房の火を入れようとしたその時――

店の前に、革ベストに金の紋章をつけた三人組が現れた。


「おはようございます。こちら、“レストニア食堂”さんで間違いないですね?」


「……はい?」


一瞬、耳を疑う。

スタッフ三人が顔を見合わせた。


「店長、うちって“レストニア食堂”だったんすか?」タクが素で聞く。

「いや、特に決まった名前はなかったはずです……」ミナが呟く。

「ど、どういうことだ?」とシド。


私は苦笑しながら返した。

「まあ、せっかく決めてくれたんだし、それでいいじゃない」


「そ、即決!?」三人が同時に突っ込む。


「決断の早さは信頼の第一歩よ。――で、要件は?」


男のリーダー格が懐から巻物を広げる。

「こちら、飲食ギルドからの通達です。“新規営業店舗は開業後七日以内に登録料として金貨一枚を納めること”」


「金貨一枚っていくらよ?」

「き、き、き、金貨一枚!? 十万リルって高すぎるでしょ!?」

ミナが顔を真っ青にし、タクがひっくり返りそうになる。


私は腕を組んで首をかしげた。

「そんなルール、聞いてないけど?」


男は薄笑いを浮かべた。

「本日より正式に施行されました。ギルドの決定ですので」


――はい出ました、“今日からルール変わった”理論。

副店長時代、何度聞いたかわからないやつ。


「で、それを払わないと?」

「営業停止、です。非加盟店が続ける場合は“安全確認”の名目で査察が入ります」


「安全確認、ねぇ……」

シドが低く呟く。「それって、店を潰す口実じゃ……」


男がニヤリと笑う。

「安全第一ですので」


レオンが思わず前に出た。

「安全を盾に脅してるようにしか聞こえないぞ!」


男は一瞬、目を細める。

「おや、冒険者のお客さん? 余計な口出しは――」


「うるさい」

私がピシャリと遮った。

「安全って言葉、そんな風に使わないで。

本当に安全を守ってる人は、脅し文句になんか使わないわ」


男が口を開きかけたが、私はそのまま続けた。


「ところで“開業してから七日以内に金貨一枚”って言ったわよね?」


「ええ、条文どおりです」


「じゃあ、質問。――“開業”って、いつの時点のこと?」


男の眉がピクリと動く。


「最初の客が来た瞬間? 看板を出した時? それとも、ギルドが登録した瞬間?

ルールを作るなら、そこを明確にしてちょうだい。

判断基準が曖昧なら、ルールとして機能してないわ」


タクが「うわ……刺さった……」と呟く。

ミナが「論破始まった……」

シドが「このテンポ……店長の修羅場モードだ……」


私は一歩近づいて、男の目をまっすぐ見た。

「つまりね。

ギルドがまだ“うちを認めてない”なら、うちは“開業前”。

払う必要なんて、1ミリもない。

逆に“もう開業済み”って言うなら、登録料の請求が“事後”になってて筋が通らない。

どっちを取っても、破綻してるのよ」


男の口が、ぱくぱくと開いて閉じる。


「言葉って怖いでしょ?」私はにっこり笑った。

「曖昧なまま押し付けると、自分の首を締めるのよ」


レオンがこっそり囁く。

「……美咲さん、ギルド職員が一人減りそうです」

「いいわよ、どうせ現場には余計な上司多いし」


男が赤い顔で巻物を叩く。

「上に報告しますからね!」

「どうぞ。上の人が現場見に来る機会、めったにないから歓迎よ」


ギルド職員三人組は完全に言葉を失い、そのまま退散した。



ギィ...バタン


扉が閉まる音が響いた瞬間、タクがガッツポーズを決めた。

「うおおっ! 店長、完全勝利っす!!」

「“ルールの穴”を突くとか反則……!」ミナが目を輝かせる。

シドは静かに呟いた。「……やっぱこの人、怖ぇ」


私は笑って肩をすくめた。

「怖くないわよ。ちょっと“教えてあげただけ”。ルールの使い方をね」


レオンが頷く。

「……ギルドが何でこの店を敵視してるのか、わかりました」


「言ってみて?」

「街の飲食街、ほぼ全部ギルド加盟店です。

そこに“非加盟”で、味がよくて、店長が強い店ができたら……そりゃ排除されます」


私は顎に手を当て、薄く笑った。

「なるほど。組織の腐り方、典型的ね。――放っておけないわ」


そして、ピタリと動きを止めた。

三人とレオンが同時に首を傾げる。


「……ねぇ」


「どしたんすか、店長?」


「もう、こっちから行かない? ギルド本部に」


「はぁぁぁ!?!?!?」

タクが裏返った声を出す。

ミナが口を押さえる。「また始まった……!」

シドがぼそり。「次はギルド本部が被害者になる番か……」


「被害者じゃない、教育対象よ。

“頭の悪いルール”は、現場の女が整えるのが筋でしょ」

「そ、そんな話し聞いた事ないっす」

「店長、男らしい...」

「シビれました...」


レオンが笑った。

「僕も行きます!」

「あなた、暇なの?」

「暇です!」

「暇なんかい!」


私はくすりと笑い、エプロンを外した。

「じゃ、決まりね。昼の営業前に戻るわよ。

 チーム・レストニア食堂、いざ出陣よ!!」



美咲を先頭に、タク・ミナ・シド・レオンの四人が大通りを歩く。

周囲の店主や通行人が、ひそひそと囁いた。


「おい、あれギルドに逆らったっていう”食堂の女店主”じゃないか?」

「マジで? 命知らずだな……でも、かっけぇ……」


石畳の向こう、ギルド本部の重厚な扉がそびえる。

その前で美咲は立ち止まり、深呼吸した。


「よし。――カオスの本丸、整えに行こうか」



⸻つづく!




あとがき


美咲「はーい、あとがきタイム! いや〜今回は気持ちよかったわね〜」

タク「完全に店長無双してましたよ! あの言葉攻め、見ててスカッとしました!」

ミナ「ギルドの人、顔色変わってましたよね……」

シド「俺、途中から祈ってましたもん。“どうか死人が出ませんように”って」

レオン「あの場で店長が笑うたびに、ギルド職員のHPが削れていくのが見えました」


(※背後から、モブギルド職員Aがそっと登場)


ギルド職員A「あ、あの……私たちも仕事でして……」

美咲「あら、あんたいたの?」

ギルド職員A「はい……本音を言えば、僕もあんな通達イヤだったんですよ……」

タク「ほら出た、“上から言われて”タイプ!」

美咲「あー、それ一番嫌いなやつ! 自分の頭で考えないで動くのが一番タチ悪いのよ」


ギルド職員A「で、でも……給料が……」

ミナ「あっ、それはちょっと同情しちゃう……」

シド「でも上司に逆らえないからって、現場いじめていいわけじゃないっすよね」


レオン「美咲さん、もしかして……“ギルド再教育プラン”とか考えてます?」

美咲「当然よ! “頭の悪いルールを整える”のが次のカオス整備ミッション!」

タク「出た、また戦場モードだ……!」

ギルド職員A「えっ……再教育って、まさか私たちも……」

美咲「大丈夫よ、掃除から始めるわ。まずはギルド本部のトイレ磨きからね」


ギルド職員A「えええええっ!?」


ミナ「あ、またトイレ掃除から……」

シド「店長、どこ行ってもトイレから始まるんすね」

美咲「基本でしょ。トイレが汚い職場に、まともな判断力は育たないのよ」


タク「次回、“ギルドトイレ革命”編、開幕っすか!?」

美咲「タイトルがダサい!」


(全員爆笑)


美咲「というわけで、次回はギルド本部へ乗り込みます! 次こそ本格バトル。

“言葉の剣”で、上層部の頭ん中をピカピカに磨いてやるわ!」


全員「次回もよろしくお願いしまーす!!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ