【天使】養殖・第二話(11)
彼女を追ってこの地へ来た理由までは、【天使長】は語らなんだが。
(たぶん、勝手をされては困るってことだよね)
て、少女にも想像はつく。
「仮に」襟紗鈴が口ひらいた。「仮にいま聞いたそれが全部事実だったとしてさ、今までその事実が明るみに出てこなかったのはなんでなん? 特にデジタルでネットなこの時代に」
「仮に知ったとして口外できるか? 君らの自尊心がそれをゆるさんやろ? その独特な自尊心が」
静かにつけ加えて、
「……代々二千年かけて、わてらがそう仕向けてきた」
顔くもらしたまま黙りこみよる、少女と襟紗鈴。
そんな二人をすまなそうに見つめてよる【天使長】。
「汝はふたたび吾を拝跪する資格を得た!」
高らかにそう言うて【神女】が玉座から立ち上がり、
「なれば、忠誠の再確認とゆこうそかり」
着衣をひとつずつ脱ぎ捨てながら歩み来たって、草地にその見事な褐色の裸身を横たえた。
「今宵は常に倍して励めよ」
世にも情けない表情うかべて【天使長】、服ぬいで彼女にゆっくり覆いかぶさっていく。
「は? 今から? ここでっ?」て、襟紗鈴。
「帰ります!」て、少女。
「許さぬ」
かすかにうわずる声で【神女】、
「見てけそかり」
気づけば【仙女】たちも木々から離れて草地に出、二人ないしそれ以上の人数で自由にむつみ合いはじめてる。
このとき見たものの強烈さは、少女と襟紗鈴が本来持ち合わせとった性的好奇心に、突きぬけた畏怖と禁断性のかげりを強う投げかけずにはおれなんだが。
やがて、ふたりは辞去がかなう。
さっきの【くしゃみの仙女】が、彼女だけは着衣のまま、情交の宴にも参加せず、少女と襟紗鈴を笑顔と身振りでそっと導き、この【離宮】から出ていくエレベーターに乗せてくれたからや。
めっきり日の暮れた帰り道、
「どうしよ、ママに叱られる……」
「どうしよ、寮母さまに怒られる……」
ふたりで自分を憐れんでよると、
「こんばんは」
音楽的なまでに無邪気な声が、鼓膜に跳ねた。
目を上げれば、そこにおったんは今現在の心配事が吹き飛ぶほどに美しい園児が、ひとり。
白金色に光る巻き毛をふるわせて微笑み、
「はじめまして。ぼく、そちらのお姉ちゃんとおんなじで【天使】です」
ぼう然となってよる少女と襟紗鈴に、いたずらっぽう笑んで、
「【痴天使ユデガエル】て、名乗ってるねん、ワイ」
本性見せても、声はやっぱり、お菓子のフルート吹いたみたいなハイトーンやった。(『【天使】養殖・第二話 “まします天縫の宮廷” 』完。第三話に続)