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勇者の幼馴染は、名を残したい  作者: 夏祭えま(旧:ケイ)


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6. シオドア中佐

「僕はッ!!感動したよ!!今までで1番素晴らしい日だッ!!」


 シャーロットですらげんなりとした顔になって、かれこれ3時間ほど喋り続けている麗人を眺めた。


 ♢


 城壁には警備兵が多数おり、案の定と言うべきか、ソリスタリアに入る前に止められ、監視された状態で取調室へと案内された。

 メリル、ロビー、スウェン、ティオはガタガタと震えへっぴり腰になりながら、シャーロットの後ろに隠れている。


 まだ13歳ほどの少女の後ろに隠れている状態は、人質を取っているつもりかと警備兵に勘違いされそうだ。実際されてそうなので、厳しく睨まれ武器に手をかけられている。

 それに更に怯えて4人はシャーロットの後ろで縮こまろうとしている。その様子がちぐはぐで、面白くて笑い出したい気分になってくる。


「自首しにきました」


 デイビッドが自首するとはっきり言うと、シャーロットの後ろに隠れていた4人は小さく叫んだ。

 スウェンも叫んでいたので、シャーロットは目を輝かせて振り返る。

 すぐさま、前向いててよお!と悲鳴にも似たテレパシーが飛んできたので、渋々警備兵達に向き直った。


「俺らは追い剥ぎをしました。俺と、あの少女の後ろにいる4人です。少女は関与してません」


「……犯行場所は?」


「場所は春の草原の…城壁近くの境界付近で……あー確か3日前、5日前、8日前に、通りかかった商人に追い剥ぎをしました。見た目とか馬車は覚えてねえ…覚えてないんですけど、護衛がいない商人を狙いました」


 デイビッドが慣れない敬語を使いながら聞かれた質問に素直に答えているのを、にまにまとシャーロットは眺めた。

 怪しまれないようにと動かないようにしているので、メモを取り出せないのが残念だ。覚えていられるうちに書いておきたい。



 シャーロットがにこにことしていると、すっと兵の一人がシャーロットの方へと近づいてきて、メリル達を強く睨んだ。

 ひっ、と悲鳴をあげてメリル達が後ろに下がった瞬間、守るかのようにシャーロット達の間に身を滑り込ませた。


「怖かったねお嬢さん、一緒に別室に行こうか」


「…え?ええと」


 いきなり身を割り込ませてきた兵に、ぱちぱちとシャーロットは瞬きをする。


 ──どうやら、保護すべき対象だと思われているらしい。


 大丈夫です!と言っても逆効果になりそうで、どうしようかとシャーロットは迷う。拒み続ければ、脅されているのではと逆に勘違いされそうだ。好き好んでこの場所に立っているのだけれど。


 実力行使の言葉が頭に浮かんだが、まあ当然アウトだろう。暴力で解決は最終手段であるべきらしい。ゼドが言ってた。



 それに、この人、それなりに強そうだ。

 他の兵達と同じ服を着てこの場所にいるのが不思議なくらい。デイビッドが10人になってようやく単純な力が同じくらいになるだろうか。

 ──この人相手だと、互角まで力を抑えても怪しまれそうだ。実力行使はあまり良い方法じゃないかもしれない。



 ところで先程から、ここにいて!とスウェンから永遠とテレパシーが飛んでくる。頼られて嬉しい。


 シャーロットは、別室にご案内された後一人でソリスタリア内に入る気は無い。皆一緒に冒険の1歩を踏み出したい。

 だからこそ、この場にとどまっていたい。暴力を行使せずに、どうにか方法を考えるしかない!



「…心配してくださってありがとうございます。私は私の意思でここにいるので、お気になさらないでください」


「君を必ず守るとこの僕が断言しよう。もう大丈夫だ、安心してついておいで」


「いえいえ、お手数お掛けしてしまいますし、ここにいますよ」


「大丈夫、何も心配することは無い。君に危害が加えられることは無いよ。僕がソリスタリア内まで付き添うから安心してくれ」


「本当に大丈夫ですよ?ここにいたいんです」


「怖い思いをしたのかな?別室で全て話してくれて構わないよ」


「いえ、あの、本当に大丈夫なんです…」


「………もしかして、爆発物でも仕掛けられているのかい?イエスならウインクしてくれ」


「いえ……」


 話聞かないなこの人。

 いやでもこの人は職務に忠実であって、ここにいるのが他の少女ならば救いになるのだろう。シャーロットが例外中の例外、外れ値もいいところなだけだ。

 ……これだけで暴力を行使すればさすがにアウトすぎるだろう。人でなしと思われてしまう。


 どうすれば…とメリル達を見ようにも、この人に遮られていて目配せも出来ない。


「(目の前でリンゴを潰せばいいんでしょうか)」


「(何がどうなっての結論!?絶対やめて!)」


 唯一言葉が交わせるスウェンに頼ろうにも、出した案は却下されてしまった。

 自分の実力を示せばここにいても大丈夫だと思ってもらえると思って、と言うと、奇行に走らないで…!と諭される。


「(……この中の誰かと恋人のフリするのはどうでしょうか。そういう小説を読んだことが──)」


「(この人には逆効果じゃないかなぁ…!?)」


 色々と案を出してみたが、尽く却下されていく。

 まあ確かに客観的に見ると、ぼんやりとした顔の少女が盗賊5人と一緒にいたら引き離そうとするだろう。少女がここに留まることを受け入れてくれそうな良い理由は、思いつかない。



「さあこちらに…あれっ君力強いな!?」


 ──良い案が出ない。となれば、とりあえず体幹で粘っておけばいい。

 待っていればデイビッドの話し合いが進むはず。


 手を引いている兵から視線を外してデイビッドの方を見る。デイビッドの聞き取りをしている兵は、手元で何かの箱のようなものを操作している。


 何故か、その兵は段々と戸惑った顔になっていった。


「5人組で黒髪緑目の男に馬車を止められ、その間に青髪と赤髪の青年に荷物を奪われた。他の2人に刃物で脅され……確かにお前達で間違いないようだが………シオドア中佐、確認が取れました。ですが───」


(…中佐?)


 中佐という言葉に、6人に衝撃が走る。軍兵に疎いシャーロットでも分かる、かなり高い階級だ。それも貴族がなる類いの。何故こんな所にいるんだろうか。

 最悪の事態を想定したのか、シャーロットの後ろで悲鳴が聞こえた。デイビッドも目を見開いて振り返る。


「…何だ?」


 シャーロットの腕を掴んでいる兵が返事をした。この人が『シオドア中佐』らしい。

 びっくりしてシャーロットは顔を凝視した。信頼してくれ、とでも言うように頷かれた。やっぱり実力行使は難しいかと見ただけなのに。


「大丈夫だ、何があろうと私が守ろう」


 守るも何も…と言いかけたがギリギリで飲み込んだ。


 ここにいるのは場違いなほど強そう、というシャーロットの印象は当たっていたらしい。

 足の筋肉は鍛えられていて瞬発力が高そうだ。腕も剣を振るために鍛え抜かれている。メリル達から見れば一瞬の隙も無いように見えるだろう。

 でも、シャーロットならゴリ押せば勝てる。美しい女性の顔を殴るのは気が引けるけれども、倒すとすればまず顔面を殴るべきだろう。顔を鍛えるのは人間にとって難しいので。

 怯ませたら全員抱えて、城壁を思い切り蹴って穴を開けて外に飛び出そう。──あまり殺したくはないので、無難に話し合いで解決するなら、それが1番だけれども──追いかけてくるなら仕方がない。殺そう。


「…………それが……この盗賊達に足止めされたおかげで、命が助かったと。それどころか奪われた分よりも稼ぐことが出来たので、罪を軽くするようにと……嘆願されております……!」


「はあ?…ただその者の運が良かっただけだろう。他の者の証言を話せ」


「それが……全員が、そのように言って嘆願しております…!」


「………その証言の確証性は?」


「音声データ、血判、魔力証明があります…!おかしな話ですがどうか感謝を伝えてください、とも、全員……」


「………ふむ」


 シアドア中佐は考え込み、ようやく腕を離してくれたので、その隙にシャーロットはメリル達の方へそっと移動する。物音1つ立てないように。

 この人が剣に手を掛けたら、その瞬間4人を腕に抱いて、さっとデイビッドの方へ1歩、デイビッドを掴んで城壁に向き直りそのまま蹴る。──頭の中でそうシミュレーションしながらシオドア中佐のことをじっと見つめる。



 メリル達は不思議そうに顔を見合せて、自分達の罪を軽くするよう嘆願する音声データに耳を傾けた。──スウェンの動揺が少ないのがちょっと気になる。


「嘆願…?なんでだ?」


「俺は……何も知らないな……」


「……俺も思い当たる点は無いな♡」


「(…)」


「……今のうちに伝えておきますね…いざとなったら私が全員抱えて城壁蹴破ります」


「臨戦態勢…♡!?」


 こそこそ話し合っていると、音声データの再生が終わる。声の主には心当たりがあるが内容には全く心当たりが無いとのことで、皆当惑した顔だ。


「これは……」


 眉をひそめたシオドア中佐は音声データの方へと歩いていく。音声を流していた箱を受け取り、偽装された物ではないなと呟いた。

 シャーロットが警戒を続けていると、こちらに向き直ったシオドア中佐が口を開き、



「───素晴らしいッ!!」



 突然、本当に唐突に、大声でいきなり叫んできた。目は爛々とギラついている。

 シャーロットは思わず拳に力を入れそうになった。


 ♢


「ああ素晴らしい───!こんなにも素晴らしき奇跡があるとは……!あまりにもッ!あまりにも感動ッ…!僕は感動したよ…!自首するその尊き精神!その素晴らしさに神でさえ敬服し覆される罪!忙しい僕がたまたまここに来て警備兵のフリをしていたことも運命なのだろうッ!神の奇跡に巡り会えるだなんてッ!!ああ素晴らしいッ!こんな世にもまだひっそりと咲く運命の輝きがあっただなんてッ……ましてやその瞬間に立ち会えるだなんて……ああ神よ!そしてあなたに!感謝をッ!!」


 一瞬の混乱の後、最初こそシャーロットはワクワク顔でメモを引っ張り出して書き始めた。個性の強い人だ!参考にしたい!と。

 しかし、裏表とも真っ黒になるぐらい書いたメモの15枚ほどが、神とシャーロット達、主に自首したデイビッドを賛美するセリフで埋まると、シャーロットはついにペンとメモを仕舞いこんだ。


「そう!罪とはこうあるべきッ!自分でその罪に気づき、我らが動くその前に懺悔し償う───それこそあるべき姿!自分で気づいてこその、罪ッ!!ああ素晴らしい、素晴らしいよ!デイビッドと言ったね?君の自首する精神性、その全てを僕はッ……肯定するッ!!そして僕が持つ全ての賞賛の言葉を贈るに値するッ!!ああこんな繰り返しの言葉ではあまりにも足りないッ───この日のために僕は賞賛の言葉を手に入れておくべきだった!僕の怠惰ッ!!」


 終わらない。全くもって終わる気配がしない。ちょっと怖い。

 真正面からその熱量を受けているデイビッドは腰が引けきっている。1歩下がれば1歩前に出てくるので、どうすることも出来なくなっている。

 シャーロット達はうわあ…と言うことしか出来ない。警備兵ですら、申し訳ない…という顔をしている。


「そう神は見ていたッ…!君達が己の罪に気づき、ここまで自らの足で来ようとして、出向いて、辿り着いて、自首することをッ…!だからこそ神は罪は覆した!素晴らしきこの世界!君達のような精神の持ち主を、神は見捨てぬ…!そうッ!それこそ神!神の慈悲を見られるだなんてッ…僕が今まで生きてきた中で1番の日だ!」


 いつもはクールで部下思いなんですけどね、ちょっと人の美しい瞬間とか神の奇跡に遭遇するとこんなテンションに……いやいや本当に普段はとっても素敵な方なんですよ……兵はみんな憧れています……本当に仲間思いで、情に厚くて、美しいお方で、平民でも分け隔てなく接するような人で………ほら、新しい平民の勇者のところにも直々に出向いて応援したり……えっ、勇者と会った時にこんなふうにならなかったのかって?確かこの面は出てなかったはずだけど……この人は、こう、ひっそりとした感じの小さな奇跡が大好きな人なんでね……


 2時間も過ぎれば、もはやシオドア中佐の賛美は耳から通るも抜けていく。

 肉体強化魔法を掛けているにおいが途中からしてきて、シャーロットは顔を引き攣らせた。魔法を使ってまで喋り続けようとしている。


 盗賊と聞いて顔を顰めていた警備兵達も、今ではこそこそとシャーロット達と話している。

 ──ゼドはシオドア中佐のこの状態を見なかったらしい。少し残念だ。再会したら、シオドア中佐って実はとんでもない人だったんだよ、と伝えたい。



 ♢


 永遠に続くのではないかと思うほど長い長いシオドア中佐の言葉が途切れたのは、1人の兵のおかげだった。


「シオドア中佐、アキ大佐からのご連絡が………えっ」


 3時間を過ぎた頃だ。

 通信機片手にドアを開いた兵は、壁の隅まで尻もちをついた状態で逃げているデイビッドと、それに迫るようにして怒涛の如く喋り続けるシオドア中佐の姿を見て大混乱に陥った。


「シオドア中佐に何をしている!いや違う中佐!?何をなさっておいでですか!?」


 剣を抜いて駆け出そうとして、迫っているのはシオドア中佐の方だと気付き慌てて立ち止まろうとし、勢いを殺しきれずすっ転んで、頭をぶつけてしまった。


「えっ!?大丈夫かい!?」


 その姿を見て目を見開いたシオドア中佐は、ようやく言葉を止めて、その兵に慌てて駆け寄った。


 賞賛していた時の面影は見えないほど、キリッとした表情になる。シャーロット達と警備兵達に長話に付き合わせてすまなかったと深々頭を下げ、頭を打ってしまった兵を抱えて医療室まで運んで行った。




「中佐!お姫様抱っこは恥ずかしいです!中佐!!」


 風に乗って聞こえてきた悲鳴を背景に、しばらく監視は付けさせてもらいますが一旦罪には問わないということで……とシャーロット達は解放され、ようやくソリスタリアへと降り立った。

なぜシャーロットは激強生命体なのに警戒されないのか?

→後のエピソードで答え合わせするので、それまでお待ちください!


シャーロットは実力行使について考えすぎではないか?

→そういう子なので…

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