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5. 城塞都市ソリスタリア

「よし、防寒具全員着たな♡境界を越えるぞ♡」


 最初の目的地であるソリスタリア。

 シッツォ村はガテルミシア王国の北部地域にあり、南西方面に進むと首都ミシアシティがある。その道中にある比較的大きな城壁都市が、ソリスタリアだ。

 『春の草原』から出ると広がるのは極寒の地。勝手に拝借した父の毛皮のロングコートを着て、もこもこの手袋とマフラーを身につけた。ぽかぽかとした『春の草原』で着込むと中々暑い。



 シャーロットと5人はソリスタリアへ向かって歩き始めた。『春の草原』の境界線を超えると、途端に風は冷たく頬を打つ。


「やっぱり寒いな♡」


「メリル……お前多分……これから先ずっと……その語尾になると思うぞ」


「それがいいそれがいい。似合ってる」


「どういう意味だお前♡」


 すっかり語尾が今までずっと♡だったかのように馴染んでいるメリル。そのことをティオが指摘すると、それにロビーが悪ふざけで乗っかり、わははと笑った。


 シャーロットの隣で色々と喋っていたメリルだったが、悪ふざけをしてきたロビーの隣に行って、肩を小突いた。

 ロビーもそれにやり返し、さらにメリルがやり返し……とまるで5歳児の喧嘩だ。シッツォ村の幼児たちを思い出させる。

 ふと、シャーロットのことをラスボスとあだ名で呼んで慕ってくれていた子を思い出し、挨拶もせずに出てきてしまったことを少し後悔した。



 呆れたようにロビーとメリルの喧嘩を見たデイビッドとティオ、スウェンが代わりにシャーロットの近くへと集まってくる。


「シャーロット、寒くないか?」


「大丈夫です!これくらいならまだ半袖でも…」


「想像するだけでも……寒いから……やめてくれ……」


 ティオは一番着込んでいるものの、それでも寒いらしくぶるぶると震えていた。デイビッドが自分のマフラーを巻いてあげている。スウェンは我関せずの態度でにこにこと眺めているだけだ。


「ティオは氷属性が優位だからな」


「そうだ……ここでは……何の役にもたたない……どころか……最悪だ……まあいつもよりは……少しマシだが……」


「優位?」


「基本誰もがどれかの属性に傾いてるだろ?まあ魔法があまり使えねえと体質にしか出ないんだけどな…氷属性は寒がりで、火属性は暑がりとかな」


「ええっと…なるほど、普通人って1つの属性が得意なんですね?」


 村にあった本に書かれていた英雄などがシャーロットと同じなものだから、それが普通だと思っていたが、どうやら違うらしい。


「……………展開が……読めたぞ……」


「奇遇だな俺もだ。……シャーロットの得意属性はどれなんだ?」


「全属性、特に得意苦手もないです!」


 にこっと笑ったシャーロットに、やっぱりなとデイビッドとティオは目を合わせる。スウェンはどこから取り出したのかチョコレート菓子を食べていた。美味しそうだ。


「とことん……規格外だな……」


「シャーロットならアカネディアに行けるんじゃないか?」


 永世中立都市アカネディアとは、大陸中からの桁外れの桁外れの天才たちが集う島のことだ。伝記に出てくる偉人たちの数多くはアカネディア出身であり、シャーロットもよく知っている。


「今は特に考えてないですね〜でも観光しには行ってみたいです!」


 スウェンがシャーロットの言葉に同意して凄く頷いている。シェフの最高峰も集まっているからだろうな…と呆れの混じった顔でデイビッドは言った。


(なるほど。魔法や戦いの天才だけじゃなくて生産職の天才も集まるんだ)


 メモをとりながら、いつか行ってみたいと書いておいた。



「ちなみにデイビッドの属性は何ですか?」


「俺か?俺は確か…木属性だな。スウェンは闇属性だったよな?」


 スウェンがまたもやうんと頷いた。小突きあいをしていたメリルとロビーも会話に加わった。


「属性の話か!?オレは光属性だぞ!」


「俺は水属性だな♡魔法なら俺が1番使えるぞ♡」


 飲み水の確保をせずにいられる程度の水が出せる水属性は、重宝されるらしい。それを聞きながら、シャーロットは全力で水魔法を使ったらどうなるかを考えた。重宝どころか大災害で人から疎まれる。考えるのをやめた。


 魔法が使えるのは、ロビーとメリルのみだと昨日言っていた。

 ──()()()ので、スウェンも使っているとシャーロットは思っているが、何か理由があるのかもしれないと聞いてはいない。聞きたい。


「いやいや、魔法が1番使えるのはオレだぞ!昨日はシャーロットがいたからしてねえけど、日が落ちてからの見張りはオレがいるのといないのとじゃ負担が全然違うんだからな!」


「誰のおかげで川を探し回ったり水買うためのお金について考えなくていいと思ってるんだ♡飲料水出せる魔法使いは結構貴重なんだぞ♡」


「いやいや希少性でいうなら断然光属性と闇属性だからな!この先のソリスタリアでも10人いるかいないかぐらいだろ!」


「回復が使える光属性と魔法が使える闇属性なら合わせたらそれぐらいかもな♡属性だけならもっといるだろばーか♡」


 と、またもやはしゃぎはじめたメリルとロビーを見て、デイビッドはため息をつく。仲裁に入るつもりはないらしい。


「あれがメリルとロビーの通常運転だ。ほっとくといつもあれだ」


「そうだな……いつも……あの二人は……ああいう風に……言い合っている」


「喧嘩するほど仲がいいってことですか?いいですね!私もしてみたい!」


「……口喧嘩にしておこうな」


「……完全に……同意だ……」


 少し青ざめたデイビッドとティオの横から、しゃくりという音が聞こえた。見るとスウェンが懐からリンゴを取り出して食べていた。


「スウェンはいつだって何か食べてるんだよな…あのシャーロットの口説き文句は大正解だったよ」


「まあ……あれだけ肉を食えば……分かるよな……」


 にっこりと笑ったスウェンは、美味しそうな音を立ててしゃくりしゃくりとリンゴを齧っている。


「ちなみにな、1番怒らせると怖いのがスウェンだ。空腹時が特にな」


「ああ……ロビーがスウェンの焼いていた肉を……勝手に食べた時は……それはもう……」


 リンゴを食べ終わったスウェンは、心外だとでも言うようにぷくっと頬を膨らませた。すっと食べきったリンゴの芯を懐にしまい、代わりに取り出したのはビーフジャーキーだ。また食べ始めた。

 にこにことビーフジャーキーをかじるスウェンの紫色の髪は上機嫌に左右に揺れている。


 それにしても、やはり恐ろしい程の美貌だと思う。ゼドと同じくらい美しい人を、シャーロットは初めて見た。


「スウェンは喋るのも筆談もしないんですよね?」


「ああ。最初に会った頃からこうだったよな?」


「そうだったな……まあ……たまに波長が合うと……テレパシーを送ってくるぞ……ほとんど怒っている時だが……」


「ティオとロビーしか聞けないんだよなあ。俺も聞いてみたいけど、波長?ってのが合わねえらしくて」


「テレパシー……魔力の質合わせたらいけますかね?」


 じっとスウェンを見つめると、驚きと照れが混じったように微笑みながら頬をかいた。がしがじとビーフジャーキーは齧りつつ。


「(……伝わる?)」



 頭の中に水のような澄み渡った音が響いた。


 ──不思議な言葉だった。

 言葉の意味も伝えたいことも分かるのに、頭に響いた音が理解できない。それを雨や川の音と同じと頭が認識してしまうのに、伝えたいことだけは分かる。


「すごい!すごいです!伝わります!何なんですこれ!」


「(分かんない)」


「スウェン自身も分からないんですか!面白いです!興味深いです!」


 いくら聞いても全然理解が出来ない。面白い。ぴょんぴょんと飛び跳ねていると、5歳児のような口喧嘩をしていたロビーとメリルも、再び会話に加わった。


「ええっシャーロットちゃん、スウェンの言葉聞こえたのか♡俺は全然聞こえないんだよな♡」


「オレは結構はっきり聞けるぞ!お腹空いたか美味しいか次何食べようしか考えてないよな!」


「(街で何食べようかなあ)」


「ほらな!」


 いつの間にかビーフジャーキーを食べ終わっており、本日二個目のリンゴを取り出した。どこに入っていたかは謎。

 じっと手元を眺めるシャーロットに、スウェンははにかむように笑いかけた。


「(そうだ、言い忘れてた、これからよろしくね)」


「はいっ、改めてよろしくお願いしますね、スウェン!」



 ♢


「ちょっと待って緊張してきた♡やっぱもう少しその辺うろうろ…♡」


「こっここまで来て逃げる訳にはいかねえよな…!」


「うぅ……いざ……ここに……来ると……」


「(怖あ)」


 度々雪が強くなって、進むのも困難になり大変だった。春の草原の境界を超えると城壁はかなり近くだが、吹雪をやりすごしていると遅くなった。雲がかかっているせいで今どのくらいの時間なのか分からない。

 シャーロットはあまり村の外に出る機会が無かったので、ソリスタリア城を中心とする城塞都市ソリスタリアの城壁を見上げて目をきらきらと輝かせている。


 しかしメリル達、おそらく指名手配されている身としては、自分の足でここに来るのは恐ろしいのだろう、ガクブルと震えている。2日3日も変わらないという結論が出そうなのを、呆れた目で見ているのはデイビッドだけだ。


「何震えてんだよ」


「デイビッドは肝が据わってますね」


「死ぬわけじゃないだろ」


 純粋さが目立っていたデイビッドだが、冒険者の時も盗賊の時も1番前で戦っていたおかげか、かなり肝が据わっていた。

 そのアンバランスさが良い、とうんうん頷いているシャーロットに、呆れた目をデイビッドは向けてくる。デイビッドはよく呆れた目をしているが、この先もよく見ることになりそうだとシャーロットはにこにこ笑った。


「大体、捕まったり墨入れられたりで時間かかるかもしれねえけど、最終的にはシャーロットと一緒に冒険者になれるだろ?何を心配してんだ?」


 不思議そうに首を傾げたデイビッドに、はぁあ!?と逆ギレしながら4人は詰め寄っていく。


「(怖いに決まってるじゃん!)」


「墨入れられるのも牢屋に入るのも怖いんだよ!♡絶対怖いし痛いだろ…♡」


「♡が……ついていると……そうは……聞こえないな……」


「牢屋に入って一生出られなかったらどうすんだよ!終身刑とか!」


「ロビーはやっぱバカだろ♡殺しをしたわけじゃないんだし自首しにいくんだ、そこまでの罪にはならねえよバーカ♡」


「バカって言った方がバカだからメリルがバカだぞ!」


「やめろ5歳児……メリルも……すぐ……ロビーのバカを……からかいに行くな……」


「おいティオ誰が5歳だって!?誰がバカだって!?」


「……やっぱり……そういうのは……メリルに…やってくれ……面倒くさい」


 デイビッドに突っかかる形だったのが、メリルがすぐにロビーの方へと矛先を変えたため、いつも通りの感じになった。スウェンだけはぽこぽことデイビッドを叩いているが、全然痛くはなさそうだ。


「もう行こうぜ!おい、スウェン、とっとと自首して解放されれば美味しいものが食べられるぞ」


「(……そうだけど!)」


「やっぱもうちょっと待って♡!待って♡!」


「あと5分!あと5分だけくれ…!」


「そ……そんなに……急がなくても……」


「今でも後でも一緒だろ…」


 結局1時間イヤイヤと駄々をこね、それに呆れきったデイビッドがスウェンとティオを担いだ。シャーロットがロビーとメリルを担ごうとすると、ごめん!歩く!歩きますから!と拒否された。


 シャーロットにとっては初めて足を踏み入れる、シッツォ村以外の人の生活地域だ。父に連れられてダンジョンとかなら行ったことはあるが。


「楽しみです、冒険者になるのも何もかも!」

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