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勇者の幼馴染は、名を残したい  作者: 夏祭えま(旧:ケイ)


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4. 夢の果てへの仲間

「もう一度、冒険者を…?」


「はい!私と一緒に!」


 たとえ罪人の墨がパーティメンバーに入っていたとしても、ひとたびシャーロットが魔物の討伐に成功すれば、人々はシャーロットの力を頼らずにはいられなくなる。

 単純に戦闘力だけなら、Sランク冒険者に匹敵するのだから。


 シャーロットがいれば、依頼が来なくなる問題も解決。それどころか今までよりも依頼が殺到するだろう──と告げた。




 シャーロットの言葉に、動揺した瞳で盗賊たちは顔を上げる。

 一番最初に口を開いたのはティオだった。


「いや……それでも……君に迷惑がかかって……しまうだろう?君なら……パーティを組まなくても……ソロで十分できるだろうし……」


「ティオの言う通りだ、俺らがいたら本来被る必要のない負担が増えちまう。それに盗賊になったのは俺たちの自業自得だし、君を関わらせられねえ」


「そっ、そうだぜ♡お嬢ちゃん♡」


 シャーロットの言葉に目を輝かせたメリルとロビーとは違い、ティオとデイビッドはシャーロットの言葉を気遣いから跳ね除ける。

 メリルも2人の言葉を聞いて、慌てたように首を振る。スウェンは何も話してはいないが、必死にぶんぶん首を横に振りながら手でバツを作っている。



「んんー、そうか、オレはめちゃくちゃ嬉しいしそうしたいんだけど巻き込む訳にはいかないよな…」


 ロビーもしゅんと沈んでしまった。誰よりも目を輝かせて飛び跳ねようとしていたので───崩すのはロビーから、とシャーロットは目線を向けた。


「私の実力なら、単独でドラゴン討伐いけます。街の近くのドラゴンを倒して、報酬で罪を帳消しにしてもらえば前科は消えます。それでもうるさく言ってくる人はいるでしょうけど、そんなの全然負担じゃないです」


「お、おおー!?シャーロットが言うんならそうだよな!これで解決でいいんじゃないか!?」


 シャーロットが強く断言すると、狙い通り、おそらくよく理解できてはいないロビーは飛び跳ねてシャーロットの手を握り、ぶんぶん振った。

 呆れた顔をして、デイビッドとティオがロビーの方を見た。


「ロビーお前なあ…その提案、それにパーティメンバーになることもだ、お嬢に何一つ利点がねえだろ?」


「そうだぞロビー……というか……単独でドラゴン討伐できるのか……」



 スウェンは手に前に作っていたバツのポーズを作っていたが、考え込むようにそのポーズをやめたのをシャーロットは見逃さなかった。

 次の狙いをスウェンに定め、にっこりと微笑む。


「ドラゴンの解体、父に教わったのでできます。私と一緒なら、ドラゴンのお肉を何度でも食べられますよ!」


「っ……!!」


 スウェン陥落。

 肉を見た時に1番目を輝かせていたのがスウェンだ。1番食べたのもスウェン。昨日と今日と何も喋っていないが、ドラゴン肉を頬張る姿を見ていれば分かる。食いしん坊だ。



「おいおいスウェンもロビーも…♡」


 次は呆れた顔をしているメリル。──シャーロットの提案には最初から揺れている。


「あなたたちと一緒にいることはちゃんと、私にとって利点があります。私の実力が周知するまでは絡まれたりするかと思います。ぶっ飛ばすのは得意ですが…殺人はさすがにしたくないです。余計なことで気を揉みたくないです。あなたたちがいてくれれば、それもマシになります!何より昨日でちゃんと良い人たちだと分かってます!それと、メリル…」


 シャーロットは風魔法で浮き上がり、メリルにそっと耳打ちする。


「みんなと離れ離れにならずにいられますよ?」


「………それで落ちると思われてるのは恥ずかしいな♡」


 これでロビー、スウェン、メリルは気持ちがこちらに傾いた。



「全くお前ら…」


「さすがに……甘えすぎだ……そこまでする義理も……無いだろう……」


 3人はちょろい。それに反して、手強く立ちはだかるのはデイビッドとティオだ。

 デイビッドは懐に入れた人に対して守ろうという気持ちが強い。仲間思いだ。シャーロットを既に友人として認識しているからこそ、シャーロットにとって負担となるようなこと、つまりは5人と冒険者になることだ、から遠ざけようとする。

 ティオには妹がいると聞いた。シャーロットのこともそのように見ているのだろう。いくら強いからと言って見た目は儚い少女だ、悪意に晒されるのも負担を被るのも見ていられない、迷惑をかけたくないという気持ちが強いのだろう。


 どうにかして切り崩したいものの思いつかない。

 シャーロットはさらに言葉を重ね、引っかかったところを狙う方針に変えた。


「確かに見捨てられないという気持ちもありますが、それよりもかなり自分勝手な理由であなたたちを利用しようとしているんです。あなたたちも私のことを利用すればいいんですよ!」


「……自分勝手な理由?」



 デイビッドが怪訝そうに尋ねた。

 ──自分勝手な理由。ゼドへのシャーロットの思いだ。


 自分からひけらかすのもあれかと思い、言っていなかったゼドについてシャーロットは話す。


「……私、実は勇者ゼドの幼なじみなんです」


 びっくりしたようにデイビッドとティオは目を見開いた。

 魔王の脅威に怯えるガテルミシア王国において、勇者とは何にも変え難い『救い』そのものだ。


「私が名を残したいのは、ゼドの名前の隣に自分がいたいから。十分すぎるほど自分勝手な理由です。それで……ゼドの隣にいるのに、魔王だの人類の敵だの書かれたくないので、出来るだけ親切な人でいたくて…」


 さすがに、ゼドのような人を救う人間になりたいというのは恥ずかしすぎて言えなかった。

 ゼドのことを5人に伝えていなかったのは、勇者の幼なじみとして名を残したい訳ではないからだ。ゼドとの関係性を使わずに、自分の力だけで胸を張って隣にいたい。


「えぇ〜っ、もしかして、勇者の恋人だったりするのか?♡」


「好きな人のために頑張りたいんだな!いいなそれー!」


 メリルとロビーがわやわやと言ってくるのを、シャーロットは赤くなった顔で頬を押さえる。


「恋人……ではないです、ゼドは勇者だし、きっとお姫様とかと結婚するだろうし、でも勝手に私が隣にいたいんです、本当にそれだけで……」


「純愛だな…♡」


「そういうことは早く言えよな!シャーロットが名を残すのに何をすればいいのかオレには分かんねえけど!手伝うぜ!」



 メリルとロビーが盛り上がる中、そわそわしていたデイビッドが、咳払いをして注意を向けさせた。

 緑色の瞳が気まずそうに下を向いている。


「あー、何だ、俺は君の負担にはなりたくねえけど、それが恋を成就させるためだってんなら……まあ、いいぜ、パーティメンバーになろう」


 デイビッドは人一倍恋バナが好きなんだぜとロビーが言うのを聞いて、シャーロットは赤くなった顔のまま予想外の収穫に微笑んだ。まさかここで引っかかるとは思いもよらなかった。昨日の時点で伝えていれば良かっただろうか。いやでも恥ずかしい。



「残りは……俺だけか……」


 シャーロットをティオを見つめる、デイビッドが仲間になってくれたのは嬉しい誤算だったが、ティオは口を一文字に結んだままだ。


「ティオ、お願いです。私の仲間になってください。私は仲間にするならあなたたち全員がいい!」


 もう理由は言い尽くしてしまった。懐柔案も思いつかない。

 それでも諦めるつもりなどない。手を伸ばせる範囲にいるなら全員に手を伸ばす。

 シャーロットは強欲だ。強欲であろうと決めた。手の届かない望みを追いながらも、小さな星々に手を伸ばすことも忘れない。何もかもを手に入れてシャーロットは望みを叶えたいのだ。


 はあ、とため息をついて、負けたとでも言うようにティオは肩を竦めた。


「まあ……そうだな……君といれば酒がたらふく飲めるだろうな……パーティメンバーに……入れてくれ……」


 お酒が飲める──それが理由でないことぐらい分かる、譲歩してくれたのだ。



 シャーロットは思わず満面の笑みを浮かべる。眩い光を宿して、灰青色の瞳が輝く。


「やったなー!」


 ロビーが手を伸ばしてきたのでハイタッチをした。


 まるで主人公みたいだとシャーロットは思った。


 もう隣にゼドはいない。

 それでも隣を歩いてくれる人達が出来たのだ。自分が手を伸ばさなければ、もう歩む道は交わらなかったであろう人達。

 それがあまりにも嬉しくてたまらない。



 先程までの暗い雰囲気はもうどこにもない。

 いつ捕まるかという真っ暗な未来を想像しなくていい。シャーロットの仲間として歩む未来を掴めたのだ。ロビー、スウェン、メリル、デイビッド、ティオは目を見合せて笑う。



「これからよろしく、シャーロットちゃん♡」


 ようやく名前を呼んでくれた、とシャーロットは目を大きく見開いた。いたずらが成功した子供のようにメリルは笑う。


「……シャーロット………よろしくな」


 盗賊と一般人だからと、名前を教えても、何も考えていないロビー以外は呼んではくれなかった。ティオは少しバツが悪そうに頬を掻きながら、シャーロットの名前を呼んだ。


「よろしくな、シャーロット」


 デイビッドは恋バナを聞きたそうにうずうずとしているのが伝わってくる。それが少し恥ずかしくて、シャーロットはにへらと笑った。


「シャーロットの夢が叶うところまで、一緒に行こうな!」


 能天気にロビーは笑う。その笑顔が今は太陽のように眩しい。


「……(うんうん)」


 スウェンは端麗な顔に笑顔を浮かべて頷いている。喋らなくても何を思っているか分かるのがとても嬉しくて。



 思わず出てきてしまった涙を指の腹で拭い、シャーロットも笑顔を向ける。


 私が選んだ仲間。

 手を伸ばさなければ手に入らなかった仲間。

 自らの化け物のような力を見せてしまったのに、それでも仲良くなれたのだ。

 それがあまりにも、嬉しい!


「これからよろしくお願いしますね!」





 ───シャーロットと、その仲間たちの出会い。

 この先何年も、何十年も、冒険者を辞めたその更に先の未来まで続く縁になるとは。

 まだ、誰も知らない。

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