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2. 旅立ちと盗賊たち

「…本気なのね?」


「うん」


 勇者旅立ちから1ヶ月後。

 シッツォ村から、また一人旅立とうとしていた。オレンジがかった茶髪に灰青色の少女の名は、シャーロット・アトラー。

 今はまだ、村の人しか知らない名前。


「ゼド君がいなくなっても…ほら、少し歳が離れるとはいえ男の人は他にもいるでしょう?わざわざ外に出なくても…」


 シャーロットは微笑する。結婚相手がいなくなったから探しに行くと母に思われているのだ。──それは違う。けれど説明したところで分かってはもらえないだろう。母はこの村から出たことは無い、良くも悪くも普通の人だ。

 その勘違いをあえて否定しようとはせず、シャーロットは目を伏せた。


「…私は、ゼドがいなくなったからじゃあ他の人で、って思えないよ」


「……そうはいっても、ねえ……?」


 たしかに、シャーロットと、勇者となったゼドは歳が1番近くて、いつも共に居た。

 村の命の循環に組み込まれている。大人になったら歳の近い人と結婚して子供を産んで……そしてここで死ぬ。村の外に行った冒険者たちに憧れ、外へ行こうかと語る者もいるとはいえ、まだまだこの運命を受け入れる方が圧倒的に多い。

 シャーロットもそういうものだと理解していた。それがこの村での事実であり、不満は無かった。


 けれどゼドは勇者となった。

 もう帰ってこないかもしれない。帰ってこれたとしてもその時にはもう子供を産めないかもしれない。

 とはいえ他の人に今更変えることなどできない。


 ──確かに、確かにそれも理由の一つではある。

 けれど、それよりももっと、もっと身を焦がすような望みを願ってしまったのだ。

 そうであったらどれほど素敵だろう、と思うような、それでいてあまりに手の届かない望みを。



「行ってきます」


「シャーロット…………気をつけてね」


「うん。落ち着いたらまた顔見せに来るよ」


 勇者の幼馴染───シャーロットは、そう言って村を出ていった。


 ♢


「ふぅ……」


 もう既に村が見えなくなり、最北の山々もはるか後ろになってきた。道は整備されているはずもなく、草原の中を草をなぎ倒しながら進む。

 てくてく、とシャーロットは歩き続けている。


 ちゃんと野宿の準備は持ってきた。ここに出る魔物はスライムぐらい。何も心配することはない。



 日が落ちかけている。夕焼け空で、雲は真っ赤に染まっている。暗くなる前に野営の準備をしよう、といそいそとシャーロットはテントを広げ始める。


 1人だけで村の外に行くのは初めてだ。わくわくしながら手際よくテントを組み立てていると、ふと人の気配を感じて振り返った。


「街の外に一人か?危ないぞ」


 あたりは真っ赤でよく顔が見えない。5人組の男性だった。


「こんばんは。…あなたたちはどちら様?」


 首を傾げたシャーロットの問いには答えない。下卑た笑みを浮かべているのが見えた。ぱちぱちと瞬きをして、テントを組み立てる手を止め、立ち上がった。


「幼い少女がこんなところに1人なのは危ないぞ。このあたりは魔物と……盗賊の、目撃情報があるからなあ!」


 下卑た笑みを浮かべた五人組の男に、シャーロットはいつの間にか囲まれていた。



 ──泣き叫ぶのでも想像していたのだろうか。

 なおぼんやりとした表情のシャーロットに、男たちは眉を顰める。


「……さすがに俺たちが何なのかは分かるよな?」


「……盗賊?」


「…分かってんじゃねえか。金を全部置いていけ」


 シャーロットの態度に微かな違和感を持ちつつも、盗賊たちは強行的に話を進めることにしたらしい。シャーロットはうーん、とうなる。


「お金なんてないですよ。私がいた村は、物々交換やってるんです。私は持ってこなかったから…銅貨ぐらいはあるかもしれませんが」


 焦りや不安の欠片も見られないシャーロットに、一番体格の大きな男が大きく舌打ちをして、強引に腕を掴んだ。田舎者はのほほんとしてるから真っ先に死ぬんだぞ、と、何かの引用だろうか、そう言って嘲笑う。流石に褒め言葉では無いことくらいは分かる。


「金がねえなら奴隷になってもらうぞ。抵抗したら殺すからな!」


 シャーロットは、眉を顰めて掴まれた腕を見る。


「離してください」


「あまり抵抗するなよ………面倒だ」


 別の盗賊が喋る。それとはまた別の盗賊の1人がシャーロットのリュックを漁り、本当に金の1つもねえよと毒づいた。

 少し苛立たしげにシャーロットは掴んでいる盗賊のことを見つめた。


「……離してください。私、さすがに殺人はしたくないなって思うので…」


「はぁ?何言ってんだ」



 ──シャーロットは勇者の幼馴染である。



 勇者ゼドにいつも、それこそ物心ついた時からシャーロットは助けられていた。他の人が投げ出す中、呆れる中、ずっと、ずっと。

 シャーロットを助け続けるゼドを、いつからか村の人たちは優しいと形容するようになった。


 助けられてきた。しかし、それは、弱い者を守るという意味ではなくて───


「忠告はしました。………吹き飛べ」


 ───化け物じみているその力を使ってしまい、大惨事を引き起こした時に庇ってくれる、という意味である。




 風を引き裂く音が響きわたり、シャーロットの腕を掴んでいた男性は吹き飛ぶ。べしゃりと木にあたって落ちた。意識を失っている。


「お、おい……!よくもデイビッドを───!」


「ねえ」


 仲間が吹き飛ばされたことへの呆然、恐怖、怒りを持った、吹き飛ばされた以外の4人はシャーロットの一言で動けなくなる。


 蛇に睨まれた蛙どころではない。圧倒的な力を持った、1秒とかからずこの地を更地に出来るような、恐ろしいほどの化け物に睨まれ動ける生物など存在しない。

 どうして気づかなかったのだろう、と盗賊の1人は思う。魔王が現れてからどこでも見かけるようになったはずなのに、今日は妙に魔物が少なかった。


 少女の靴は草で緑に染っている。服も流行を完全に無視した一昔前の物だ。

 ソリスタリアから少し外へと散歩に出かけた、にしては違和感がある。城壁の向こう側へと散歩に出かけたとしても、ここへはあまりに遠すぎるし、なぎ倒された草はここよりも遠くへと繋がっていて、それはまるで、草原の先から歩いてきたような──。


 『春の草原』の中に小さな村はある。何の産業もなく、発展もしていない、ほとんど忘れられた村らしい。

 まさか、そこから来たとでも言うのだろうか?


 ──その村から街までは、馬車を使っても3日はかかるはずだ。馬車などもちろん通っているわけもなく、ならば──徒歩、で?魔物がいる中を?

 それに、数十日使ったとは思えない、汚れのないテント。まるで今日使い始めとでも言うような。



 『春の草原』には人が全然いないため、草原の中へ中へと入っていくほど魔物が山ほどいる。それも、下級のスライムなんてレベルでは無い、強大な魔物たちだ。


 それなのに、少女はこの草原を一日で踏破できる実力があるとでもいうのか。そうだとすれば──そんなのは人ではない。とんでもない化け物だ。常識の範疇外。

 違和感を持った時点で、しっぽを巻いて全力で逃げるべきだったのではないか。




「私の名前はシャーロット・アトラー、シッツォ村出身です。私の目的はたった一つ。──名を後世まで刻むこと。そのためだったら何でもします」


 にこりと笑ったシャーロットに、盗賊たちは冷や汗が止まらない。意識を失っていた方がマシだ。

 ──やはり、草原の中から来たらしい。化け物で確定してしまった。


「ッ……手始めに盗賊の退治でもしようってか…!」


 逃げようにも逃げられない。爛々と輝く灰青色の瞳。真っ赤な空に佇む少女の姿は、この世の終焉ってこんな風景なんだなあと思わせた。


「……まさか。今の目標は、とりあえず本を出すことです。私たち人間はいつか死んで何も無くなって、私の力だっていつか消え失せますが、本にしたら永遠に残るかもしれないじゃないですか?」


 本の才能がないなら美術を。美術の才能がないなら音楽を。音楽の才能がないなら織物を。


「なんだっていいんです。私の名前を残らせてくれる何かを探しているんです」


 とりあえずは小説家を目指すつもりです、と笑う。



 突然の話に、盗賊たちには意味が分からなかった。


 名を残したい?意味が分からない。突然何を言われたのか。その方法も突飛だ。理解できない。


 本など書かなくても国をひとつ滅ぼせばそれで名は残る。魔王を倒しに行ったっていい。それが出来るような化け物が、どうして、わざわざそんなことを。


「最初に小説家を選んだのは私が本が好きだからです」


 そんな盗賊たちの心の内を知ってか知らずかシャーロットはそう付け足した。


「ノンフィクション書いてみたいなって思っていて、それでね、こうも思うんですが──盗賊に会うなんて、まるで主人公みたいでしょう?」


 この少女はどこかズレている。化け物のような力を持ちながら夢見がちだ。これだけの力を持ちながら、普通の少女のように振る舞うのは異質だ。


「だから、いつか、このことを私は本に書きたいんです。ああでも、私、あなたたちのことを殺すつもりは全然ないですよ」


 そう聞いても何一つ安心できなかった。


「人1人には歩んできた人生があるでしょう、私はそれを全部知りたい。ただの役割として、盗賊に出会って返り討ちにしただけじゃ勿体ない!知りたいんです!どうしてこんなことをしているのか?今まではどのように生きてきたのか?家族は?友達は?あなたたちはどういう関係?愛する人はいる?好きな食べ物は?何が好き?何が怖い?死ぬことより怖いのは何?盗賊の果てに死んでも良いと思ったことはある?本当は何がしたい?盗賊を選んだのは自分の意思?それとも外的要因?ねえ、教えてください、私は知りたいんです、何もかもを!」


 思わずといった感じで1歩シャーロットが踏み出した瞬間、地面が放射状に割れた。揺れた。この世の終わりかと錯覚した。

 ああ、ちょっと興奮してしまいましたね、ごめんなさい、と照れたようにシャーロットは近くにあった石に腰掛ける。


「あなたたちも座ってください。聞かせてほしいです。あなたたちのことを全て。まずは…あなたたちは何で盗賊になったんですか?」



 圧倒的強者の瞳が、爛々と輝きながら、自分たちを見つめているのを見て、体が反射的にお座りをしてしまった盗賊四人。木の下で完全に意識を失っている一人を羨ましく思った。


 色々とズレていて、面倒くさそうな、そして自分たちを簡単に殺せるであろう少女を目の前にして、盗賊たちは顔を引き攣らせた。


 ♢


「俺らは……冒険者くずれの盗賊だ…」


 ひょろっとした体つきに、長髪を1つに結んでいる、20歳くらいの盗賊の1人がぼそぼそと話し始めた。


「いや話すのかよ!」


「話さなきゃダメだろ!そう、この今ジメジメしたやつが言ったみたいに、俺らはかつて冒険者だった。この話は長くなるから、その前に──」


 ──まず、確かめておきたいんだけど、とちらりと青髪の盗賊が木の下でぐったりとしている大男の方を心配そうに見た。


「デイビッド……死んでないよな?」


「なあ……デイビッドは……大丈夫なのか………?」


「て、手加減はしました。すっごく。家の中のホコリを払う時と同じくらいに抑えました。ただ、ちょっと、痛かったから怒ってて……その……ごめんなさい、回復魔法かけます」


「回復魔法!?使えるのか!?」


「回復魔法があれば、やらかしても即かけることで殺さずにすむので…いつもは吹き飛ばしちゃったらすぐかけてるんですよ!今は制圧のためにかけなかったですけど!」


 ごめんなさい、としょんぼりとしたシャーロットは、かなり遠くでぐったりとしている大男のところへ急ぎめに移動し、回復魔法をかけた。

 ちょっと引いちゃうほど骨が折れて血が出ていたけれど、意識を失っているので起きた時には覚えていないはず。

 シャーロットが言わなければ他の盗賊たちもどれくらいの骨が折れていたか分からない。よし、大丈夫、とシャーロットは頷いて戻ってきた。

 大丈夫です、とシャーロットが言うとほっとしたように盗賊たちは顔を見合せた。


 シャーロットはついでにリュックからメモとペンを取り出す。

 実はこの2つがシャーロットの持っている物では1番高かったのだが、盗賊たちは気づかなかったらしい。それはよかった。大切な宝物なので、もっと怒っていたかもしれないからだ。


 メモはページが増え続けるものの厚さは変わらず、書いたものを即座に見ることが出来るとても高性能な魔道具だ。一番最初に目次という場所があり、そこからどのメモを見るか選ぶことが出来る。劣化もしないため、永久的に書くことができる。ダンジョン産でとてつもない高級品だが、父が手に入れ誕生日プレゼントとしてくれたものなので、シャーロットはその価値に気づいてはいない。

 ペンはずっとインクが切れない魔道具。インクが切れないことだけに特化してあり、その他の補助魔法はかかっていないため、魔道具にしてはお安めだ。巷には書き続けても疲れない、といったものがあるらしいが──シャーロットには不要。そんなものがなくても半永久的に、シャーロットは自分の体力だけで書き続けていられるからだ。


「書くのが……早いな……」


「さっきのも含めて全部の会話文残してんだな、紙無くなっちゃわないか?えっ魔道具?めちゃくちゃ高級品じゃん…いや違ぇ!もう取らねえよ!そんな命知らずなことしねえから!」


「うわ、俺こんなこと言ってたのか…というか、俺らの言葉遣い似すぎて誰が誰だか分かりにくいな」


 シャーロットに慣れてきたのか、それとも殺されるとなったらどうしようもないという諦めか。

 盗賊たちはわらわらとシャーロットの手元を覗き込むように集まってきた。

 どちらも誕生日プレゼントなんです、とシャーロットは嬉しそうだ。


「ジメジメしてるティオと、一言も喋らないスヴェン以外の、俺とデイビッドとロビーは口調同じだからな」


 たしかに、とシャーロットはメモを見返して頷いた。今は覚えているが、後で見返した時に分からなくなりそうだ。


「よし!メリルお前語尾に♡つけて話せ」


「何言ってんだ!?♡」


「メリル……いいのかそれで……」


「それいいですね!本にも使わせてください」


「使うな♡」


「ノリノリじゃねえか」


 メリルは語尾に♡を付け始めた青年。青髪に金色の目で、なよっとした体つきだ。ノリがいい。

 ロビーはメリルに♡を付けさせた青年。赤髪に青色の目。シャーロットに対しての警戒心はもうほとんどないらしい、メモを見てすげーっと笑っている。

 デイビッドはぶっ飛ばされ伸びている(治したのでもう大丈夫)青年。1番体が大きい。熊みたいだ。

 ティオはメリルが言うには『ジメジメしている』。ひょろっとして長髪を1つに結んでいる青年だ。ぼそぼそとした喋り方をしている。

 スウェンはここまで喋ってない。たしか最初の脅しの時も何も喋っていない。


 なんて愉快な盗賊たちなのだろうか、と感激したようにシャーロットの目は輝いた。メリルはそれを見て思わず後ずさった。


 肝が据わっているのか、それとも単細胞なのか、ロビーはそのペン使ってみてもいいか!?と聞いてきた。メリルはぶんぶんと頭を横に振りながらロビーを引き離そうとし、力では敵わないと思ったのかシャーロットにこいつはすっごく馬鹿なんだごめんなさい殺さないでくれ♡と言う。

 かなり面白いなとシャーロットは思った。


 ペンは少しだけ貸した。ロビーはすげーっと笑った。多分何も考えていないんだろう。



「ペン貸してくれてありがとな!よし、話を元に戻すぞ!俺らは元々冒険者として真っ当に稼いでたんだが、めちゃくちゃ強い魔物が現れて、俺らでも倒せる魔物がいなくなっちまった。それで稼げなくなって、家賃が払えず追い出され、他の街に行くにも金が無いしどこも同じだって言うし、生き延びるために──魔物より弱い人間相手に盗賊を始めた」


「まだ……3人の商人から金を奪っていない……殺してはいないし、そんな度胸もなかった……奴隷の話は……持ちかけられたんだ……このままでは金が尽きて死んでしまうと思って……やるしかない、と………」


「そうだ…♡まさかお嬢ちゃんがこんなに強いとは思わなかったけどな♡デイビッドがうちでは1番強いんだけどな…♡」


「きっしょ」


「お前がこうさせたんだろうが♡」


 メリルがロビーの頬をぐいっとつねった。いてえ!とロビーもやり返している。


「『春の草原』に来たのは……人が少なくて目撃されにくいからだ……そうでなければ……こんな魔物に近い恐ろしいところなど……来なかった……」


「草原内を進みすぎると魔物がいるから、境界のあたりで夜は身を潜めて、人が出てくる朝や昼ごろに城壁近くまで行く感じだ♡強い魔物が王都方面の道に陣取ってるせいで、こっちの門から出る商人が多い♡護衛をけちって他の商人のおこぼれに預かろうって後ろを着いていくやつらが狙い目だったぜ♡」


 『春の草原』には何も強い魔物はいないのに?とシャーロットは不思議に思いつつ、疑問に思ったことを聞いてみた。


「めちゃくちゃ強い魔物ってどんなのですか?」


「ドラゴンだ……俺らはこの先の街にいたが……そこから首都方面への道に……ドラゴンが現れたんだ……だがどこも同じような悩みだらけで……強い冒険者が派遣されることはなかったな……」


「スライムとかは軒並み逃げちまってな♡もう残っているのは強い魔物ぐらいで♡こっち側の草原はあまり影響受けてねえけど元々いる魔物は強いしな♡もう無一文になっちまったし、故郷も捨ててきたから、盗賊になるのに抵抗はなかったな♡」


 ドラゴンが出たんですね!お肉美味しいですよね、とシャーロットが言うのを聞いて、メリル、ティオ、スウェンは顔をひきつらせた。

 ロビーはへ〜どんな味なんだ?と聞いている。シャーロットは柔らかくて肉汁たっぷりなドラゴンの肉の味と答えた。参考にはならなそうだ。

 それにしてもドラゴンの肉を食べたことがないなんて珍しいのでは、とシャーロットは思った。


「それにしても見ろよこれ、メモ上のメリルがやばいことになってきたぞ!」


「んー…♡ほんとだな♡俺もやばいなって思ってる…♡なんだか楽しくなってきちまった…♡」


「わざとだろその言い方」


「……シンプルに……キモイ」


「そんなこと言うなよぉ♡」


 少しまだシャーロットに対しての恐れは抜けないが、落ち着いてきたのだろう、たくさん喋ってくれるようになった。

 それに伴って目の前の盗賊たちの愉快さがどんどん上がっていく。特に語尾に♡をつけているメリルが、悪ノリが加速してかなりやばさが増してきた。


「気もほぐれたところで、面白いエピソードあったら聞きたいです。些細なことでも嬉しいです」


「面白いエピソードかー、うーん、強いて言うならあそこで伸びてるデイビッドはこの中で一番純粋だな。赤ちゃんはコウノトリが運んでくると思ってる」


「奴隷だってめっちゃ働く人のイメージだからな♡」


「……スウェンは……めっちゃモテる。何も喋らず……筆談もしないやつなんだが………」


「それが不思議なんだよな。街に住んでた時はいつも違う女の子と歩いててな」


「多少は何思ってるか分かるけど、それにしてもだよな♡」


 スウェンの方をシャーロットが見ると照れたように笑った。単純に顔では?とシャーロットは思った。ゼドといい勝負だ。


「ロビーはバカなやつだな♡俺の語尾に♡つけさせたのもそうだが、痺れ草の汁をつけたナイフを見せびらかしてペロッとしてバターン!とか♡黒歴史だな♡ロビーに毒や痺れ草を近づけるなよ♡すげーって言って自分で試すからな♡」


「会計も任せるなよ……おつりはやるぜオレはクールに去る……とか言って……全然足りなかったから……後で請求が俺たちに来たんだぞ……」


「オレそんなバカじゃないからな!それにメリル、お前こそ今黒歴史更新中だぞ!!」


「メリルは……バレンタインの時にわざわざチョコを買い……可愛らしい手紙をつけ……バカにするためにロビーの部屋の前に………置いていたな………喜んでるのを……わざわざ高い金払って写真にとって……げらげら見せてきた……」


「ちょっと待てあれお前だったのか!?」


「気づいてなかったのか…♡どうりで落ち込むか怒るかするかと思ったのに撮れなかったわけだ♡俺、手紙の最後に『残念嘘でした〜〜バカ〜〜』って書いただろ♡」


「照れ隠しかと思うだろ普通!くそぉぉぉ、俺の生涯たった1個のチョコがぁぁ!!こんな語尾に♡つけてるヤツに!!」


「うはは♡最高だな今の表情♡カメラ屋がいないのが残念だな♡」


 メリルとロビーがまた耳を引っ張りあって喧嘩しはじめたので、やれやれとティオは肩をすくめる。スウェンは飽きたのか、焚き火を始めていた。


 シャーロットが村から持ってきた肉があると渡すと、目を輝かせて焼き始めた。

 ドラゴン肉の話でお腹がすいたのだろうか。持ってきて良かった、いざ実食しようとシャーロットは思った。渡された肉が何のものかを言っていたら倒れていただろう。


「最高です面白いです!いつか本に書きます!ご飯食べながらでいいのでもっと話してください!聞かせてください!聞きたいです!」


 シャーロットは歓喜し、目を輝かせて満面の笑みを浮かべている。


「盗賊相手にこんなこと聞くお嬢ちゃんも、大分ヤバいぞ…♡」


「ああ相当やばい」


「……せめて普通……逆な気がするが……」


「逆もないだろ♡」


 わいわいがやがやと愉快な盗賊たちとシャーロットは盛り上がる。まだ夜は始まったばかりだ。

 随分とこの肉美味いけど高級じゃないのか?と聞いたところ、父が狩ってきたやつなので大丈夫ですよ〜とシャーロットは答えた。それはそれで何を食べているのか心配になる。当ててみてください!とシャーロットは笑った。


 ふと、身動ぎの音が聞こえた。

 シャーロットが振り返って見ると、倒れていたデイビッドが起き上がっていた。

名を残したいという願望が基盤としてあるうえで、何もかも知りたい欲や本を書きたい欲がシャーロットにはあり、奇跡的に色々とマッチしている状態です。

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