2. 森に捨てられた令嬢
「何してるのよ、本当に!!」
そう声をあげて花瓶を振り払うお義母様。
花瓶が悲鳴をあげるように音を出し、倒れ、粉々に割れる。
床がいつの間にか水に侵食され、大きなシミのようなものができる。
もちろん床は木材なので、たぶん腐るだろう。
放っておけずに、床を雑巾で拭きたい衝動に駆られる。
散った欠片に近親感が湧く。
思考回路がもはや正常ではない私のことは置いといて。
あ、ついでになぜこんなに情報が早いと言うと、会場まで連れて行った使用人が情報網だからだ。
「侯爵様と婚約破棄をされるなんてあなた一体どんなことをしたのよ!!」
そんなこと言われても。
私の方こそ訊きたい。
私は100悪くないはずなので相手が悪い。
何か粗相をしでかしたつもりもなければ、問題も、浮気だってしてない。
「明日にはほぼすべての貴族に伝わっているぞ...!!」
そういって頭を抱えるお義父様。
娘の心配もしないのはお義父様の悪い癖ですよ。
期待もしてないですけど。
「どうすればいいのだ...!!」
まあ、お父様が青白い顔もしているのもそのはず。
この家は正直にはっきり言って、〝お金がまったくない〟。
なぜ?お義父様がただ当主に向いていなかった。それだけだ。
他の貴族にも何人かそのような者たちはもちろんいる。
では、なぜうちだけこんなに深刻なのか。
こちらも簡単。
お義母様の浪費癖が酷すぎる。
詳しく言うとものすごく長い量になるので省略するが、とにかく恐ろしい。
例えば、ドレス、宝石、食べ物からデザートまで。ここまでは他の女性方も納得できるかも知れないが、さらに家の塗装、床の色、もちろん壁の色。形、サイズまで。しつこいほど文句をつけてくる。
つまり〝どうしようもないこと〟に文句をつけてくる。窓、皿、机のデザイン、大きさ、素材などなど。
屋敷、庭などは昔に建てられたものだと聞いている。
この家にすべてのものを買い替えれる余裕などないし、今から家を建て直すなんて夢のまた夢だ。
...ついお義母様の浪費癖について話しすぎてしまった。
なんで私がそんなことを気にする必要があるのかって?
もちろん、この家の構造、収入どころか、領地は私がすべて管理している。
毎日の睡眠時間はお義母様が今日使ったお金の金額によると言って良い。
それでも私には家族愛というものが少なからずある。
領地で採れた野菜の料理が生臭いとか、水の味が薄いだとか、些細なことはできるだけ直すように心がけている。
そんな中、一度、壁紙が気に入らないとお義母様が食事中トマトソースを壁にぶつけてきたので、貼るタイプの壁紙を貼っておいたことがある。
これがまた厄介で、粘着力が絶望的で剥がれるわ、剥がれる。
そのくせして、ペラペラと風に揺れる紙の裏側にはどこから飛んできたのか、ほこりや塵、色のついた謎の汚れ。
挙句の果てにはお義母様の大嫌いな虫まで貼りつく始末。
いつ片付けようか悩んでいたとき、丁度その日の夕食にそれを見つけたお義母様は叫び、2日間ほど家に帰って来ることはなかった。
他のところに泊まるのはやめてほしい。外食はお金がかかるから。
そのおかげか、それからお義母様が壁に食事を投げることはなくなったので良かったのだけど。
本当は水もやめほしいんだけどな。
本気で気に入らないのか、使用人たちにかまって...困らせたいのかさっぱり分からないお義母様。
はてさて、お義母様はどのように育てられたのか。
人の経歴を知る趣味はないのでここまでにしておく。
ついでにお義父様は毎日、どこかへ出かけているので、お義母様は寂しがり屋ということにしておこう。
まあ、お義父様がいつも出かけている用事は、どうせ金を稼いでくるという名のギャンブルだろう。
領地の経営は私の仕事では、まったくないのですけどね。
隠すことでもないので話すが、私は転生者というやつだ。
憑依ではなく転生。この世界に生まれたときから伯爵令嬢、ラリア・レシャロットだ。
口の悪さは前世付き。
自慢はしていない。
話を戻して簡潔にすると、どの貴族の派閥にも入りたくない侯爵家がこの貧乏伯爵家にお金をくれるので、婚約を結ぼう、ということだ。
もちろん義両親は大歓迎。
私を売る勢いで、あちらに連絡を送った。
普段の生活もあれほどしっかりしていればいいのに。
「仕方ない......。」
そう言って何かを決意したお義父様。
あのお義父様が自分の頭で考えられる日が来るなんて、世には珍しいこともあるものだ。
「はぁ。何か役に立つと思っていたけど、本当に何も役に立たないわね。」
そう言ってため息をつく義母。
一応、自分なりに頑張っていたつもりだったんのだけど、人の愛など伝わらないものだ。
「さっき、この人と相談したの。あんたなんていらないわ。」
「...あぁ、お前は今日からただの〝ラリア〟だ。」
ということは。
「今まで育ててやったんだから、感謝してよね。まあ、最後の温情として、行き先はあなたもよく知っている領地の奥よ。」
領地の奥。
それは考える間もなく、一面に広がる緑。
そう、森だ。
夜になると木がざわつきだし、魔物のようなものが目を覚ます。
そんな森がうちの屋敷の丁度後ろにある。
正式に言うと、もう少し、いやかなり奥だが。
そこに私を捨てようとしているのだ、この人たちは。
ついでに今の時間帯は、夜。
パーティーは夜だからね。
うん。
「荷物なんていらないでしょう?あなたのものなんて一つもないんだから。」
そして、準備なんてずっと前からしてたように私は家から追い出された。




