表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

第2話 半壊鍛冶場はギルドホーム

『ギルド』とは――。


 以前、この世界の人々はモンスターが発生、生息する地下に潜り、モンスターを狩って、『地下大迷宮(ダンジョン)』を封印する大樹『ユグドラシル』を守って来た。


 しかし、生涯を賭けて無限のように湧き出るモンスターを狩るには、時間がどれほどあっても足りない。


 と感じた時、人に伝承して伝えて、それを広める。

 事を考えだした結果、指導してそれを束ねる組織『ギルド』を考え抜き、それの設立に至った。


 世界の中心、『地下大迷宮(ダンジョン)』であり、この世界の人々の中心が『ギルド』である。



 この『ギルド』は様々な種類がある。


 今で言う『冒険者(ハンター)』を雇い、『地下大迷宮(ダンジョン)』の攻略。

 『希少魔獣(レアモンスター)』から得る一攫千金を狙う『ギルド』――。


 そして、そんな『ギルド』の潤滑油として存在するのが、商業系や生産系の『ギルド』である。



 また、『ギルド』に加入した『冒険者(ハンター)』には、『ステータス』が宿る。

 そこに『アビリティ』が追加されて行く、とされている。


 『冒険者(ハンター)』たちはクラスアップはもちろんだが、

 『ステータス』アップや、ギルド本部に登録されていない『レアアビリティ』の獲得に勤しんでいる訳だ。


 『冒険者(ハンター)』が『ギルド』に加入して、その『ギルド』の拠点となるのが――。

 『ギルド隠れ家(ギルドホーム)』である。


 言ってみると、『冒険者(ハンター)』たちの第二の家となるのだ。



 そして今、この世界の時代は動き始めていた。


 様々な『ギルド』が群れとなり、凌ぎを削り合う。

 より有能で、才能に溢れた『冒険者(ハンター)』の取り合い。

 利益の取り合い。

 情報の取り合い。


 そんな混沌とした時代へと移ろうとしていた――。



 俺はこうして『地下大迷宮(ダンジョン)』の7階層から戻り、

 ギルド本部での買い取りを終わらせて、絶賛、構成員1名の『ギルドホーム』――俺の鍛冶場に帰るところだ。


『大迷宮都市ユグドラシル』の中心部であるギルド本部から続く、

様々な種族で溢れるメイン通りを()うように進む。



 ヒューマンはもちろん、獣人、エルフ、ドワーフ……。


 住民のような見てくれの格好をした人たちもいれば、

 堅固で物騒な装備に身を纏った人たちもいる。


 もともと日本生まれ日本育ちの俺にとって、

 この通りを歩くたびに「やっぱり異世界なんだ」と思い知らされる光景だ。


 渋谷や新宿の雑踏とはえらく違い、新鮮で色鮮やかで――。

 この人混みだけ見ても、幾らでも見続けられるほど飽きが来ない。


 この鬱陶(うっとう)しさが、気付けば俺の心を浮き立たせてくれるようになっていた。



 途中、すれ違う淡麗な顔立ちのエルフ族に目を奪われる。


 喧騒とした人混みに負けじと、異なる表情を持つ街並み。

 日本では決して見られない酒場の数々。


 こんなにも酒に酔いしれて、その酔いが他人も(いざな)い、

 それが群れとなって騒ぎ立てる――。


 こんな光景、日本で見られるだろうか。


 人集りから今にも喚き声が聞こえてきそうな、

 本当の『楽しみ』を身体全身で体現している。


 ――俺にこんな真似が出来るか。



 そんな小気味好(こきみよ)いメイン通りを進み、12地区に踏み込むと――。

 俺の『ギルドホーム』が見えてくる。


 ここ12地区を跨げば、街の表情はまた変わる。

 地区によってその街の特色は様々で、住人の雰囲気も違えば、種族の割合も違う。


 だから、この街に飽きることは無い。



 日本の空気と、この世界の空気は違う。

 匂いや色も違う。


 たまに鼻を刺すのは血の匂い。

 きっと『冒険者(ハンター)』が持ち帰ったモンスターの返り血の臭いだ。


 それと単純な鉄の匂い。

 そして、様々な果実にも似た、どこか心地良い酒の匂い。


 ここに流れ着いた当初の俺とは違い、

 今はどこか、この生活を楽しんでいる自分がいる。



 夕暮れの陽に照らされ、街は幻想的な風景に変わる。

 ……悪く言えば、廃墟に近いが。


 半壊した鍛冶場。

 所々崩れかけた外壁から石材と木材が剥がれ出す。


 数週間前までは、ここで俺は刀を打っていた。

 だが、鉄を焦がす匂いや鎚の音は、もうしない。


 その代わりに――。

 俺の鍛冶場は『ギルドホーム』に成り変わったのだ。



 敷地からはみ出した瓦礫を脚で退かし、

 損壊した木戸を無理矢理補修して作った『ギルドホーム』の玄関。


 またの名を――扉の無い玄関。


 修繕は不可能に近かった。

 そんな痛々しい傷跡が残る俺の鍛冶場。


 今となっては『ギルドホーム』となった建造物の前に立ち、

 俺は扉の無い玄関を膝を曲げて潜るようにして入る。


「よっ……と、帰ったぞおー!」



 小恥ずかしく、周囲の目を気にしながら中に入った。


 特に理由はない。

 ただ「何かと有名な『コイツ』が立ち上げたギルドの唯一の構成員」――

 そう言われるのが、俺には少しばかり抵抗があったからだ。



 俺が造った鍛冶場兼住居は、日本で言う古民家を想像させる造りにした。

 今となっては木戸は無いが、入ると土間が広がる。


 土間には台所とキッチンを併設。


 そこから一段高く、石を積んで石畳を模した内装が続く。

 部屋には仕切りはなく、天井から吊るすようにして仕切り板をはめただけ。


 だが床まで繋がっていないため、煙や匂いはどうしても流れ込んでしまう。



 それでも、鍛冶場が『ギルドホーム』に代わって数週間。

 もはや俺が造った鍛冶場の原型は見えなくなっていた。


 床の石畳には絨毯が敷かれ、なぜかソファまで登場。

 しかも組み合わせられて、カタカナの『コ』の字を描いている。


 ただし――色のセンスは壊滅的。

 調和を無視した緑色のソファである。



 鍛冶場であり、住居でもあるからベッドだってある。

 だが今は、そのベッドの8〜9割が『コイツ』に占領されていた。


 そして、そのソファに寝転がっているのが――。


 俺がひょんなことから加入させられ、つい最近設立したばかりのギルドの、唯一の構成員にして『ギルドマスター』。


 まぁ、その唯一の構成員が俺なんだが。



 名ばかりの『ギルドマスター』は、外見は幼女……いや、少女の狭間をのらりくらりと行き来するヒト型生き物。


 一応、女性と言っておこう。


 並んで歩けば兄妹に見られ、デートなど程遠い幼女っぷりである。



 身長は140〜150センチほど。

 小柄でありながら女性らしいくびれに、華奢(きゃしゃ)な肩幅。


 整った顔立ち。

 すっきりした美形の輪郭は、立体感さえ感じさせる。


 人形のような小顔。

 長く揺れる銀髪は、屋根の穴から差す夕陽に照らされ、オレンジ色へと変わっていた。


 澄んだ水色の瞳。

 夕焼け色よりも少し薄い、小さな唇。



 俺が帰ってきた合図をすると――。

 その小さな唇が、これでもかというほど大きく開いた。


「あぁー、おっかえりー!!


 ねえっ、ねぇっ! ちょっと今日遅っかたじゃん!?


 何してたの? 寄り道? 女? ねえ? どこ行ってたの?


 ボクはもう腹ペコなんだよ!? 知ってる? 分かってるかい?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ