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君のいる牧場で

作者: 音無悠也

いつも通りの朝を迎えて、少し量の多い荷物を持って外に出る。

外はまだ日が登り始める前。

少し肌寒いなか、いそいそと車に乗り込んで、出発する。

少しの眠気と高揚感を胸に走っていく…。


窓を開けて朝の冷たいけど、じんわりと心に染みるような清々しい空気が流れ込んでくる。

その空気を肺に吸い込んで眠気を覚ます。

すこーし見え始めた、太陽の頭を横目に車を走らせると目的地に着く。

牛や羊がもう元気に動き始めている牧場。

鶏も寝床から元気な声が聞こえている。


車に積み込んだ荷物を担いで、小屋に入る。

小屋には先客がいた。


「おはよ、今日も遅刻せずこれたね」


少し意地悪な言葉を投げかけてきたのは、この牧場の主の息子さん。

ここに勤め始めた時に、私が何回か遅刻しかけたのを未だにいじってくる。

そこを除けばとてもいい人なんだけどなぁ。

仕事もできるし、気配りもできるし、カッコいいし…。

と、変なことを考えていると、ニワトリに足を突かれる。

いけない、いけない。まずは目の前の仕事をしっかりしなきゃ。

と、切り替えようとするが一度、張り付いてしまった考えはなかなか離れてくれない。


そのせいで、いつもやっていて分かりきっている作業も簡単なミスを連発してしまった。

しかも、ミスをすると彼がやってくる。

それが余計にミスを加速させる。

なんか、態度も変な感じにしちゃったし。

と、変にモヤモヤしながらもなんとかこなし、お昼休憩に。


「今日、どうしたん?珍しく間違えてばっかだったじゃん」

「ちょっと考え事してたら、気が散っちゃっただけ」

「ふーん…ま、悩み事あるなら話せよ〜」


午後は何事もなく仕事を終えて、帰り支度へ。


「今日は、いつもの所に寄ってくか?」


いつもの所とは、この付近に唯一ある、居酒屋だ。

いつもそこで一杯飲んでから帰るのが日課だ。

もちろん今日もいく。なんなら、このモヤモヤをお酒で流し去ってしまいたい。

幸いにも明日は、お手伝いさんが来てくれるので、私は午後からの予定だし。


「いくよ、明日はゆっくりできるしね!」

「おぉ、今日は気合入ってんなぁ。俺も後から行くから、よろしくな」

「はいはい…」


そして一足先に、車に乗り込み家に向かい、最低限の荷物を持って家を出る。

もちろん車には乗れないので、ぶらぶらと夏が終わって秋の匂いを感じる風と共に歩く。

日が沈み始め涼しくなってきたところで、いつものお店が見えてくる。

ここにしかないので、近所の人たちがたくさん集まる。

ガラガラと引き戸を開けると賑やかな声がドッと聞こえてくる。

その声の波をかき分けて、いつもの座敷に上がり座る。

注文をいくつかして、先に飲み始める。

そうして1、2杯飲み終わると、彼がやってくる。


「お、飲んでんね、俺も生一つ〜!」


座敷に上がる前に頼んでから座る。

そして、すぐに来た生を一気に半分ほど飲み楽しんでいる。

私が頼んだものを少しつまみつつも新しく頼んでいく。

今日は量多めだな?

そんな風に思っていると、顔に出ていたのか


「あぁ、明日は俺、休みになったんよ。だから、久々に思い切り飲もうと思ってな」

「明日休みになったの?なんで?」

「隣の街の人がちょうどコッチに来るらしくてな、父さんが休みでいいってさ」

「え、私は?」

「最後の作業だけで手伝ってくれって」


なんで、私は仕事あるのよぉぉぉ!!

まぁ、最後だけならいいか…。

そんなことがありながらも、久々にゆっくり飲める日だったので、遅くまで飲んでしまった。

彼も相当飲んでいるはずなのだが、なぜかピンピンしている。

それに対し私は、意識こそあるが足に力が入らない。

解せぬ。


「おーい、ちゃんと帰れるのか?」


返事したいけど、力が入らない。

見かねたのか、彼が肩を貸してくれる。

いつもは触れることのない、ところに触れてしまい、少しドキドキする。

意外としっかりしてて男らしいところあるんだなぁ。

と、ふわふわとした綿飴に包まれたかのような感覚のまま、気づけば家に着いていた。


「ほれー、家ついたぞー?まだ、だめかぁ?」

「うぅ〜…」


頑張ると言いたいところなのだが、口から出たのは弱々しい声だけ。

こんなにお酒弱かったっけな…?

辛うじて、家の鍵を出して開けてもらい、中へ運んでもらう。

介抱されながら、付き合ったらこんなふうになるのかなとか変なこと考えちゃう。

もし付き合ってたらという妄想が続いて…目が覚めた。

気づけばちゃんと着替えて、いつもの起きる時間に起きている。

習慣って怖っ…。

記憶ないのに…。


「私もだけど…彼もどうしたんだろうか?」


と部屋を見渡すと、彼の荷物がある。

なぜ…?

思考が止まったところで、玄関が開く。


「お、起きたか。二日酔いは大丈夫か〜?」

「な、なんで普通に入ってきてんの!?」

「なんでも何も、家入ったら即ダウンで動かなくなったのそっちじゃん」


笑いながら言ってくる。


「そのせいで、俺が出て行った後に戸締りできなそうだから仕方なく残ってやったんだぞ」


キッチンのところには、炭酸やお菓子、お弁当などのゴミがまとめられていた。

うわぁ、ほんとにダウンしてたんだ私。

記憶ないほどダウンするのとかいつぶりだろ。

てか、私、着替えてるよね…?

下着も変わってる…。


「おい、変な妄想すんな?着替えに関しては知らないからな?俺がコンビニ行ってる間に着替えてベッドの横で寝てたんだからな」


あ、寝ぼけながらもそこだけは自分でしたんだ。

ナイス自分。


「起きたんなら、俺も帰るか、じゃあな。まじねみぃ〜」

「あ、うん。ありがと。」


帰っていき、玄関が閉まる音がすると、一気に現実が押し寄せてくる。

私はなんて姿を…。

明日、謝ろう。

ひとまず先に連絡をしよう。

ちゃんと謝らねば、社会人としての立場も危うくなってしまう。

現実の波に対抗する、理性が一つずつ波を打ち消そうとしている。

がんばれ、理性の私。


その日は彼とは会わなかった。

それにどこか、寂しさを感じてしまう自分になんとも言えない感情になってしまう。

なんでこんな感情になっているのかわからないけれど、少し落ち込んでしまう。

気になってしまっているのかな。

モヤモヤした気持ちを抱えたまま、いつもの居酒屋へ足は向いていく。

いつものガラガラ音を聞いてお店に入るといつもの座敷に彼がいた。


「お、もう終わったのか!早くこいよ!」

「…うん!」


彼の顔を見ると元気が出た。

あぁ、これは好きになってしまってるなぁ。

この気持ちは伝えるべきかどうかはまた考えよう。

まずは、昨日みたくダウンしないようにお酒飲まないとね!

そうして楽しくお酒を飲んだ私は、ダウン寸前でお家に帰ったとさ…。


次の日の朝。

いつも通りの時間に起きて、身支度をして荷物を持って玄関を開ける。

いつもの荷物にお弁当がを追加された、荷物を持って外に出る。

外はまだ日が登り始める前。

少し肌寒いなか、いそいそと車に乗り込んで、出発する。

少しの眠気と高揚感、そしてドキドキと共に走っていく…。


窓を開けて朝の冷たいけど、じんわりと心に染みるような清々しい空気が流れ込んでくる。

その空気を肺に吸い込んで眠気を覚ます。

すこし色がつき始めた、空の下を車を走らせ…。


君のいる牧場へ


牛や羊がもう元気に動き始めている牧場。

今日も、鶏も寝床から元気な声が聞こえている。


いつもの小屋の前で息を整えて戸を開ける。

この気持ちが届きますように。

動物たちの鳴き声も私の背中を押す声援のように、元気よく挨拶をする。


「おはよう!…あのさっ…」


今日も君がいる牧場で1日を始める…。

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