婚約者とその従妹の恋を認めてお飾りの妻となりましょう。〜全員独りよがりが過ぎるとここまで見事に拗れる〜
私の婚約者には可哀想な従妹がいる。
なんでも親の再婚で家族と上手くいかなくなって家に居場所がないらしい。
私の婚約者は家に従妹を迎えた。彼の独断だ。彼は両親を亡くして若くして家を継いだから止める者もいなかった。
…いや、私に一応でいいからどう思うか聞きません?さすがに嫌とは言えないだろうけど、嫌じゃないか聞いてくれたら心持ちも違うのに。
しかも二人は美男美女だ。遺伝子ってすごい。近いようで遠いようでやっぱり近い血縁の二人は、その実お似合いの二人だ。
人々は言った、いずれ私は彼に捨てられるだろうと。私もそう思っていた。
けれど私の両親と兄は彼のことを相談すると、彼にしがみついてでも結婚してくれと懇願してくる。
そして彼は意外にも私と別れるつもりはないらしい。私が嫁いでくるものと思っている。
ならば、次に人々は私はお飾りの妻となるのだろうと言った。なるほど、それなら私も納得だ。
私の両親や兄もそれで構わないだろう。婚姻を結ぶのが要なのだから。
そして肝心の彼は、従妹に手を出したと言われると外聞が悪いと思って私をお飾りの妻にしたいのではなかろうか。
なるほど、なるほど。
ならば良いお飾りの妻を目指して頑張りましょう。
「ティナ、レナに甘え過ぎだぞ」
「だってレナ様は私のお従姉様になるのよ!いいでしょう?」
「俺だってレナとくっつきたい」
「いや!レナ様は私が独占するの!」
いや、どうせフレッド様が他の女とイチャイチャするのを見たくないんだろ。そしてフレッド様がくっつきたいのは私ではなくティナ様だろ。
なんて内心毒を吐きつつ笑顔で対応する。
良いお飾りの妻となると決めてから、私は変わった。一切ティナ様の存在に文句を言わなくなったし、二人のわがままは害にならない範囲で叶えるようになった。三人でデートに行きたいと言われた時はよく発狂しなかったと自分を褒めたい。
ともかく、そうなったら二人は私に全力で甘えるようになった。クソ共への餌付けご苦労様でしたという声が聞こえてきそうだが、一応フレッド様の妻となれば我が実家に利益があるし逆もまた然りなのでもうこれでいいのだ。
実家のため、言い換えるなら私をお嬢様と慕ってくれる使用人たちや領民たちのためだ。
「レナ、愛してる」
「レナ様、大好き!」
「私もお二人が大好きですよー」
ニコニコ笑って適当なことを言う。
もう慣れた。
ここまで変わった私を見て、一部の人は私に謝罪してきた。言いすぎた、自分の幸せも考えたらどうだと今更なことを言う外野に知るかボケとキレ返したのは記憶に新しい。
実家のことを考えても、彼の家の都合を考えても、彼ら自身のことを考えても私が我慢するのが一番手っ取り早いんだ、仕方なかろうよ。
今更すぎる謝罪に用はないんだわ。
そして君ら外野が謝ろうが、当の本人たちは謝罪どころか私の内心など気にも留めず理解ある婚約者だのと勝手に解釈しているのでもう手遅れである。
そうしてキレ散らかした私に再度頭を下げて引き下がった彼らに塩を撒きつつ、今日もクズ共への餌やりである。
「この間の三人でのデート楽しかったなぁ」
「俺はレナと二人きりの方がいいからもう付いてくるなよ」
「えー!?」
またまた、本当はティナ様とのデートがしたいくせに。
そう思いつつニコニコ笑って聞こえないフリ。
あー、面倒くさい。
時が経ち私はフレッド様と結婚した。結婚式は盛大に行われた。
両家ともに利益のある結婚、一応誰からも祝福された。表向きは。
実際にはティナ様の方がフレッド様とお似合いなのに、と陰口がまだ聞こえるがこの数年で鍛えたスルースキルで右から左へ受け流す。
ちなみにティナ様はまだ嫁に行ってないどころか婚約者も決まっていない。
まあ、これからフレッド様の愛人になるんだろうからさもありなん。
ということで愛人とお飾りの妻が一つ屋根の下という地獄が完成したのである。
まあ、どうせ私はお飾りの妻。
わざわざ寝室にフレッド様が来ることもないだろうとのんびり構えていたが、フレッド様はなぜか来た。
あれか、「君を愛することはない」宣言か。
言われなくても分かってるんだけど。
「レナ、今日はいい式になったな」
「そうですね、ところでティナ様の元へ行かなくていいのですか?」
「…え?」
「もうお飾りの妻も用意したことですし、思う存分愛して差し上げたらいかがです?」
「お飾りの、妻?レナ、なんの話だ?」
「私はお飾りの妻で、ティナ様を愛人になさるのでしょう?」
「は?」
困惑した表情の彼を部屋から叩き出す。
「ちなみに、愛人を認める代わりに私との性交渉はお断りしますのでどうぞ後継はティナ様に産ませてください。もしなにか障るというなら私が産んだ子ということにしたらよろしい」
「え、え、待ってくれ、レナ」
「長年の想いが叶って良かったですね、お二人とも。お幸せに」
よし、良い仕事した!これで二人とも好きなように愛しあえることでしょう!
これで万事解決と思ったのに、次の日からお通夜状態で私に謝罪してくる二人にこちらのことはお気になさらずどうぞイチャイチャしてくださいと返す日々が続くことになったのは納得いかない。
妻になってくれた最愛の人が、自分をお飾りの妻だと言い張る。
いや、わかってる。原因は俺だ。
理解ある婚約者だなんて、そんな風に思って彼女の気持ちを考えていなかった。
従妹を守ってあげたかっただけで下心などなく、俺の側が一番安全だからとそばに置いたが妻にとってはたしかに勘違いしても仕方がない状況だった。
従妹は親の再婚で兄妹になってしまった、ストーカー気質な男に悩まされていたから…ただ守ってあげたかっただけで他意は本当になかった。
でも証明なんかできない。下心がない証拠なんてない。本当に、勘違いされても仕方がない。これは全部俺が悪い。
しかも、従妹が俺以外の男性に恐怖を覚えるからと嫁に出す気もなかったのがもっと最悪だった。
誤解されても仕方がない、本当に本当に妻はとてつもなく我慢していたのだ。
従妹は結局修道院に自ら行って俺との縁も切る勢いだったが、妻の心は戻らない。
その後従妹は結局、義兄に捕まってしまったらしい。でももう俺はなにもしてやれない。
「あの愛人が気に入らなかったなら、後継のためにも新しい愛人が必要ですね」
そう言って俺に女をあてがおうとする妻に、俺はもうどうしたらいいのかわからない。
「信じてくれないのは仕方がないと思う。でも俺は君を愛してるし、君以外に触れる気はない」
「またまたご冗談を」
もう、彼女がこちらをみることはない。
それでももう一度チャンスが欲しい。
そんなもの、どこにもないけれど。
従兄の幸せな結婚を、私が台無しにした。
従兄の妻となった人は、すごく私を甘やかしてくれて大好きだった。
従兄と彼女といつまでも仲良く過ごすのだと甘ったれていた。
彼女は、自分をお飾りの妻だと言う。
彼女は、私を愛人だと言う。
私は義兄に執着され、逃げてきた。
優しくされて嬉しかった。
それだけで、他意はなかった。従兄に恋愛感情など微塵もない。むしろ二人を祝福していた。
結局私は修道院に入った。
結局私は無理矢理還俗させられ義兄の妻にされた。
結局義兄に捕まって、異常な執着を向けられる日々。
義兄は性的なことは要求してこないのが救いだろうか。
けれど、私は義兄がひたすら怖い。
苦しくて辛い日々に逆戻り。
ああ、これが私が彼女を知らぬうちに傷つけた日々の代償なのだ。
以下の話を追加します。蛇足かもしれませんがよろしければもうしばらくお付き合いください。
『妹を不幸にしてしまった話』
妹を不幸にしてしまった。
望まぬ結婚を強いてしまった。
妹は優しい子だから、家のため…使用人たちや領民たちのためでもある結婚だと言えば頷いてくれた。
けれど、今あの子は夫に愛人をあてがおうとしている。
夫と関係を持つのがそれほど嫌だと言う。
「すまないレナ…」
「いいんです。家のお役には立てましたか?」
「も、もちろんだ」
「それなら良かった」
健気で優しいエレナ、我が愛おしい妹。
家のための犠牲にしてしまって申し訳ないと心から思っている。
しかしおかげで本当に助かった。
私に出来るのは感謝することだけ。
「ああ、お兄様。そんな顔をしないで。私は本当に大丈夫です」
「レナ…」
「…わかりましたわ。わかりました。では旦那様と話し合ってみます。それでよろしくて?」
「…!」
レナがそんなことを言うとは思わなかった。
あれほどまでに頑なに彼を拒否していたのに。
「いや、レナに無理をさせたいわけじゃないんだ」
「大丈夫です。私は私のしたいようにしかしませんから」
そこにいたのはニコニコ笑いながらなんでもスルーするようになった妹ではなく、優しく健気だが意外と意思の強い元の妹。
「…レナ」
「はい、兄様」
「今まで無理をさせてすまなかった。ありがとう。お前がどんな道を選ぼうと、今度こそお兄様はお前に味方する」
「…ふふ。はい、兄様。兄様のそういう結局は私に甘いところ、昔からずっと大好きです」
久々に抱きついてきた甘えん坊に戻った妹を、しっかりと抱きしめる。
今度は間違えない。
妹は家のためにもう十分頑張ってくれたのだから、今度こそ私は妹の味方でいよう。
妹が彼を許すにしろ、別れるにしろ…そのどちらでもないにしろ。
妹がハッピーエンドを迎えられることを祈る。
『その後の話』
兄様に、旦那様と話し合うと宣言した。
そして今、旦那様に時間を作ってもらって話し合いの席を設けた。
「旦那様、私…」
「本当にすまなかった」
旦那様は私に謝る。
それはなんの謝罪だろうか。
「君に我慢を強いて、人助けもなにもあったものじゃない。証明のしようはないが、本当に俺は従妹に…オーギュスティナに下心はなかった。でも、君に嫌な思いをさせたこともようやく身に染みてわかった」
「そうですか…」
結婚してから、二年。
たった二年だが、されども二年。
私もこれまで意地を張っていたのだが、旦那様が毎日死んだような顔をして私に謝ってきたり愛人をあてがおうとしても拒否したりするのでそろそろ気持ちが落ち着いてきた。
仕返しとしては、もう十分だと思えた。
「…ええ、認めましょう。たしかに旦那様はティナ様を愛人にする気はなくて、それに新しい愛人も欲していない」
「…!」
「それでも、壊れた愛情は元には戻らない。昔のような純粋な思いで貴方を愛することは私にはできない」
「レナ…そんなことを君に言わせたのは俺だ、本当にすまない…」
「…もう、いいです。いいんです。だから…夫婦関係を、やり直しましょう」
私の言葉に旦那様は驚く。
離縁を迫られるとでも思っていたらしい。
「え、離縁したい…のではなく?」
「まあ正直それも考えましたが、家同士の利益ある結婚に水を差すのもあれですし…私もこの二年でだいぶ病んでいた心も回復しましたし」
「そうか…君を追い詰めてしまって本当に申し訳なかった」
「この二年で十分謝罪は受けました。もうこれ以上は謝らないでよろしい。…私も、たくさん意地を張って意地悪をしたのですから。これでトントンです」
「レナ…!」
彼に重要な提案をするのはここから。
受け入れてくれるなら、もう一度真剣に彼と向き合おう。
「なので、夫婦として…その前に人としてもう一度お互いにきちんと向き合いましょう」
「ありがとう、レナ…!」
「けれど…夜の方は、私が完全に貴方を許し受け止められるようになるまで絶対強要しないでください。夫婦としてやり直しますが、きちんとやり直せるまで夫婦の触れ合いは禁止です。…よろしい?」
「!!!…もちろんだ。いくらでも待つ」
覚悟の決まった顔で頷く彼。
私たちはこの日を機に夫婦関係をやり直し始めた。
それからさらに三年。
朗報が届いた。
義兄に捕まっていたらしいティナ様だが、義兄が急逝したらしい。
ティナ様がなにかしたとかでもなく、ただただ偶然に偶然が重なっての避けようのない事故だったらしい。
可哀想なことだが、天罰だと思ってしまう。その義兄が全ての元凶なのだから。
「ティナ様は自由になったのですね」
「ああ。今は遺産を使ってお一人様を満喫している。君にも改めての謝罪の手紙が来ているが、読むか?」
「はい」
受け取ったのは長い手紙。そこには本当に当時下心はなかったこと、傷つけてしまったことへの心からの謝罪。そして近況が書いてあった。
旦那様と夫婦関係をやり直してだいぶ経ち、今では下心はなかったことも受け止められるし謝罪も心にスッと入ってきた。
そして未亡人となった彼女は、生活に困ることもなく今では一応ちゃんと自立して幸せだと知って…正直ほっとする自分がいた。
私が意地を張って愛人呼ばわりしたことで彼女は家を出て、結果全ての元凶たる義兄に捕まってしまったとどこか罪悪感を感じていたから。
ちなみに彼女たちは白い結婚だったらしく、新しい結婚相手も今探しているらしい。良い人が見つかることを祈る。
「ティナ様とも…いつかきちんと和解したいですね」
「!…そうか」
「もう少し心の整理がついてからになりますけど、いつかは…きっと」
旦那様ともだいぶ和解できてきたが、まだ夜の方は許してはない。
けれど子供も欲しいことだし、そろそろいいかなと思う自分もいる。
旦那様の子供が欲しいと思えるようになった時点で、だいぶ許せているとも思うし。
「旦那様」
「うん?」
「夜の方もチャレンジしてみますか?」
彼は私の言葉に目を見開いて、そして頷いた。
「優しく、大切にする」
「もう優先順位は間違えないでくださいね」
「もちろんだ」
まあ、雨降って地固まるということにしておいて欲しい。
神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました
という連載小説を掲載しております。完結済みです!よろしければご覧ください!
あと
美しき妖獣の花嫁となった
という連載も掲載しております!
よろしければお付き合いください!
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