ミズキ・アガノと魔法の摂理(前半)
まだ喉が痛いです。
基本ゼリーしか食ってません。
ラーメン食べたいッ!!!!!!
冒険者ギルドは王城に意外と近いメイン通り沿いに建っていた。王城が近いということは、騎士団の本部も近い。つまり、冒険者ギルドでもし荒事があってもすばやく鎮化できるという計算なのだろう。
俺のイメージでは木造で二階建ての西部劇に出てくる酒場みたいな感じかと思っていたが、案外清潔感がある。3階建てのこれまた白い石造りで屋根は青いレンガ瓦、建築自体はイオニア式の建築構造に近い。
「じゃ、入るわよ」
「大丈夫ですか?入った瞬間にトラブルとかありそう・・・」
「いやそれは流石に無いから安心して。冒険者登録するまでは貴方たちはただの一般人。冒険者ともあろう人が公衆の面前でそんな横暴なことしないわよ」
「ほっ・・・よかった・・・」
「裏返せば冒険者になった途端に難癖つけてくる可能性はなくもないってことだろ」
「そうね。それは保障しかねるわ」
「安心できないじゃないですかやだー!」
うだうだ未来のことを考えても始まらないということで、とっとと中に入ろう。両開きのドアを開けると、中央をカーペットが縦断しており、ロビーに続いている。両脇には丸テーブルがいくつか置かれており、幾人かが談話したり昼から酒を飲んでいるのが見える。右側の壁には、おそらく依頼書や通知が貼られるボードがある。
そんな屋内を尻目に、俺達はアンネとロビーに進み、登録を行うことにした。
「冒険者ギルドにようこそ!おや、アンネさんじゃないですか。もしかして後ろの2人の冒険者登録ですね?」
俺らに当たった受付嬢は、見事な金髪のショートの娘だった。日本人がいくらブリーチしてもここまでの色にはならないだろうと思えるくらいの色合いである。しかもアンネと顔見知りなら話もスムーズに行くことだろう。これは幸いだ。
「ええ。察しがいいわね。お願いするわ」
「ではお二方、こちらの書類に名前・年齢・種族を記入してください。記入が終わりましたら、杯の中の水鏡に血を一滴垂らせば完了です」
「うえ、血を垂らすの?ちょっと痛そう・・・」
「子供か。良いからはよやりんしゃい」
「子供ですけど!?まだ15ですけど!?」
書類はパパっと済ませ、本題の水鏡に移る。先に彩綾からやることになった。頑張って少し切った指先から恐る恐る血を一滴垂らす。すると、水面に魔法名とアルファベットが浮かんできた。どうやら適正魔法と魔力ランクが表示されるもののようだ。
サーヤ・カトウ
適性魔法:防御魔法
魔力値:B
「防御魔法ね。名前の通り防御特化の魔法よ。シールドやバリアは勿論、味方に防壁を張ったりもできるわね」
彩綾の魔法は防御魔法。戦闘向きの性格じゃないからむしろ良かったまである。だが使いようによっては幅がかなり広がる汎用性を秘めていると思う。今後が楽しみだ。
「なあ、この魔力Bランクって位置的にどーなん?」
「魔力のランクはE〜Sまで存在するわ。だからサーヤの魔力は平均よりも高めね」
「なんかよく分かんないけどやりました!」
「次俺な」
最後に俺の番だ。適当に薄く指を切って水鏡にパッと散らす。
ミズキ・アガノ
適性魔法:天理魔法
魔力値:C
「天理魔法??」
「聞いたことのない魔法ですね。アガノさんはどんな魔法かご自覚はありますか?」
「いやはっきりとは。でも実験しないことには100%の理解は無理だろうな」
ということは早速依頼でも受けて魔物相手にやってみようかなと思ってたら、後ろから2人組のゴツイおっさんが声を掛けてきた。
「よぉ兄ちゃん、それだったら俺らと一戦やってみねぇか?
連れの嬢ちゃんも一緒によ」
「・・・え?マジ?」
「おう、裏に訓練場があっからやろうぜ!心配すんな。勝ったからと言って嬢ちゃん寄越せとか金出せとか言やしねーよ」
「おうふ・・・。いや有難いけど、正直もっとチンピラみたいな奴相手だったら遠慮なくやれんだけどなぁ。そこまで気が良い感じで来られっとやりづれえよ・・・」
「私は安心して臨めるのでオッケーです!」
「畜生め。・・・まあ後で外のタチの悪い奴とか捕まえて実験台にするよか世間体はいいか。いいぜ、やろう」
事が比較的穏便に進んでよかった。俺の想定ではチンピラ冒険者に容赦なく魔法の実験して後でギルドマスターとか現れて・・・みたいな感じになると思ってた。
-ギルド裏・訓練場-
「さあ!B級冒険者のビル/クリフペアと今日から冒険者のミズキ/サーヤペア。勝つのはどちらか!オッズは2:8で賭けを行います!!」
「ビルの方に大銀貨3枚だ!やっぱパワーあるもんなアイツ」
「クリフの速さに小銀貨5枚で!」
「僕はあのミズキって男に何かあると思うよ?大穴で小金貨2枚かな」
「あの可愛い子の意外性に大銀貨2枚賭けてみようかしら」
なんか勝手に賭けが外野で始まってんだけど・・・別にいいか。外野の金と俺は関係ないし。勝手にやってるだけだし。なんなら伝統的なアレなんだろうきっと。
いや、なんかムカつくから後でファイトマネーをせびろう。
「じゃあ先にオレが行くぜ。そっちはどっちが先だ」
一番手はビルと呼ばれてたパワー型の重戦士。武器は背中に背負っているハンマーだろう。こっちはあくまで自分の力の実証が目的。となればこっちの一番手は決まってる。
「よし、彩綾。君に決めた」
「えええええ!?わたし!?!いやいやあんなパワーありそうな人の一撃喰らったら死んじゃいますって!!」
「でもお前防御特化なんだろ?良い機会じゃん。それでも不安なら防御魔法vsハンマーで一発勝負にしてもらえ。それでいいよな!」
「ああ、俺は構わねえよ!」
「だとよ。はい、いってらっしゃい」
「あぅぅぅ。はい・・・」
「あ、一個だけ助言しとくわ。シールドを・・・・・・」
彩綾に念の為のアドバイスを授けて、いざ矛盾一発勝負。
魔法の発動については、アンネから「どんな形で展開するかをイメージすること」と聞いてるため、発動そのものができないなんてことはないはずだ。
試合場の中心で立ち合う2人。体格差がありすぎて側から見てても絵面が酷い。日本ならすぐお巡りさん案件である。
「本気で行くぞ嬢ちゃん。マジで防げよ?」
「は、はい!」
僅かな静寂
「せーの、オラアアアアアアアア!!!」
「ッ!!!」
カキィィィィィィィン・・・・・・
「・・・・・・えっ?」
「いってぇぇぇぇ、手が痺れたぜ!悔しいがびくともしなかったよ。あんたの勝ちだ!」
「「「「「オオオオオオオオオオオ!!!」」」」」
勝敗は一瞬。彩綾の防御魔法であるシールドが、ビルの渾身で振りかぶったハンマーを弾き返した。シールドにはヒビも入っていない。
「でも嬢ちゃんのシールド凄えよな。なんか六角形のシールドがびっしりあるしよ」
「あはは、これは瑞樹さんのアドバイスを聞いただけですので。だから私にもよく分かんないんです」
「ハニカム構造ってやつだよ」
唐突に阿賀野が二人の会話に割って入った。
「「ハニカム構造?」」
当の2人は首を傾げている。一般でも知ってる人は決して多いわけではないから、知らないのも当然だ。
「ハニカム構造ーー正六角形を隙間なく敷き詰めることで、衝撃を分散できる最も衝撃吸収性に優れている構造力学だ。
だから硬いというよりは、衝撃にとても強いシールドを作ったってわけ。昔に『自然に学ぶものづくり図鑑』読んでてよかったぜ」
「なるほど、そんな秘密が。・・・でもそれ俺らに言っちまって良かったのか?」
「知識は知るだけでは意味はない。それにこれは単なる学問の応用だ。防御魔法使いや盾持ちの強度が上がるだけなんだから別に良いだろ」
次は俺とクリフと呼ばれたスピードタイプ、おそらく盗賊がジョブなのだろう。そんな相手にどうやって天理魔法を使うのか。
非常にこの力が楽しみだ。
角川武蔵野ミュージアムとか資料の宝庫だと思わんかね。すげえ行きたい