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彩綾くん、本は真実を語るべきだ

「異世界で本を薦める」という突如思いついたネタに書かざるを得ませんでした。

–本というものには、良くも悪くも「人知」の全てが詰まっている–





2023年4月、本の聖地『神保町』の一角にて。



 路地裏の行き止まりに存在する地下への扉の先には、日本と中世ヨーロッパを融合した和洋折衷(わようせっちゅう)風の木造様式と、更に地下1階~3階の大きな吹き抜けが虚空を作り、

 そのフロアごとに、無限とも思える蔵書数の本が6層ほどの本棚の中に敷き詰められ連なっている。

 所々に置かれた木造テーブルとアンティーク調の椅子、カーペットが敷かれた階段と古めかしい蛇腹式エレベーターが、まるで美術館の荘厳さと歴史の重みを演出していた。


「・・・・・・」


 B3の吹き抜け下に設置された長方形の大きなアンティークテーブルで、一冊の文庫本を読みながら無糖のレモンティーを啜る男が1人いる。

 彼は阿賀野(あがの)瑞樹(みずき)という名で、20代前半で細身な体格、169cm後半ほどの背丈に、グレーのロングパーカーを羽織り無地の白いワイシャツと赤いネクタイ、袴のようなワイドパンツと素足で雪駄(せった)を履いている。

 適当に切られた黒髪の癖毛に細い輪郭でありながら、鋭い眼が阿賀野の異様さを演出しているかのようだ。


 そんな彼は、奇抜な風貌でありながら、ここ八意書房(やごころしょぼう)の主であり唯一の書房員(しょぼういん)でもある。



「・・・ヘェ〜、映画とはちょっと違うんだ。こっちの方が俺は好みかな・・・」


 脱力しているかのように椅子に身を委ね、悪く言えば行儀が悪い姿勢で本を読む書房の主。

 時計の小さな秒針の音と当人の声のみが響く地下書房で、今日も来るとは微塵も思っていない客人のことなど余所に、いつも通り黙読に(ふけ)っている。

 しかし、今日は珍しく1人の来訪者があった。


「こんにちは、瑞樹さん!今日も閑古鳥(かんこどり)ですか?」


 可愛らしい声と共に薄暗い地下にやってきた女子高生が、B1の吹き抜け手すりからこちらを見下ろし問いかけてきた。

 彼女は加藤(かとう)彩綾(さあや)という、この神保町付近の高校に通うことになった1年生だ。コイツが中学1年生の頃にたまたま大量の本を入手して帰る俺を尾行して、そのままこの書房がバレて以降ほぼ買いもしないのに遊びに来るようになってしまったのだ。最近は卒業式や入学式で忙しいからもう来ないと思ってた矢先にこれである。

 ホワイトベージュのサイドテールに俺とおなじく細身の華奢(きゃしゃ)な体格と色素の薄いきめ細やかな肌。くりっとした綺麗な蒼い瞳と幼さが残る顔は、可愛くないとは口が裂けても言えないだろう。 背も154cmと小柄なのにバストEカップは世の貧乳に悩む女子を完全に敵に回してるとしか思えない。

 逆恨みで呪われないか心配ですらある。


「今日も優雅に読書ですか。ところでその本、何て本ですか?」


 軽々しい足取りで俺の(ところ)へ降りてきた彩綾は、無邪気に俺が読んでいた文庫に興味を示した。


「ドーモ、遺伝子お化けさん。これは『忍びの国』って2003年の映画の脚本家の和田(わだ) (りょう)が書いたノベライズさ。

怠け者の伊賀忍(いがにん)と伊賀攻略をめぐる織田などの戦とか書いた歴史小説ってやつ。お前はまず映画から入ることをお勧めするぜ?でなきゃよう分からんだろ」


「はえ〜映画から小説化って珍しいですね。・・・って今さりげなく遺伝子お化けって言いました!?

失礼ですね地毛ですよこの髪!」


 俺が先ほど遺伝子お化けと言った理由がこれだ。コイツ、この見た目で両親ともに日本人なのだ。母方の遠い先祖にフランス人がいたらしいが、先祖返りにも程があるだろ。

 どーなればその髪と瞳になるのか遺伝子学的に興味がある。

 かといって採血したりしようとは思わない。せっかく叩けば鳴る面白い奴なのだ。モルモット的な扱いは勿体無(もったいな)い。


「だからだろーが。ほんとお前の血筋は異常だよ。俺がマッドサイエンティストだったら遺伝子レベルで解析したいところだわ」


「堂々とセクハラですか?いいですよさあわたしの胸に飛び込んでみてくださ「やめろそんなことする自分を想像するだけで吐きそうになるわ!」んふふーよろしいです!」


 こーゆう無自覚な小悪魔というか、そんな所にヒヤヒヤさせられる俺の身にもなってもらいた・・・いや無理だな。

 俺以外の男だったら絶対オオカミになってるぞきっと。


「で、何のようだ・・・って言っても前と同じく遊びにきただけだろーがな。また紅茶と茶菓子でもねだる気か?言わせねえよアッサムとチョコミントアイスでも食ってろ」


「瑞樹さんってツンデレなんですねー」

 「うるせえわい」と遠くから小さく否定の声が飛んでくる。

 バックヤードの小さなキッチンでアッサムを注いだカップとティーポットと半月型のチャコミントアイスをトレーに乗せて帰ってきた頃には、彩綾は俺が読んでいた「忍びの国」の隣に置いてあった別の本を読んでいた。


「おいそれまだ途中なんだけど・・・」


「あ、おかえりなさい!でも結構おもしろいですよこのミステリー。ただタイトルがちょっと怖くて手に取りづらいですけど」


「『名探偵のはらわた』なんてタイトルだ、そりゃあ躊躇するだろーな。でも読んだら面白いぜ?

中々ないだろ探偵と地獄から(よみがえ)った昭和凶悪犯のストーリーなんて」


『名探偵のはらわた』

 白井 智之のミステリー小説で、本格的ながらも地獄から甦る凶悪犯を止めるという斬新なテーマの現代日本ミステリだ。俺も最初は死霊のはらわたを連想して似たようなものかと思ったが、本格ミステリであるが故に期待以上に面白い。


「ですよね!この本借りていいですか?友達にも教えたいんです!」


「いやここ書房だからね?その本商品だからね一応?茶菓子代はいいからそんなに読みたきゃ買えよ自分で。ここは図書館じゃねーんだぞ?」


「えぇ〜そんなぁ〜・・・」


 明らかにしょぼんとした表情をする彩綾に、俺は数十秒悩んだ結果貸すことにした。しかしこれは完全な同情とか憐憫(れんびん)のせいではない。



「え、良いんですかやったーっ!!」


「勘違いすんなよ?お前が落ち込んでたり申し訳なさそうにする様を見て俺の心がちょっとでも動く。つまり俺は人の心が少なくとも存在してて人間としての自分を再認識できて満足。お前は本を借りられる。ほらWin-Win!ハハハハッ」


「もう、それを言わなかったらキュンと来たのにー」


「諦めな。俺は色恋沙汰に興味ないわ。てかキャラじゃなさすぎてキモい!同人誌でも許さねえよ絶対」


「本当に瑞樹さんは無知と未知にしか興味ないのですね」


「当たり前だよなぁ!?知らないことを知る、または知ろうとする人間に真実や知識を与える。それによって世界が広がったかのようなあの表情と声は最高だぜ!!

これだけで麒麟山(きりんざん)(新潟の日本酒)2合瓶くらいは呑める」


「良くも悪くも変わらないようで安心しましたよー」


「・・・まぁ、だからこそ本には嘘をついてほしくはねえんだ。後で「信じてたことが嘘でした」なんてなったら絶望モンだろうからな。その本のあらすじにも書いてあんだろ?

(わたり)君、君は真実を語るべきだ』ってな」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 そうして紅茶を飲みながらアホの子こと彩綾に知識の授与と布教活動をしながら平日の午後を過ごした。

 正直、こーいった先生と生徒というか師弟というか、とにかく今の関係は結構気に入っているのだ。ただし本人には絶対に言わない。

 言ったらアイデンティティ的に俺が死ぬ。

 冗談なしに死ぬ。


「じゃあこの本はお借りしますね!ちょっと汚しちゃったらすみません」


「もし汚したまま帰ってきたら代金を払ってもらうのは勿論、授業参観にお前の親父と入れ替わってあらぬ誤解を生んでやるからなァ」

「良いですね思う存分カップルと誤解させちゃいましょう!」

「ハァ、ダメだこいつ・・・早く何とかしないと」

育て方をどこで間違えたのやら・・・・・・、てか俺オヤジじゃなかったわ


 「お茶ありがとうございましたー!」とぴょんぴょんと体と胸を弾ませながらお礼を言い帰っていく彩綾を見送った後、綺麗に飲み終わったカップと皿を洗い再びだだっ広い中央の椅子に腰掛けた。


 至高の一時が一転、青春ラノベの1ページみたいにされかけたが、永遠に静かで退屈なよりかは良いか、と人生のスパイスと割り切って、また1人になった俺は文庫の続きを読み始めた。

登場人物の名前とか風景描写ムズくね?


てことで第一話でした。

実は私、コレがメインではなくてゆっくり実況とかボカロの作詞活動などをメインにやってます。

そちらも気になるようでしたら是非ともよろしくお願いします。


YouTubeやニコニコで「ディスマン ゆっくり」とかで検索すれば出てくると思いますんで。

フード被った煙男のアイコンが目印です。

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