勇者ツヴァイ
焚き火から少し離れて、あぐらをかく。
重心を後ろに置いて、地面に手をついた。
炎をぼうっと眺めて、このまま寝てしまっても構わないくらいのつもりで体から力を抜いた。
だが・・・・・・。
「・・・・・・」
ロジカからの視線が刺さる。
最初は気にしないよう努めていたが、無視出来ないレベルで凝視している。
どうやらワタシに対する好奇心がまだ尽きないようだ。
「おいキサマ! そうあまりじろじろ見ていると・・・・・・」
文句を言おうと、ロジカの方に顔を向ける。
すると、それが隙だと言わんばかりにロジカが素早くこちらに迫って来た。
そして、その手のひらをワタシの股ぐらの滑り込ませる。
「・・・・・・は!?」
思考停止。
いったいロジカはワタシに何をした?
何を思って・・・・・・?
どうして・・・・・・いや、そういうことでなく。
「き、キサマ! 何をする!? いや・・・・・・ほんとに何してる!?!?」
「あ、ああ・・・・・・いやぁごめん。やだった?」
「そういう問題でなく! いきなり何をするのだ!」
こっちとしてはいきなり虫に飛びつかれたときのように驚いているので、指摘すべきことの優先順位が絡まる。
別にそういう問題ではあった。
慌ててロジカを振り払うように蹴飛ばす。
「あぅ、やめてぇ・・・・・・」
すると容易くロジカはバランスを崩して転倒した。
「・・・・・・っててて、もー蹴ること無いじゃんか。ただその・・・・・・やっぱり付いてないよなって思っただけなのに・・・・・・」
打ち付けた尻をさすりながらロジカが言う。
「付いてないって何がだ、このバカモノ!」
「男性器」
「バカモノ!!!!」
リベラは喧しいこちらはほとんど無視して炎を育てている。
いや、無視というよりはむしろこっちに来るなと言いたげな雰囲気だ。
「もーそんなぷりぷりしないの。いいじゃん、これもいい機会っちゃいい機会なんだから。人類の魔法の発展のために色々調べさせてよ。アタシの興味の赴くままに」
「イヤだ!」
「イヤよイヤよも好きのうち〜・・・・・・」
ロジカがやたら目をギラギラさせて、再びワタシの元に四つん這いでやってくる。
今度は何をしてくるかと身構えていると、口に指を突っ込んで来た。
「ふんふん、歯はぁ・・・・・・どちらかと言うと牙って感じだね。舌の形は・・・・・・思ったよりフツー・・・・・・」
「ひへらはふけて・・・・・・!」
「だそうですよ、ロジカ様。あまりしつこいと前みたいにまた嫌われますよ?」
流石勇者補佐役、助けを求めたら嫌々ながら協力してくれる。
ロジカはリベラの声にしかめ面をしてから、ワタシの口から指を引き抜いた。
「・・・・・・っていうかアタシ嫌われてたの?」
「さて、どうでしょうね」
ロジカは不服そうにしながらもワタシから離れる。
そして大体元いた位置に腰を下ろした。
ワタシも体についた汚れを払って身なりを正す。
と言っても鎧と最小限の着衣しか未だに無いのでほとんど正すところもないが。
そうして、炎の前に座り直した。
これでやっと静かになる。
そう思ったところで、またもやロジカが沈黙を破る。
ところが、先程のハッスルした感じではなく落ち着いた様子だった。
「ねぇ、勇者さ・・・・・・名前、変えない?」
「名前・・・・・・だと? そもそもワタシの名前ってなんなんだ?」
今のロジカは安全そうなので、素直に会話を続ける。
それに反応するのはリベラだった。
「勇者様の名前、それは・・・・・・」
ところが、わざわざそうして答えようとしたのにリベラは言葉に詰まる。
その言葉の続きを紡ぐわけではないが、ロジカが口を開いた。
「前はね、前は・・・・・・アインって名前で呼んでた。けど、今のあーたは・・・・・・真っ白い髪に真っ赤な目、肌も血ぃ通ってないんかってくらい真っ白だ。しかも性別まで変わってる。完全に魔族だし、女の子だし・・・・・・あーたには悪いけどリベラも今の状態じゃアインって呼びたくないだろうしね。だから、新しい名前つけてもいいんじゃない?」
「・・・・・・そういう、ものなのか?」
「さてね。ま、でも・・・・・・そんなもんでいんじゃない?」
自ら提案しておきながら、ロジカは無責任にそう言い放つ。
いや、実際にロジカにとってはそういうものでいいのだろう。
そしてそのロジカの視線が向いているのは、今はリベラだ。
「あの死にたがり勇者には似ても似つかないこの子に。この勇者に、あんたはアインの名前をあげちゃっていいの?」
「・・・・・・」
リベラはその言葉に少し俯く。
そして少しした後、こちらに顔を向けた。
「勇者様は・・・・・・勇者様は、新しい名前が欲しいですか? 新しい名前でいいですか?」
それに対するワタシの返事は・・・・・・。
「もちろん、構わないが。呼び名があった方が都合が良いしな。・・・・・・して、リベラが考えてくれるのか?」
ワタシ自身の名前なのだから自分で考えろと言われるかもしれないが、あいにく自分に相応しい名というのは思いつかない。
ワタシの言葉を受けて、ロジカがワタシにやっていた視線を再びリベラに送った。
「だってよ。なんかつけてやんなよ」
「・・・・・・そう、ですか・・・・・・」
そう言って、リベラはしばし頭を悩ませる。
しかし、数秒でそれは決定されたようだった。
「・・・・・・でしたら、ツヴァイ。勇者ツヴァイ、でどうでしょうか?」
「あー・・・・・・。正直、そうなる気はしてたけど・・・・・・。どう? 勇者様はそれでいい?」
まぁねー、と頷きながら、ロジカが最終的な判断をワタシに求める。
ツヴァイ。
その言葉がどういう意味を持っているのかは分からない。
しかし、ワタシはなんだか・・・・・・ワタシを表す言葉が勇者だけでなくなったことが嬉しかった。
だから、それで十分だった。
「ツヴァイ・・・・・・勇者ツヴァイ、か。ふ・・・・・・ふふふふ! 良いだろう! 今この瞬間より、ワタシは勇者ツヴァイだ!」
前書き後書きって別に毎回なくてもいいのでは?