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覚醒(?)

見て!!!!!ぜひ!!!!!

 まぶたの上から光が滲む。

木々の間を縫って、柔らかな風が頬を撫でた。


「ん・・・・・・んん・・・・・・」


 なんだ・・・・・・?

ワタシはいったいどうして・・・・・・。

いや・・・・・・。


「ここ・・・・・・どこ?」


 降り注ぐ朝日に照らされながら、体を起こす。

状況がさっぱり理解出来ないが、まるで今この瞬間生まれたばかりのような清々しい朝だ。


「ワタシは・・・・・・何をして・・・・・・」


 辺りを見回す。

魔力を帯びた奇妙な木々が立ち並ぶ森の中、ワタシの周囲だけ全ての樹木が伐採され・・・・・・いや根本を残して消滅していた。

それどころか、地面は不規則に抉れたり隆起していて、明らかに普通でない地形をしている。


「うん・・・・・・うん」


 ひとまずそれは見なかったことにして、歩き出す。

凸凹した地面を歩くワタシの足は裸足だった。


「・・・・・・というか、いったいなんなんだこの服は! ほとんど着ていないようなものじゃないか!」


 体にぴっちりと張り付く水着と大差ないような衣服。

こんなどことも知れない森の奥でお腹丸出しだ。


「・・・・・・うぬぬぬぬぬぬ」


 誰からの視線があるわけでもないが、なんとなくマズイような気がする。

だが今はそれどころではないのも事実。


 今どうしても向き合わなければならない、非情な現実。


「ワタシは・・・・・・誰だ・・・・・・?」


 記憶喪失というやつだろうか、何も覚えていない。

言葉・・・・・・は使えているけれど、自分の名前も住む家も分からない。


「む、むむむむむ・・・・・・これは・・・・・・」


 どうすべきか、しばし腕を組んで考える。

考える。

考え・・・・・・て・・・・・・。


「分からぬ!」


 結論など出なかった。


 誰かに見つけてもらえれば家族とか、そもワタシが誰なのかとか分かるのだろうけど、まず誰かがふらっと訪れるような場所でないのは一目見れば明らかすぎる。


「だが・・・・・・ひとまずは何か、こう・・・・・・体を隠すものが必要だ! この森を出るにしてもこの格好ではあまりにも・・・・・・あんまりだ!」


 ワタシの美的感覚からすれば、この裸一歩手前の格好は普通に恥ずかしい。

なんか・・・・・・馬鹿でかい鎧とかで全身隠したいくらいだ。


 とりあえず葉っぱでも巻くかと、近くの植物を物色する。


「うが!」


 なんかデカイ口のついた植物に噛まれた。


「あだ!」


 掴んだ葉っぱに細かな棘がびっしり並んでいた。


「うげ!」


 意志を持っているかのような蔓に捕まって巨大な花に丸飲まれた。


 なんとか花から這い出して、ヒリヒリ痛む手のひらを撫でる。


「なんて場所にいるのだ・・・・・・」


 ともかく、植物に手を触れるのは避けた方が良さそうだ。

というかもう触りたくない。


「ぬぅ・・・・・・このワタシが植物如きに手を焼くとは・・・・・・」


 後で覚えておけと睨みつけてから、ほかに何か無いか探す。

しばらくうろついていると、地面に走っている亀裂に銀色の何かが挟まっているのを見つけた。


 好奇心のままそれに近寄り、亀裂から引っ張り出す。

見ればそれは鎧のようだった。


 どちらかと言えば動き易さや軽さを重視されて設計された簡素なチェストプレート・・・・・・のはずなのだが、なんだか妙な模様、というか溝がある。

その溝を微かに魔力の残滓が流れているのを感じた。


 ここに落ちていたならもしかしたらワタシのものかも知れない・・・・・・と言いたいところだが、明らかにサイズが合わない。

どう考えても大きすぎる。


「・・・・・・しかし、無いよりはマシか・・・・・・」


 常に腕で押さえていないとならないが、逆にオーバーサイズなおかげで胴体がまるっと隠れる。

すかすかすぎて心許ないのはそうなのだが、幸い気候的にはそれでも問題ない。


 他にも何か落ちていないかと散策を続ける。

一応探せばこのチェストプレートが見つかったという成功体験もあったし、ちょっとした宝探し気分だ。


 少し見回すと、またちょっと離れた場所の木の影で何かが横たわっているのを見つける。


「ふふん・・・・・・」


 やや得意な気分になりながらもそちらに向けて駆け出そうとしたその時だった。


『魔力の供給を確認。勇者のチェストプレートの復旧を開始』


「んあ?」


『復旧完了。装着者の検知。分析を開始』


 突如鳴り出す抑揚の無い・・・・・・というよりややイントネーションのおかしい音声が話し出す。

その声は間違いなく拾った軽鎧から発されていた。


『・・・・・・分析中。体格の不一致を検出、魔力の異常増大を検出、他600余りの異常を検出。勇者との一致率、0パーセント。機能の90パーセントをオフにします。分析を継続・・・・・・』


「い、いったいなんなんだ・・・・・・!?」


 喋る鎧は趣味じゃないと、すぐさま脱ぎ捨てようとするがそれすらこの鎧は許さない。

あろうことか、ワタシの体格に合わせて縮小しがっちり固定されてしまった。

脱ぎ方がまるで分からない。


「いや・・・・・・大きさがぴったりになったのはいいのか?」


 しばし思考。


「いや、やっぱり良くない・・・・・・!」


 散々得体の知れないもので痛い目を見ているのだ、ついさっき。

なんとしても、これは脱がなければならない。


「こんの・・・・・・!」


 鎧の隙間に指を滑り込ませようとするが、ぴったりフィットすぎてただ指が痛くなるだけ。

豊満な乳でもあれば隙間も出来たのだろうが、あいにくの幼児体系・・・・・・というか普通に実年齢が一桁だ。

たぶんだけど。


『・・・・・・!! 根本的異常を検出。装着者が魔族である可能性大。検証中・・・・・・』


「ぐぎぎぎぎ・・・・・・! はずれろぉ〜・・・・・・」


『状態異常・魔族化をシミュレーション。検出された異常の大部分を説明可能。装着者が勇者であるか否かを再定義』


 なんだか分からないが、なんとなくマズそうな雰囲気を感じて焦る。

なんか・・・・・・たぶん気のせいだけど接してる皮膚の部分が痛い気がしてきた。


『・・・・・・勇者が魔族化した場合を想定。魔力量及び身体能力の上昇を計算。結論・・・・・・魔族化を想定した場合の勇者との一致率・・・・・・100パーセント。装着者を勇者と認定、全ての機能が使用可能になります』


 まだ何か話し続けている。

いいかげん気味が悪いし、本当にどうにかしてほしい。


「くそ! いったいどうやったら脱げるんだ!!」


 怒りを剥き出しに叫ぶ。

独り言は達者な癖に、こっちの声にはまるで答えてくれない。

というか・・・・・・。


「ぁえ? 黙った・・・・・・?」


 あれ以降何も言葉を発さない。

何が起きたか分からないが、何かが終わったみたいだった。


 急に押し黙るものだから、逆にそれはそれでなんか不安になる。


「・・・・・・」


しばらく何か言わないか待ってみる。


「・・・・・・おい。これ」


 指で鎧を突っついて急かしてみる。


「・・・・・・」


 何も起きない。

ただ一つ確かなことは、どうやらこれを脱ぐ術は無さそうだということと、とりあえずはなんか大丈夫そうということだ。

二つじゃんか。


 さっきまで慌ててたのがバカみたいだ。

勝手に騒いで勝手に疲れてしまった。


「ふぅ・・・・・・」


 額の汗を拭って一息つく。

そしてとりあえずは当初の目的通り木陰の何かを見に行くことにした。


「全く! なんだったんだ!」


 さっきの怒りがまだ収まらないままずかすが歩く。

そして何歩めかを踏み出した瞬間・・・・・・。


『半径5メートル圏内に勇者の剣を検知』


「うぎゃあ・・・・・・っ!?」


 また鎧が喋った。

全く予期していなかったから心臓がバクバク鳴る。

危うくそのまま卒倒しかねなかった。


「・・・・・・ま、まったく! 驚かしおって!」


 さっきから勇者勇者と・・・・・・いったい誰が勇者だって言うのだ。


「ん? いや・・・・・・」


 辺りをぐるーっと見回す。

もちろんそこには誰もいない。

誰かが居ればこんなに困ることもなかっただろう。


「これはまさか・・・・・・」


 ワタシか、勇者・・・・・・?

冷静になって思い返してみれば、この鎧はずっとワタシが勇者かそうじゃないかというのをべらべら喋っていた。

そして認めたのだ、ワタシを勇者だと。


「・・・・・・いやいやいや、流石に・・・・・・」


 ないないない。

そんなことがあるはずない。

あまりにもバカバカしい。

でもこの状況は始まりから既にバカバカしい。


 本当なのか?


 それを確かめるために、答えを求めて木陰の何かへ向かう。

歩み寄れば、そこには縦向きに両断された4メートルはありそうな鎧が横たわっていた。


 真っ黒で重厚、兜には禍々しく捻れたツノが生えている。

なんだか微妙にかっこいいと思ってしまうが、まぁまず間違いなくワタシのものではないだろう。


 そしてその鎧の直ぐそばにあるのが・・・・・・。


「これが、勇者の剣・・・・・・なのか?」


 チェストプレートと同じように刃の部分に溝が彫られた一振りの剣。

使い込まれているようで、その表面には細かな傷がたくさんついている。

刀身の真ん中の部分に切れ込みがあり、その隙間から複雑な内部構造が覗けた。


 明らかに普通ではないその剣を拾い上げる。

するとまた鎧が喋り出した。


『勇者の剣を確認。情報を共有。勇者の剣は既に使用可能な状態です』


「・・・・・・」


 その言葉を、今度は静かに聞きながら勇者の剣に魔力を流し込む。

すると勇者の剣も、鎧と同じ調子で声を発した。


『勇者の記憶異常を確認、ただちに問題に対処。勇者は剣身から発せられる魔力光に従って移動してください』


「な、なんだ? 魔力光・・・・・・?」


 何をどうすればいいのかさっぱり分からない。

だが、すぐにその意味を理解する。

勇者の剣から真っ直ぐに一筋の光が伸びたのだ。


 ワタシは、この光を追えばいい。

そうしたら、きっとその先には何かあるはずだ。


 まだ理解が追いつかないところは多い。

けれども、進むべき道ははっきりした。


『魔力光の追跡対象・リベラ。勇者は速やかに光に従ってください』


 勇者の剣の声に導かれるまま、鬱蒼とした森の中へ歩みを進めていった。

次回もよろしく!!!!!!!!!!

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