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決戦

読んで!!!!!!!!!!

 人類と魔族、その争いの歴史は長い。

もはや戦いの始まりなど誰も覚えてはおらず、今や戦場に渦巻く負の感情が戦意の薪となっている。


 そんな長きに渡る戦争の歴史に、今終止符が打たれようとしていた。



 熱を持った痛みが体を駆け巡る。

目立った外傷は無いが、手脚は細かな傷だらけだ。


 明らかに消耗している。

平時は軽々と振り回していた“勇者の剣”も今は重たく感じる。


 だが、消耗しているのは僕に限った話ではない。


 長い旅路の末、遂に訪れた決戦の時。

数時間に渡る戦闘の末、相対する魔王もその鎧を完全に打ち砕かれていた。


 漆黒の巨大な鎧の中から姿を現したのは、まるで子供のような少女。

今までこのような少女に翻弄されていたのかという思いも湧き上がるが、少女から溢れる禍々しい魔力が決して魔王は見た目通りのか弱い少女などではないということを思い知らせてくる。


 生物としての格が違う。

単純な身体能力なら人類は魔族に遠く及ばない。

魔法の技術も、人類が使う魔法は魔族の操るそれの模倣でしかない。


 その歴然の差、圧倒的な壁を越えるのが僕なのだ。

勇者は、この壁を越えねばならない。


 お互い、負ったダメージや疲労は自覚している。

決着間近。

あと数秒で、雌雄は決する。


「ほう・・・・・・? まだ倒れぬか。勇者の名は伊達ではないようだな」

「・・・・・・そう簡単に倒れられない理由があるからね」


 痛む関節に無理を通して、勇者の剣を構え直す。

それを見た魔王は嘲笑うかのように頬を歪ませた。


「ふっ、キサマがこのワタシを倒そうなどと・・・・・・1000年は早いわっ!」


 魔王の魔力が大きくうねる。

月明かりが大地を濡らす夜に、魔力を孕んだ風が轟く。


「覇王大剣・ユートピア」


 魔王がそう唱えると、魔力が信じられない密度で凝集して魔王の小さな体躯に見合わない巨大な剣を作り出した。


 闇さえ吸い込んでしまうような漆黒の大剣。


「ゆくぞ、勇者よ・・・・・・!」


 来る・・・・・・そう思ったときには、既に弾丸のような勢いで魔王が懐に飛び込んで来ていた。


 厳しい訓練で鍛え上げられた反射神経でその一撃をなんとか受け止めるが、衝撃は殺しきれない。


 突風のように襲い来る魔力の圧に、受け止めた勇者の剣が軋む。

踏ん張った脚は地面を抉り、それでも尚数メートルほど滑った。


 この一撃は凌いだ。

だが、魔王の追撃は早い。


「もらった! 必殺・魔王斬り・・・・・・!!」


 魔王が勝利を確信した笑みを浮かべる。


 壊滅的なネーミングセンスで叫んだその瞬間、再び魔力のうねりを感知する。


「・・・・・・ここだ」


 突くとすれば、この瞬間しかない。


 魔力に動きがある瞬間、すなわちあの魔法剣がほつれるタイミング。

いくら魔法のエキスパートである魔王と言っても、どうしても起こってしまう現象を無くすことは出来ない。


 勇者の剣に既に枯れかけの魔力を流し込む。

それは勇者の剣の内部構造に伝わり、刀身から覗ける細かな歯車を駆動させた。


 魔王の大剣が、暴力的なまでに巨大化する。

あの刃が僕に到達すれば、恐らく死体すら残らないだろう。


 けど、それはごめんだ。

“彼女”に弔ってもらうのが、僕の最後の喜びなのだから。

この体くらいは残したい。


 魔力の行き渡った勇者の剣から蒸気が噴き出す。

その蒸気を一瞬のうちにかき消す勢いで、魔王に向かって跳躍した。


「うぐ・・・・・・っ!?」


 魔王の腹部に僕の肩が食い込む。

そして未だ魔力が安定していない魔王の刀身に向かって突きを放った。


 形を変えている最中だった漆黒の大剣に、勇者の剣の切っ先が突き刺さる。

巨大な魔力の流れを、僕の突きが一点突破したのだ。


「キサマッ! 自分が何をしたのか分かっているのか!?」

「分かってるとも」


 大剣の形に圧縮された膨大な魔力。

それが制御を失うのだから、何が起こるのかは明らかだ。

すなわち・・・・・・。


「・・・・・・猛烈な爆発が起こる」

「コイツ・・・・・・はなから共倒れのつもりでッ!?」


 魔王がやっと僕の狙いに勘付く。

だがもう遅い。

“それ”は既に始まっている。


 大剣を成していた漆黒の内側から、光が溢れる。

それは一瞬にして視界を埋め尽くした。


 強風のように吹き抜ける魔力の奔流。

あまりの激しさに、体がそれを熱とも衝撃とも認識しない。


 全身がバラバラになりそうだ。

これでもそのまま“魔王斬り”を食らうよりはマシなのだから、もはや笑えてくる。


 これで、これでもし僕が死んでも・・・・・・魔王の体もまた無事では済まないはずだ。

僕が死ねば、仲間にも自然と知らせが行く。

魔王と言えど、満身創痍では“あの二人”には敵わないだろう。


 ドカッ・・・・・・と、魔力の爆発で焼けた地面に体が叩きつけられる。

正直助かる見込みはほとんどないはずだったが、しかしなんとか生きていた。


 勇者の剣を杖代わりに、よろよろと立ち上がる。

視界は正常でないが、失明は免れていた。


「・・・・・・いや、違う。単なる幸運で生きてるわけじゃないな・・・・・・」


 恐らく、魔力の爆発があの一瞬で多少なりとも制御を取り戻した。

それによる威力の減衰だ。

そしてそんな芸当が可能なのは・・・・・・。


「やれやれ・・・・・・流石に今のは少し効いたぞ・・・・・・」


 魔王が爆心地でふらふらと立ち上がる。

大剣を握っていた右腕はその機能をほとんど失っているようで、力無く垂れ下がっていた。

食いしばった歯の隙間からは、苦しそうな息を漏らしている。

それは僕も同じか。


 恐らく魔王は今の容態ではまともに魔力を練ることが出来ないだろう。

お得意の魔法は封じたわけだ。


 勇者の剣の切っ先をずるずる引きずって、魔王の方へ歩み寄る。

魔王は苦痛に表情を歪めながらも、その細い左腕をこちらに突き出した。


「・・・・・・なんだ?」


 まともな魔法など既に扱えるはずがないのに、魔王の体内で魔力がうごめくのを感じる。

その流れ方が、よく分からない。

魔法・・・・・・ではない。

知らない何かを使おうとしている。


「いや・・・・・・今更か・・・・・・」


 こういった常識が通用しない怪物だから、魔王たり得るというものだ。


 こちらは手の内を全て明かしている。

ここに来て未知の攻撃に対処するのは、ちょっと僕には無理そうだ。

だから・・・・・・やられる前にやる。


 覚悟を決めて、走り出す。

全身が悲鳴をあげるが、その苦痛すら踏みにじって無理矢理駆ける。

魔王への距離を埋めていく。


 だが、無慈悲にも魔王の最後の切り札は放たれた。


 魔王の手のひらから溢れた光が、僕の体を包み込む。

ところがその光は、ダメージをもたらさない。

それどころか・・・・・・。


「・・・・・・!?」


 痛みが消えていく。

傷が癒えていく。

どんな回復魔法よりも早く、体が元に戻っていく。


 何をしたのか以上に、魔王の意図が分からない。

しかし、それについてはすぐに察することになる。

なにせ、自らの歩みがあまりにも遅いのだから。


 何故だ?

何故距離が埋まらない?

何故魔王があんなに遠い?


 傷は癒えたはずなのに。

苦痛も既にどこにも無いのに。


 魔王が・・・・・・いや、待て。

魔王があんなに大きかったか?


 幼い子どものようだった魔王の身長がどんどん伸びていっているように感じる。

見下ろしていたはずなのに、いつのまにか目線が同じくらいの高さに・・・・・・。


 いや、それも違う。


「これは・・・・・・」

「ふふふ、やっと気づいたか阿呆めが」


 魔王が大きくなっているのではない。

僕が小さく・・・・・・いや、幼くなっていっているのだ。


 道理で・・・・・・道理で距離が縮まらないわけだ。

この短い脚では、普段のような速度が出るはずもない。


 僕の体の退行は止まらない。

勇者の剣も、この体にはあまりにも重すぎる。

気がつけば魔王より目線は下だ。


「フハハハハ! そのまま胎児になって死ぬがいい!」


 魔王が高らかに笑う。

実際、このままでは間に合わない。

何より、このまま死んで仕舞えば恐らく最終的に遺体は残らない。

それは・・・・・・嫌だ。


 何か、何か手はないのか。

悔しさで勇者の剣を握りしめる。

今の魔王は無防備、一太刀でも浴びせれば倒せるんだ。

だったら・・・・・・。


 一か八かの賭けにでる。

すっかり弱くなってしまった力で、それでも精一杯勇者の剣を持ち上げる。


 この状態での投擲が、命中するかは分からない。

だがこのままではこの剣を投げることすら叶わなくなってしまう。

だから・・・・・・。


「とどけ・・・・・・!」


 それは祈りだった。

生まれてこのかた神を信じたことはなかったけれど、この瞬間ばかりは縋らずにはいられない。


 全身を使って、勇者の剣を投擲する。

祈りが通じたのか、それは想定以上の威力を持って宙を舞った。


 回転しながら、刀身は魔王に迫る。

そして・・・・・・。


「うがっ・・・・・・!」


 それは魔王の頭にクリーンヒットした。

勇者の剣の・・・・・・柄が。


 その衝突により魔王は気絶したのか、不恰好にバタリと倒れる。

幼児退行光線も、魔王が意識を失うのと同時に止まった。


 一瞬の喜び。

しかし喜んでいる場合ではない。

早く魔王にとどめを刺さなければ。


 魔王に命中した勇者の剣は、魔王の体の向こう側まですっ飛んでいってしまっている。

魔王の意識が回復する前に、なんとしてもあれを回収して魔王に突き立てねばならないのだ。


 しかし。

しかし、どうして・・・・・・。


「どうして、退行が止まらないんだ!」


 ここでどうしてなどと嘆くのはあまりにも不適切。

それはそういうものだとして受け入れるほかないのだ。


 もはや二足歩行がままならない。

必死に地面を這って、勇者の剣を目指す。


 短い指で土を掻いて、魔王の体を踏んづけて、剣を求める。

そしてやっと指先がそれに触れた。

のに・・・・・・。


 持ち上がらない。

引きずることも叶わない。

それどころか、僕の体重が干渉したのと地面の微妙な傾斜で魔王とは反対方向に刀身が滑っていってしまう。

乳児と化した僕を引きずって。


 最後に刀身が何かに衝突する金属音を聞く。

衝撃が伝わり、僕の手は刀身から離れた。

そして、僕の意識は霧散していった。

次回もよろしく!!!!!!!!!!

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