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救世主はいつも突然に

 ――どうする? 流石にあいつを相手にするのは無理だぞ。

 オーガはこちらの様子を見ているのかその場から動かない。それに対し、晃は心の中で逃げる方法をシュミレートしていた。だが、どう作戦を練っても待ち受けるは――”死”

 「無理だよなー。ここでまた(・・)死ぬのか……」

 また、と言った彼。それは以前、死んだとでも言わんばかりの言い方だった。

 ――せめて――”透明化”が使えれば……な。ただ、見られちまったもんな。はぁー……おとなしく五分間、目を瞑ってて貰えないかな。

 透明化とはホブゴブリンを相手にした時に使用していた能力なのだろうか。心の中で自分の願望を愚痴るが、オーガは晃から視線を外さず、猛禽類のような瞳が瞬き一つせず晃を見ている。それのせいか、心の中で透明化と呼ばれる能力が使えないと愚痴をこぼす。

 「はぁー……諦める――」

 大きく息を吐き出す。力なく生を諦めたように口を開いた。

 「……訳ないだろ! リーダーが来るまで簡単に死ねるかっ!」

 晃はオーガを真っ直ぐに見据えると、腰からナイフを取りだし逆手に持つ。左足を一歩前に、右肘を腰に当て左手を顔の前に構えを取ると、息を吸い込み大きく吐き出し心を落ち着かせた。

 「グゥ――ルルルッ!」 

 晃の姿を見てオーガは笑う。しかし、嘲笑するような笑い方ではなく、どちらかと言えばこれから起こる戦いを楽しみにしているような、好戦的な笑いである。どこからでもかかって来い、と言わんばかりに腕をだらりとしたまま構え一つ取る事をしなかった。

 「――シッ!」

 戦闘狂と言う言葉があっているのだろう。晃が動き出したのを見て微動だにしない。ならばと、油断している好機を逃がすまいと、晃は一気にたたみかけた。

 跳躍し体を時計回りに回転させる。遠心力を最大限に生かし、右手に持つナイフで首を斬りつけた。

 「ぐぅっ!」

 しかし、声を漏らしたのは晃の方だった。鎧のような筋肉は見た目通りの強度を誇っていた。鉄のような高度を誇る皮膚は刃を通さない。それどころか、刃の一部が大きくかけてしまう結果となった。

 斬りつけた手に電気が流れたような衝撃が走ると、晃はナイフを手放しそうになる。だが、歯を食いしばって耐えた。

 「――はあっ!」

 着地するとすぐに次の行動に移る。オーガの胴体に向かって、足の裏で土手っ腹目掛けて突き出すように蹴りを放つ。しかし、オーガは避けようとも防ごうとせずまともにうけた。

 「ハァーッ」

 すると大きくため息を吐くように、息を吐き出し首を横に振った。まるで期待はずれだった、と言わんばかりだ。ガシガシと頭をかくと仕方なさそうに動きだした。

 「グゥアッ」

 諦めることなく攻撃を続けていた晃、左手でオーガの腹目掛けて突きを放つ――

 「――なっ!」

 軽々とオーガに手を掴まれてしまった。

 「離せっ!」

 どうにか抜け出そうとするが微動だにしない。

 「ガァッ!」 

 「え? ――あ……ああ……あぁぁああっつ!」

 ぐちゃ――バギ、と人体から聞こえてはいけない音が――。処理落ちしたパソコンのように晃はフリーズする。転瞬の間、まばたきをするより時間は短かったかもしれない。思考が現実に追い付くと、晃の顔がみるみる青ざめ切り裂くような悲鳴を上げた。

 「放せっ! 放せっ! くそったれ!――放しやがれっての!」

 顔は涙と鼻水で汚れぐしゃぐしゃになりながら、どうにか脱出を試みる。

 「グアッ! アッアッアッ!」

 それを見てオーガは笑う。鋭い爪先を晃の肘に当てる

 「おいっ! 辞めろっ!」

 鋭い爪を左手の肘の部分に添えた。オーガが何をしようとしているか気づいた晃だったは抵抗を試みるが、それも虚しく――

 「イギ――アアァアアアッ!」

 オーガはゆっくりと晃の腕に向かって近づける。ぷつんっと何かが弾ける感触がしたと同時に、何か熱いものをむりやり当てられたような激痛が走った。断末魔のような晃の悲鳴、じりじりと腕の中心まで爪が食い込むと、引っ掻くように指を一気に動かした。

 戦意を喪失させるためなのか、格下と分かって遊んでるだけなのか、そのどちらもなのか……オーガは切断した腕をゴミを捨てるが如くほうり投げると、晃を蹴り飛ばす。

 「ぐふっ……」

 建物の壁へと激突し力なく崩れ落ちる。

 「グギャッギャッ!」

 散り散りに逃げていったであろうゴブリン達が集まりだした。

 「グガァ」

 ゴブリン達に何か話をしている様子。その中で、一体のゴブリンが深々とお辞儀をすると晃の元へと近づいてきたのだ。

 「グギャッ! ギャッ!」

 「なんだ……ごほっ、あぐっ……。近づいてくんなよ――くせぇんだよ!」

 「――ギィッ!」

 左手を失いとめどなく血が流れる。オーガの蹴りで内臓にもダメージを負ったのか、激しく咳き込み血の塊を吐き出した。

 近づいてきたゴブリンの目的は、晃の命を喰らいに来たのだろう。思うように体を動かせない晃は、ゴブリンの鋭く尖った牙に肉を食いちぎられ――殺される。絶望の色に染まった瞳、助けてと懇願する事を想像していたゴブリンだったが、晃はその顔に唾を吐きかけた。死ぬと分かっていても気丈に抵抗を見せる。

 「グギャギャギャッ!」

 目を血走らせ激昂したゴブリン。

 「――ざまあみろ」

 晃は笑う。

 わなわなと怒りを露わにしたゴブリンは晃の頭を押さえ、喉元をむき出しにする。口を大きく開けるとぬちゃりと唾液が糸を引き、鋭く尖った歯がビッシリと並んでいる。歯並びこそキレイだが、黄ばんだ歯に体臭よりも更に臭い。致命傷に到らなくても何かしらの病原菌に感染しそうである。それを剥き出しの喉元に近づけ、肉を食いちぎろうとした。

 「血液操作――空斬り(そらぎり)

 「――ギィッ?」

 目に映るのは自分の体。何が起きた理解できなかったようで、ゴブリンは間抜けな声をあげる。胴体から離れた頭部はすぐに役割を終え、ゴブリンは事切れてしまった。

 「リーダー……待ってたぜ」

 「遅くなってすまない。てか、リーダーは辞めろよな。とりあえず……これ飲めるか?」

 「ポーションか?」

 「それも特濃の奴な」

 蓋の空いたビンを受け取る。

 「悪いな……宗田(・・)。残りのポーションは何本だ?」

 「特濃は今のが最後の一本。まぁ、1ヶ月もあればまた作れるから気にするな」

 晃に渡したポーションは貴重な物だったようだ。申し訳なさそうな表情をする晃だっだが、さっさと飲めとはやし立てる。

 渋々と口元に運びポーションを飲み干した。すると、すぐにその効果が現れたのだ――失った腕が根元から生えてくる。最初に骨、次に神経、筋肉、とまるでテープの逆再生を見ているようである。晃は痛みは感じていないようだが、体の中を弄られているようで気持ち悪そうにしていた。

 「うへー、気持ち悪る」

 「どうだ?」

 「大丈夫。問題ない」

 失った手を、閉じたり開いたりと動かし問題無いことをアピールする。安心したように胸を撫で下ろすと、すぐに晃に対し指示を出した。

 「晃は隙を見て逃げろ。向こうに唯が居るから合流してくれ」

 「了解。って、生存者は無事なのか?」

 「あぁ、唯が保護してる」

 「それは良かった」

 晃はほっと胸を撫で下ろす。宗田は晃から視線を外すと、少し離れた所に集まっているゴブリンを見た。何体かのゴブリンは宗田を見て、肩を震わせる。中には腰を抜かして尻餅をついた者までいた。今にも逃げ出しそうなゴブリン達。

 そこに、怪我が治った晃は先ほど宗田が葬ったゴブリンの顔と頭を放り投げる。

 「――ヒッ!」

 我先にとゴブリン達は逃げようとするが。

 「――グォアアアッ!」

 オーガがそれをさせない。ゴブリン達に何かを言ったのだろう。逃げようとするゴブリン達は足を止め、宗田を見た。

 むりやり、ゴブリンに言うことを聞かせたオーガだが、腰が引けた状態で戦意はほとんどない。自分の仲間を糸も簡単に殺した宗田に畏怖したように動きがぎこちなかった。

 「さて――仲間に手を出した報いを受けてもらおうかな」

 宗田は右手を前に突き出すと、

 「血液操作――唐紅(からくれない)の剣」

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