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衰退した人類

 ――人類は衰退した。

 地球上で繁栄した姿は過去の話。

 かつて、存在した科学。テレビにゲームにインターネット、ありとあらゆる物は機能を失い、何も役割を持っていないオブジェクトと化してしまったのだ。

 それもこれも原因は一つ――魔王。

 地球を支配していたと言っても過言でない人類を窮地に追いやり、今や絶滅危惧種と言ってもいいだろう。

 ――――――

 ――――

 ――


 「――おい! こっちだ!」

 崩れかけた壁の間から叫ぶ。かつて何かのビルだったのだろう。今や見るかげなく、コンクリートの壁にはヒビが入り、土に汚れ、見たことない植物が這うように巻き付いていた。極め付けはその建物の中心、腹を食い破るかのように木が突き出し緑の葉を生やしている。本来ならこの寒さで枯れているはずが、堂々とした緑を主張していた。そこに、さんさんと雪が降り積もりおかしな感覚を醸し出している。

 そんな廃墟と化した建物に、身を貸すように立っていた。フード付きのダウンジャケットを着用し、暗闇に溶け込む姿は怪しい人物に見える。近くで見ると相当使い込んだのか、つぎはぎだらけのみすぼらしい姿であった。平時であれば近づくのを拒みたくなるような姿。しかし、声をかけられた人物にはそんな余裕がない様子だった。

 「はあは……ぁっ。助かった」

 逃げていた人物も息も絶え絶えと言った様子。謎の人物の声に従い、廃墟となったビルへと向かったようである。

 「無事で何よりだ。無事なのはこれで全員か?」

 謎の男は逃げてきた人達(・・)を確認すると、そう声をかける。フードを被っているため、顔を確認する事は出来ないが、声から察するに男と言う事は分かる。

 「ああ……」

 何とも歯切れ悪く返事をする。

 「そうか」

 謎の男と話している人物は40代くらい、この中で年長者であるようだ。彼が代表として謎の男と話をしていた。彼以外は子供とまだ若い女性に高校生くらいの少年が二人。五人でここまで逃げてきたようであった。

 「いや、本当に無事で良かった。他に生存者が――」

 謎の男が話し終える前に生存者と言うワードを聞いて、全員の表情に影を落とす。失言だったと慌てて口を閉ざす。

 「ママ……パパは?」

 一緒に逃げてきた女性はこの子供の母親なのだろう。顔をくしゃくしゃにし、今にも大粒の涙が溢れそうになっていた。年の頃は5歳くらいだろうか、母に抱きつき父の安否を心配しているようである。ただ、子供の願いが叶わないと言うことは、母の行動から察する事ができた。無言で子供を抱きしめている。だが、その背中を見ると小刻みに上下し震え、感情が溢れるのをこらえているようである。

 「みーちゃん……大丈夫だからね。ママが側に居るからね」

 静かな夜。母の言葉が避難した空間へと染み渡る。全員が何も話せず、それを見守る事しかできなかった。魔王はこうして人々の平穏を奪う。

 そして、今も――

 「グギッ、ギャッギャッ!」

 その声は薄汚く汚れていた。何よりも汚く、獰猛で下品に、何かを楽しんでいるような声色。全員がはっと身構える。

 「とりあえず、奥に」

 複数の声が聞こえる。何か会話をしているような、それともただ鳴いているだけのような、ただ、そのどちらも俺達(獲物)を探しているかのようである。

 謎の男は急いで中へと誘導する。

 「ここなら……大丈夫か」

 ギイッと建て付けの悪くなった扉を開ける。中は誇り臭く、カビのような臭いがする。部屋の中心には長いテーブルが一つと、黒い皮でできた椅子が四つ並べてある。そのどれもが時間の経過を感じさせるように色褪せホコリを被っていた。

 居心地は決してよくないが、四方を囲まれた事で少しは安心出来るだろう。その場にへたり込むように座り込んでしまった。

 謎の男はそっとその場を離れて、入り口へと移動する。

 「たく、俺はあんまり戦闘が得意じゃないってのに」

 皆に聞こえないように小声でぼやいた。助けたはいいが、戦闘は苦手のようでこれからどうするか考えているようだった。

 「探してやがるな。やっぱり……臭いか。リーダーの言ってた事は正しかったのかもしれない」

 扉に近づき聞き耳を立てると、まだ物音がする。逃げていた獲物を探しているのは明白、臭いに敏感となればここも見つかるのも時間の問題かと、ポケットから手の平サイズの石のようなものを取り出した。

 「あー、こちら高梨 晃、リーダー聞こえるか?」

 謎の男は高梨(たかなし) (あきら)と言うらしい。それは、宝石のように緑輝く石に向かって話しかけていた。あたから見れば可笑しな人に間違われてしまうだろう、だけどその石から人の声が聞こえた。

 「聞こえるぞ。どうだ? 何か見つけたか?」 

 それはスマートフォンのように、高性能な機能が着いている訳じゃない。ただ、会話が出来るだけ――例えるならトランシーバー。仕組みはいったいどうなっているのか不明、音質もよくないが話すだけなら十分に機能を果たしている。

 その通信機から返答があったことにほっと胸を撫で下ろすと、再び晃は話を続けた。

 「ああ……生存者を見つけた」

 晃がそう言うと、石の向こう側でざわめきが聞こえた。リーダー以外にも複数人の声がする。

 「ただ、敵に追われてる。敵の規模は不明。至急応援を求む」

 「――分かった。すぐに行く」

 そう言うと、晃は胸から何か紙を広げる。

 「場所は……大通りの肉屋の向かいのビル。今はまだ見つかってないが、リーダーの言う通り臭いに反応している可能性がある」

 それを伝えると、今広げた物を全てしまう。すると、一人がこちらに近づいてくる。晃より身長が少し大きく、肩幅も広い。白髪混じりの髪をオールバックにまとめ、ヒゲを生やしていた。鋭い眼光で晃を見ると、晃たじろぎそうになる。凶悪な面構えの人物は逃げきた当初に話していた人物であった。

 すると突然、深々と頭を下げてきたのだ。

 「すまない。本当に助かった。何とお礼を言ったらいいのか」

 晃はこう言う場面になれていないのか、どうしたらいいか分からない様子であたふたとしていた。

 「あー、なんだ……。こんな世界なんだし気にするな」

 晃はフードを取る。

 「俺は高梨 晃だ。おっさんは何て言うんだ?」 

 「おっ、おっさん……ごほん。私は高野(こうの) (しげる)だ。よろしく頼む」

 「こちらこそ、よろしく」

 晃もそう挨拶を返す。

 「思ってた以上に……若いんだな」

 無造作に伸ばされた髪が、左目を隠し、顎にはうっすらと控えめにヒゲが生えている。10代には見えない。恐らくは20代半ばから後半くらいだと思う。フードを取った姿を見た茂はそう言った。

 「まあな。んで、おっさん悪いがそのお礼はまだ受け取れない」

 「ん? どう言う事だ」

 「あいつらはまだ俺達を探しているんだ。全員が無事逃げれたらちゃんと受け取るぜ」

 探していると言う言葉に、皆が一様に反応する。

 「ヤダ……怖い!」

 女の子が母親にしがみつく。

 「お嬢ちゃん。大丈夫だ。俺の仲間が助けに来てくれるから。とっても強いんだぞ――なんたって、ヒーローだからな」

 「うぅ……本当に?」 

 「ああ、本当だ。それに俺も少しは戦える。多少の時間稼ぎはしてやるさ」

 晃は泣きじゃくる子供にそう伝えると、顔中が涙と鼻水に汚れているが、どうにか泣き止んだようである。

 「助けは来るのか?」

 「もちろんだ。後五分もしない内に来ると思うぞ。そしたら、絶対に命は助かるぜ」

 晃は自信満々にそう答えると、懐疑的な部分もあるようではあったが、安心した様子を見せた。

 「それなら――」

 「――少し静かに」

 茂の言葉を遮るように、晃はそう言うと扉の近くから物音が聞こえる。

 「グギギッ! ギギ……ギ? グギャッギャッギャッ!」

 すると突然、奴らが騒ぎ出す。

 「――見つかった!」

 晃が声を上げると、扉を強く叩かれる。

 「おっさんは窓から皆を逃がしてくれ」

 「だけど晃くんはどうするんだ!?」

 「俺の事はいい。少しだけ時間を稼ぐから、仲間が来るまで何とか逃げろっ!」

 激しく脈動するかのように扉が揺れる。降り積もったホコリが宙に舞い、吸い込み咳き込みそうだった。だけど、この扉を破壊されれば一気になだれ込んで来ると、晃はどうにか体全体を使って押さえていた。

 「……分かった。無事でいてくれよ」

 「ああ! おっさんもな!」

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