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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

シャッターの中に閉じ込めて ーTNstory

作者: 伊原みい

秋の嵐山にはじめてきた。ラッキーなことに、ぎりぎり間に合った紅葉シーズン。半分は仕事、半分はプライベート。仕事もあるとはいえ、気心の知れたメンバーで、とくに隠すことも隠れることも必要ない。俺にとっては、ちょっとしたご褒美。


京都にくる数日前、あたたかいと聞いていたのに、今日はぐっと冷えこんでいる。俺は、上着の前をきつくしめた。


その分、空気がすんでいて、息を吸うのが気持ちいい。


隣を歩く、ネオの表情も普段よりもだいぶやわらかくて、それも俺の気持ちを上げる理由の一つ。ここのところ、ネオの忙しさは尋常じゃなかったから、ゆったりとぽやぽやした雰囲気をまとうネオを久しぶりに見た気がする。


紅葉はすでに終わりかけ。残された濃い色がより鮮明に視覚に迫ってくる。ビビットな赤や黄色と古い人工物とのコントラストは新鮮で、俺は歩くたび、景色が変わるたびにカメラのシャッターを切ってしまう。深呼吸をして、景色を眺めて、写真を撮影する。自分の大好きなことを思う存分できるなんて。


ネオも、口では「もう、いいでしょ」といいつつも、俺の撮影につきあってくれる。表情から判断するに、ネオもこの時間を楽しんでくれていると思う。でも。


「ネオ。さすがにその格好は寒いだろ。風邪ひくぞ」

今日は真冬の寒さだとテレビから流れていたのに、Tシャツ一枚で歩くのはさすがに心配だ。


「寒さ、感じてるの。気持ちいいからもう少しこのまま」

日頃から暑がりなネオ。ベビーフェイスとは裏腹にマッチョなトレーニング好きは、筋肉量が俺とはちがうことは理解しているつもり。でもさすがに、薄着すぎるだろ。


「そういってこの前も体調崩してたから。もう少ししたら、上着きて」

4年前、薄着で過ごした12月。同じことをして、その後、しっかりと風邪をひき予定変更を迫られた。体力お化けでも風邪はひくんだよ。きっちりとした性格なのに、なんで自分のことになると先が見通せないのか、俺には謎でしかない。が、それがネオという人間でもある。頑固者はどうせ、俺の言うことなんて聞かないのも知ってるけど、体調を崩すネオも見たくない。


「寒いんだろ。鼻の頭が赤いよ」

大丈夫、と答えたネオの頬を俺は両手でおおった。冷え切ったほお。あたためたくて思わず手をのばしたのだが、ネオと目が合って、ドキリとする。至近距離で見つめ合い、俺の鼓動が早くなった。


ネオの方も。いつもなら「そんなのいい」といって、俺の手を払いのけそうなのに、今日は払わなかった。


俺を映すネオの瞳に、吸い込まれそうになる。ネオの瞳はいつも素直な色をともす。瞳に映る俺への想い。言葉にはされないその気持ちが、じんわりと心に迫ってくる。愛おしくなると同時に、切なくもなった。誰にも渡したくない。この瞳がずっと俺だけをみていてくれればいいのに。


ネオがふわっと笑った。

「キスするの?」


「まさか。人前で」

考えても見なかったことを言われて俺の方が焦って、手を離してしまった。もっとネオの瞳を見ていたかったのに。ネオはもう俺に飽きたのか、ぷいっと横を向いてしまった。


俺は、持っていたカメラで、シャッターを切った。紅葉を見るネオの横顔。こんな自然なネオの表情を撮影したのはいつぶりだろう。いつも、ネオはカメラを向けると、きちんとポーズをとるから。自分の魅力がよくわかっているネオ。ポーズをとる姿はもちろんかっこいいし、かわいいけれど。


こんな柔らかい顔をした写真を撮れるのが、俺だけだといいな。


どんな表情も俺だけに見せてほしいという独占欲。言葉にはしないから、ネオは気づいていないかもしれないけど。こうみえて俺は独占欲が強いんだよ。いや。ネオのことだから気づいているかな。なんでもお見通しだから。俺はネオにもう一度手を伸ばした。


「やっぱりする」

驚いた顔をしたネオの顔を引き寄せる。この顔を見せるのも俺だけでありますように。

願いを込めて、君にキスを。




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